姫は王子を溺愛したい

縁 遊

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12. 王子は悩む

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 婚約発表会見の最後、一人の女性記者さんの質問によって会場の空気は最悪となりどうなるのかと思われたが…。空気を変えたのはホテルのスタッフの一言でした。

「お時間になりました」

 年配の男性が姫野の横に立ち終わりの時間を告げたんです。すると姫野の雰囲気が変わり…。

「皆さん、今日はありがとうございました」

 姫野がイスから立ち上がったので私も慌てて立ち上がり記者さん達に向かってお辞儀をした。

 姫野は当たり前かのようにまた私の横に立ち腰に手をあてて歩き出した。エスコートがスムーズ過ぎて怖い。やっぱり慣れているのかな…。

 胸の辺りがなぜかモヤモヤとする。

 昨日、ご飯を食べ過ぎたかな?

 会場を出るとすぐに姫野が「このまま部屋に戻るぞ。少し速く歩いても大丈夫か?」と私に聞いてきたので「大丈夫」だと伝えた。

 部屋に戻ると私の双子の兄達が仁王立ちで私達を待ち構えていた。

「な、何…お兄ちゃん達どうしたの」

 まず、海兄ちゃんが私の腰にあててある姫野の手を叩いた。そして空兄ちゃんが私を姫野から引き離した。阿吽の連携プレイだ。

「お前…二股してたのか?俺達の光がいるのに?信じられないな!?」

 姫野と私の間に立った海兄ちゃんが仁王立ちで姫野に対して怒っている。

 どうやら先程の婚約発表会見はテレビで生中継されていたみたい。

「「そんな奴に光は渡さない!!」」

 鼻息荒く姫野に言いきるお兄ちゃん達。本当に私の事になると変になるんだよね。そろそろ妹離れしてもらわないと困る。

 私は姫野に申し訳ないと思いながら様子を伺っていた。お兄ちゃん達を前にして何て言うのだろうと気になる。

「心配はごもっともですね。ですが、僕は二股などしていませんから安心してください。あの女優さんとは確かに食事を一緒に行きましたが、二人ではなく他にも沢山の人達がいました。調べてもらっても良いですよ」

 姫野は冷静に対処してしまった。お兄ちゃん達は何も言えなくなってしまったみたい。

「僕が好きなのは光さんだけです。光さんだけを大事にします。それでも認めてもらえませんか?」

 …凄い殺し文句がでました!

 ちょっと言いすぎなのでは?だってストーカー問題が決着ついたら別れるんだよ。それなのに…そんなことを言っていたら、お兄ちゃん達にどんな目にあわされるか…想像しただけでも怖いよ。

「ほら、いい加減に妹離れしなさいよ!あんた達と親戚になるのは寒気がするくらい嫌だけど、この二人が幸せになるんだから、お兄ちゃんとして妹の幸せを認めてあげるのが本当の家族の愛でしょ!」

 あや姉がお兄ちゃん達の背中をバシバシと叩きながら諭してくれている。心強い味方だな。


「「……光はこいつで本当に良いのか?」」

 大きな体のお兄ちゃん達がまるで子犬の様な潤んだ目で私を見た。捨てないで!って言っているみたいで胸が少し痛む。それに…こんなに大事にしてもらっているお兄ちゃん達を騙しているのもあるのかな。

「お兄ちゃん達、いつも私を守ってくれてありがとう。だけどね、これからは姫野と一緒だから安心して良いよ。私も大人だしね」

 そう言って、私はお兄ちゃん達に抱きついた。二人をギュッと抱きしめて「大好きだよ」って言った途端にお兄ちゃん達が私を抱きしめながらまた泣き始めた。

「「光~!!いつでもお兄ちゃん達のところに帰ってきても良いからな~。むしろ帰って来い!!お兄ちゃん達が光の面倒くらいみるぞ~」」

 ん~、お兄ちゃん達がイケメンなのに彼女と長続きしないのはこういうとこが原因なんだろうな。彼女より私を大事にしすぎだよ。

 私達の両親は海外に行く事が多く、ほぼお兄ちゃん達と私の3人で暮らしていた。だからなのかお兄ちゃん達が父親みたいになってしまったんだよね。

 本当の父親は放任主義なのに…。

「はい、はい。そのへんでお涙劇場は終了よ!着替えるんだから男性陣はこの部屋から出ていってね!」

 あや姉が手を数回叩いた後、シッシッと言いながらお兄ちゃん達を部屋から追い出す仕草をした。

 そっか…シンデレラになったみたいだった時間はもう終わりなんだ。シンデレラと同じで魔法の解ける時間になったのね。そう思うと悲しい気持ちになってきた。

 いつもと違う女性らしい私になるためにつけていたウィッグをはずし、衣装を脱いだ。メイクも今の格好には似合わないからとあや姉に頼んでナチュラルメイクに変えてもらった。

 プロのメイクだからいつもの雰囲気ではないけど…。

「さっきまでと別人だね…」

 鏡に映る自分を見ていろいろと思い出してしまった。



 昔から姫野のファンの女性達は女性らしい雰囲気の人が多く、たまにその人達から声をかけられる事があった。

「これ、姫様に渡してもらえませんか?」

 彼女達は、姫野に直接プレゼントを渡しても受け取ってもらえないことを知って私に頼みに来るようになっていた。なぜ私に頼むのかと不思議に思って聞くと…。

「だって王子さんなら姫様と恋愛関係にならなさそうだし、安心して渡せるんです」という答えが返ってきた。あの時なぜかショックを受けたんだよね。

 今思えば、女性じゃないと言われた気がしたからかな。

 私も26歳…大人の女性としてそろそろ変わらないといけないのかな…。







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