13 / 49
第1章
第13話 圧城という壁
しおりを挟む
三回戦。
県大会をかけた一戦だった。
対戦相手の名前が呼ばれた瞬間、
青陵中の空気が、わずかに変わった。
圧城中学校(あつしろちゅうがっこう)。
地方大会では、
常に上位に名を連ねる学校。
突出したスターはいない。
だが、どの番手も崩れない。
積み重ねてきた時間の差が、
そのまま形になっているチームだった。
試合前、
相手ベンチに一人の老人が立っていた。
背中は少し丸い。
だが、立ち姿に隙がない。
圧城中の監督。
この地区では、
知らない人はいない名将だった。
三枝コーチは、
少しだけ歩み出た。
深く頭を下げるわけではない。
だが、視線はまっすぐだった。
「本日は、よろしくお願いします」
老人は、
一瞬だけ三枝コーチの顔を見る。
そして、
ほんのわずかに目を細めた。
「……君は、三枝さんのところの子だね」
三枝コーチの動きが、止まる。
「学生の頃、
よく名前を聞いたよ」
声は静かだった。
探るようでも、懐かしむようでもない。
事実を確認するだけの声。
三枝コーチは、
短く息を吸ってから答えた。
「はい」
それ以上は言わない。
自分が、
どんな選手だったか。
どこまで行って、
どこで止まったか。
この場で語ることじゃない。
老人は、
それ以上踏み込まなかった。
「現場に戻ったんだね」
それだけ言って、
静かにベンチへ戻る。
佐藤 優真(さとう ゆうま)は、
少し離れた場所から、そのやり取りを見ていた。
言葉は少ない。
でも、
そこに流れていた空気が、
ただの挨拶じゃないことは分かった。
――この人たちも、
戦ってきたんだ。
違う場所で。
試合が始まる。
①シングルス。
堀口 隆(ほりぐち たかし)が入る。
相手は、圧城のエース。
無理をしない。
でも、逃げもしない。
第1ゲーム、7―11。
第2ゲーム、8―11。
堀口は、
何度も仕掛けた。
だが、
相手は崩れなかった。
第3ゲームはデュース。
10―10。
そこから、
相手が二本続けて取る。10―12。
0―3。
青陵中、0勝1敗。
二番手、②シングルス。
長谷川 恒一(はせがわ こういち)。
攻める。
だが、読まれている。
第1ゲーム、6―11。
第2ゲーム、9―11。
第3ゲーム、
粘ったが、最後は相手。8―11。
0―3。
0勝2敗。
三番手、③ダブルス。
佐伯 仁(さえき じん)と
岡崎 拓也(おかざき たくや)。
ここで、
流れを変えたかった。
第1ゲーム、9―11。
第2ゲーム、7―11。
第3ゲームはデュース。
10―10。
だが、
最後は相手の二本。10―12。
0―3。
ここで、
団体戦は終わった。
ストレート負け。
点差だけ見れば、
完敗だった。
でも、
どの試合も、
簡単には終わっていない。
圧城中は、
勝っても表情を変えない。
次の試合に向けて、
もう切り替えている。
それが、
強さだった。
試合後。
三枝コーチは、
しばらく何も言わなかった。
そして、
ぽつりと口を開く。
「……差はある」
言い訳はしない。
「でも、
知れた」
山下 登(やました のぼる)先生が、
静かに続ける。
「何が足りないか、ですね」
夕方の体育館。
人も減り、
音も少なくなっていた。
優真は、
ラケットケースを見下ろす。
今日は、
一度もコートに立っていない。
それでも。
この負けは、
確実に胸に残った。
圧城中。
名将。
そして、
三枝コーチの過去。
――また、ここに来る。
その思いだけが、
はっきりと残っていた。
県大会をかけた一戦だった。
対戦相手の名前が呼ばれた瞬間、
青陵中の空気が、わずかに変わった。
圧城中学校(あつしろちゅうがっこう)。
地方大会では、
常に上位に名を連ねる学校。
突出したスターはいない。
だが、どの番手も崩れない。
積み重ねてきた時間の差が、
そのまま形になっているチームだった。
試合前、
相手ベンチに一人の老人が立っていた。
背中は少し丸い。
だが、立ち姿に隙がない。
圧城中の監督。
この地区では、
知らない人はいない名将だった。
三枝コーチは、
少しだけ歩み出た。
深く頭を下げるわけではない。
だが、視線はまっすぐだった。
「本日は、よろしくお願いします」
老人は、
一瞬だけ三枝コーチの顔を見る。
そして、
ほんのわずかに目を細めた。
「……君は、三枝さんのところの子だね」
三枝コーチの動きが、止まる。
「学生の頃、
よく名前を聞いたよ」
声は静かだった。
探るようでも、懐かしむようでもない。
事実を確認するだけの声。
三枝コーチは、
短く息を吸ってから答えた。
「はい」
それ以上は言わない。
自分が、
どんな選手だったか。
どこまで行って、
どこで止まったか。
この場で語ることじゃない。
老人は、
それ以上踏み込まなかった。
「現場に戻ったんだね」
それだけ言って、
静かにベンチへ戻る。
佐藤 優真(さとう ゆうま)は、
少し離れた場所から、そのやり取りを見ていた。
言葉は少ない。
でも、
そこに流れていた空気が、
ただの挨拶じゃないことは分かった。
――この人たちも、
戦ってきたんだ。
違う場所で。
試合が始まる。
①シングルス。
堀口 隆(ほりぐち たかし)が入る。
相手は、圧城のエース。
無理をしない。
でも、逃げもしない。
第1ゲーム、7―11。
第2ゲーム、8―11。
堀口は、
何度も仕掛けた。
だが、
相手は崩れなかった。
第3ゲームはデュース。
10―10。
そこから、
相手が二本続けて取る。10―12。
0―3。
青陵中、0勝1敗。
二番手、②シングルス。
長谷川 恒一(はせがわ こういち)。
攻める。
だが、読まれている。
第1ゲーム、6―11。
第2ゲーム、9―11。
第3ゲーム、
粘ったが、最後は相手。8―11。
0―3。
0勝2敗。
三番手、③ダブルス。
佐伯 仁(さえき じん)と
岡崎 拓也(おかざき たくや)。
ここで、
流れを変えたかった。
第1ゲーム、9―11。
第2ゲーム、7―11。
第3ゲームはデュース。
10―10。
だが、
最後は相手の二本。10―12。
0―3。
ここで、
団体戦は終わった。
ストレート負け。
点差だけ見れば、
完敗だった。
でも、
どの試合も、
簡単には終わっていない。
圧城中は、
勝っても表情を変えない。
次の試合に向けて、
もう切り替えている。
それが、
強さだった。
試合後。
三枝コーチは、
しばらく何も言わなかった。
そして、
ぽつりと口を開く。
「……差はある」
言い訳はしない。
「でも、
知れた」
山下 登(やました のぼる)先生が、
静かに続ける。
「何が足りないか、ですね」
夕方の体育館。
人も減り、
音も少なくなっていた。
優真は、
ラケットケースを見下ろす。
今日は、
一度もコートに立っていない。
それでも。
この負けは、
確実に胸に残った。
圧城中。
名将。
そして、
三枝コーチの過去。
――また、ここに来る。
その思いだけが、
はっきりと残っていた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる