姫は王子を溺愛したい

縁 遊

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13. 王子はわからない

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 婚約発表会見が無事に終わり、マスコミで私達の事が取り上げられてから私の環境は賑やかになりました。

 私自身は何も変化が無いのに不思議な感じです。

「おはようございます」

「おっ、来たか。おはよう。今日はコレを頼むな」

 変わらないのは杉ノ原先輩の態度もかな。

 お局様なんか私の事を無視してますからね。まあ、嘘をついている私も悪いのですが…。会社の女性社員からは距離を置かれている様な感じに現状なってしまったんだよね。前から仲の良い社員さんは別だけど…。

 本当に姫野の人気を今更ながら感じます。

 当の姫野はなぜか毎朝メールを送ってくるし、夜も帰宅したら連絡をしてくるんです。まるで本当の恋人みたい。

 電話のチェックとかもストーカーにされるのかな?そんなことはないよね…。

 そう言えば親友の柚菜ちゃんから興奮した状態で電話くれたな。


「ちょっ、ちょっとー!王子ってば本当に姫野と婚約したの!?なぜ私に連絡をくれなかったのよ~!くっ…妄想カップルが現実になんて美味しい話を…逃していたのね」

 時々訳のわからないことを話していたけど最後はおめでとうと言ってくれていた。

 柚菜ちゃんには本当の事を話したかったけど姫野から止められたから話せなかった。別れるってなったら柚菜ちゃんに一番に連絡をしないとダメかな。

 柚菜ちゃんにはいろいろと助けられているからな…。

 実は私が勤めているこのスポーツメーカーは柚菜ちゃんのお父さんが経営している会社なんです。

 私がケガをしてバレーを辞めないといけなくなった時に「今度は選手を助ける仕事をしてみる?」って声をかけてくれたのが柚菜ちゃんだったんだよね。どんなに気持ちが救われたことか。

 柚菜ちゃんのおかげで、裏方になる決意ができて選手への未練を吹っ切れたんだから柚菜様々だよ。

 勿論、会社の面接を受けて合格するかはわからないと言われてドキドキしたけど何とか受かることができて今がある。

 本当に良い友達。


「いたいた。王子さん、久しぶり~」

 作業場で柚菜ちゃんの事を考えながら仕事をしていたら私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 聞き覚えがあるような、無いような…。

「久しぶりだけど覚えてるかな?柚菜の兄の悠人(ゆうと)だよ」

 手を振りながら私に近寄ってきていたのは、何度かお会いしたことのある柚菜ちゃんのお兄さんだった。

 183センチでスラリと長い手足、色気と柔らかな雰囲気のあるイケメンさんなんです。

 相変わらず色気がだだ漏れしてます。

「お久しぶりです。お元気でしたか?…あれ?確か、海外に勉強しに行かれてませんでした?いつ帰って来られたんですか」

 お兄さんはこの会社の次期社長として修行を兼ねて海外にいると柚菜ちゃんから聞いていたような気がするんですけど。

「今、帰って来たんだよ。これから社長に挨拶に行こうかと思ってさ。空港から直行なんだ」

「そうなんですね。お疲れ様です」

 なぜ社長より先にここに来たんだろう。何か用事でもあったのかな。

「あ、そうそう記事読んだよ。婚約したんだね…」

 それを確かめる為に来てくれたのかな。

「はい」

「ん~、王子さんに会えるのを楽しみにしていたのにな…。先を越されるとはね」

 ん?先を越されるとは何の事を言っているんでしょうか。

 私達が話していると、杉ノ原先輩が作業場に入って来た。

「あっ、お久しぶりですね悠人さん。お戻りになられたんですね。お話し中申し訳ないんですが、王子にお客様が来ているので連れていきますね」

 そう言って手招きされたので悠人さんに頭を下げてその場をあとにした。

 連れていかれた打ち合わせ室に来ていたのは姫野だった。

「じゃあ、俺は別の仕事があるから後は宜しくな」

 案内してくれた杉ノ原先輩は姫野にお辞儀をして、すぐにいなくなってしまった。

 打ち合わせ室に二人残ったものの姫野がなかなか話そうとしないのでこちらから聞いてみる。

「今日はどうしたの?」

 今日は打ち合わせの予定もなかったはずだし、朝のメールの時も今日会社に来るとは書いてなかったはず。

「ああ…ちょっとお願いがあって。靴の納期を早めてほしいんだ」

「何かあったの?」

 予定していた納期は1か月後。決して遅くはないんだけどな。

「実は、海外の有名チームのスカウトが俺に会いに2週間後にやって来る事になったんだ」

「え!凄い!引き抜きってことだよね」

 海外からも注目されてるなんてさすが姫野…凄い。

「ありがとう。だから無理を言って悪いんだが、できれば2週間後までには完成させてほしいんだ。今のシューズもまだ履けるんだが、できれば新しいシューズでやるところを見てもらいたい」

 2週間後までにか…できないことはないと思う。

 姫野がスカウトされる時に私の作った靴を履いてプレーしている…と想像しただけでワクワクしてきたよ。ここは引き受けないとね!

「わかった。姫野の為に頑張ってみる」

「俺の為…って…可愛すぎだろ…」

 姫野は何かを呟くと急に立ち上がり私を強く抱きしめ顔をすり寄せてきた。

 なぜこうなった?




 

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