卓球部物語

イモ男爵

文字の大きさ
26 / 49
第2章

第25話 それぞれの光と影

しおりを挟む
団体戦が終わると、
体育館の空気が変わった。

今度は、
個人戦。

誰が強いかが、
もっとはっきり見える時間だ。

水野 和樹(みずの かずき)は、
試合の合間に声をかけられていた。

「一本、
やりませんか?」

相手は、
他校の選手。

団体戦での
圧倒的な勝ち方を、
見ていた。

水野は、
断らなかった。

だが、
団体戦ほどのキレはない。

回転は、
少し浅い。

足も、
一歩遅れる。

格下の相手に、
競り負ける場面もあった。

「あれ……?」

自チームの部員が、
ざわつく。

水野は、
悔しそうにしない。

ただ、
静かにラケットを拭いた。

三枝コーチは、
その様子を
少し離れたところから見ていた。

(団体のときは、
間違いなくエースだった…)

(でも、
本当にで任せられるか……?)

その視線には、
迷いが混じっていた。

一方で、
佐伯 仁(さえき じん)は違った。

自分から色々な選手に、
声をかけている。

「お願いします」

相手は、
強豪校の選手。

断られることは、
なかった。

一試合目。

格上相手にフルゲーム。
負けたが、集中力は切れる様子はない。

二試合目。

格上相手に三対一。
勝ち方がわかってきた様子。



やるたびに、
変わっていく。

打点が、
前になる。

迷いが、
消える。

動きが、
鋭くなる。

纏う空気が、
少しずつ変わっていった。

「……あれ、
一年だよな」

相手校の選手が、
驚いたように言う。

佐伯は、
息を整えながら、
次の台へ向かう。

止まらない。

三枝コーチの目が、
明らかに変わった。

(速い)

(吸収が、
異常に早い)

(……才能だ)

惚れる、
という感情に近かった。

それに気づかないまま、
三枝の中で
何かが傾き始める。

指導者としての、
平衡感覚。

水野を見る目と、
佐伯を見る目。

少しずつ、
差が生まれ始めていた。



佐藤 優真(さとう ゆうま)は、
淡々と試合をこなしていた。

勝つ試合もある。
負ける試合もある。

大崩れはしない。

だが、
圧倒もしない。

「……普通だな」

誰かが、
小さく言う。

それでも、
山下 登(やました のぼる)先生は、
違う見方をしていた。

ミスの内容。
修正の早さ。

相手によって、
戦い方を変えている。

(可もなく、
不可もない)

(でも、
これは……)

山下は、
メモを取る。

(計算できる)

(崩れない)

(団体で、
一番使いやすい)

誰も気づかないところで、
評価は
確かに積み上がっていた。

夕方。

体育館に、
少し疲れが漂う。

佐伯は、
最後まで台に立っていた。

水野は、
静かに片づけをしている。

優真は、
その二人を見ていた。

光る者。
揺れる者。

そして、
目立たず残る者。

選抜大会は、
もうすぐだ。

誰を信じるか。

誰を使うか。

その問いが、
三枝コーチの中で
大きくなり始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...