卓球部物語

イモ男爵

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第2章

第26話 ずれはじめる視線

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その夜。

三枝コーチは、
布団に入っても
目を閉じられなかった。

天井を見つめたまま、
頭の中では
昼間の光景が
何度も再生されている。

佐伯 仁。

強豪校の選手に向かって、
自分から試合を申し込み、
打ち合い、
食らいつき、
最後には押し返した姿。

(速い)

(理解が早い)

(吸収が、異常だ)

三枝は、
思わず笑っていた。

(三年になったら……)

(いや…二年の冬には)

(全国、狙える)

胸が、高鳴る。

指導者として、
久しぶりに感じる興奮だった。

同時に、
別の顔が浮かぶ。

水野 和樹。

団体戦では、
誰よりも頼もしい。

だが、
個人戦では
波がある。

格下に負ける。

勝ち切れない。

(本当に、エースか?)

(任せて、大丈夫なのか?)

その考えを、
三枝は振り払わなかった。

むしろ、
育てる対象が
はっきりした気がしていた。

一方で。

山下 登(やました のぼる)先生は、
自宅で資料を広げていた。

練習試合の結果。
個人戦のメモ。

そこに、
水野の名前がある。

(あいつは……)

山下は、
水野の顔を思い出す。

母子家庭。

決して裕福ではない。

ラケットも、
シューズも、
最新ではない。

それでも、
文句を言わない。

誰よりも早く来て、
誰よりも遅くまで残る。

部長として、
空気を崩さない。

(この環境の中で、
あれだけ安定したプレーを
身につけた)

(簡単じゃない…)

山下は、
静かにうなずいた。

そして、
もう一人。

佐藤 優真。

派手さはない。

だが、
試合中に大崩れしない。

相手を見て、
戦い方を変える。

団体戦向き。

計算できる。

(評価されにくいが、
欠かせないタイプだ)

山下は、
そう確信していた。

翌日。

体育館で、
三枝コーチと山下先生が
顔を合わせる。

「昨日の佐伯、
どう思いました?」

三枝が、
少し前のめりで聞く。

「すごかったですね」

山下は、
落ち着いて答える。

「でも」

一拍置く。

「水野も、
十分にチームの軸です」

三枝の表情が、
一瞬だけ硬くなる。

「……個人戦、
見ましたよね?」

声は、
柔らかい。

だが、
中に刺があった。

「見ました」

山下は、
目を逸らさない。

「だからこそ、
団体では
水野が一番だと
思っています」

言葉が、
静かにぶつかる。

三枝は、
何も言わなかった。

だが、
心の中では
別の答えを
持っていた。

才能か。
安定か。

未来か。
今か。

その違いが、
二人の間に
はっきりとした
線を引き始めていた。

佐藤 優真は、
そのことを
まだ知らない。

だが、
この対立は、
いずれ
自分たちの
進む道を
大きく左右する。

選抜大会は、
近い。

そして、
チームは
静かに
分かれ道へ
向かい始めていた。
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