12 / 43
12. 王子は悩む
しおりを挟む婚約発表会見の最後、一人の女性記者さんの質問によって会場の空気は最悪となりどうなるのかと思われたが…。空気を変えたのはホテルのスタッフの一言でした。
「お時間になりました」
年配の男性が姫野の横に立ち終わりの時間を告げたんです。すると姫野の雰囲気が変わり…。
「皆さん、今日はありがとうございました」
姫野がイスから立ち上がったので私も慌てて立ち上がり記者さん達に向かってお辞儀をした。
姫野は当たり前かのようにまた私の横に立ち腰に手をあてて歩き出した。エスコートがスムーズ過ぎて怖い。やっぱり慣れているのかな…。
胸の辺りがなぜかモヤモヤとする。
昨日、ご飯を食べ過ぎたかな?
会場を出るとすぐに姫野が「このまま部屋に戻るぞ。少し速く歩いても大丈夫か?」と私に聞いてきたので「大丈夫」だと伝えた。
部屋に戻ると私の双子の兄達が仁王立ちで私達を待ち構えていた。
「な、何…お兄ちゃん達どうしたの」
まず、海兄ちゃんが私の腰にあててある姫野の手を叩いた。そして空兄ちゃんが私を姫野から引き離した。阿吽の連携プレイだ。
「お前…二股してたのか?俺達の光がいるのに?信じられないな!?」
姫野と私の間に立った海兄ちゃんが仁王立ちで姫野に対して怒っている。
どうやら先程の婚約発表会見はテレビで生中継されていたみたい。
「「そんな奴に光は渡さない!!」」
鼻息荒く姫野に言いきるお兄ちゃん達。本当に私の事になると変になるんだよね。そろそろ妹離れしてもらわないと困る。
私は姫野に申し訳ないと思いながら様子を伺っていた。お兄ちゃん達を前にして何て言うのだろうと気になる。
「心配はごもっともですね。ですが、僕は二股などしていませんから安心してください。あの女優さんとは確かに食事を一緒に行きましたが、二人ではなく他にも沢山の人達がいました。調べてもらっても良いですよ」
姫野は冷静に対処してしまった。お兄ちゃん達は何も言えなくなってしまったみたい。
「僕が好きなのは光さんだけです。光さんだけを大事にします。それでも認めてもらえませんか?」
…凄い殺し文句がでました!
ちょっと言いすぎなのでは?だってストーカー問題が決着ついたら別れるんだよ。それなのに…そんなことを言っていたら、お兄ちゃん達にどんな目にあわされるか…想像しただけでも怖いよ。
「ほら、いい加減に妹離れしなさいよ!あんた達と親戚になるのは寒気がするくらい嫌だけど、この二人が幸せになるんだから、お兄ちゃんとして妹の幸せを認めてあげるのが本当の家族の愛でしょ!」
あや姉がお兄ちゃん達の背中をバシバシと叩きながら諭してくれている。心強い味方だな。
「「……光はこいつで本当に良いのか?」」
大きな体のお兄ちゃん達がまるで子犬の様な潤んだ目で私を見た。捨てないで!って言っているみたいで胸が少し痛む。それに…こんなに大事にしてもらっているお兄ちゃん達を騙しているのもあるのかな。
「お兄ちゃん達、いつも私を守ってくれてありがとう。だけどね、これからは姫野と一緒だから安心して良いよ。私も大人だしね」
そう言って、私はお兄ちゃん達に抱きついた。二人をギュッと抱きしめて「大好きだよ」って言った途端にお兄ちゃん達が私を抱きしめながらまた泣き始めた。
「「光~!!いつでもお兄ちゃん達のところに帰ってきても良いからな~。むしろ帰って来い!!お兄ちゃん達が光の面倒くらいみるぞ~」」
ん~、お兄ちゃん達がイケメンなのに彼女と長続きしないのはこういうとこが原因なんだろうな。彼女より私を大事にしすぎだよ。
私達の両親は海外に行く事が多く、ほぼお兄ちゃん達と私の3人で暮らしていた。だからなのかお兄ちゃん達が父親みたいになってしまったんだよね。
本当の父親は放任主義なのに…。
「はい、はい。そのへんでお涙劇場は終了よ!着替えるんだから男性陣はこの部屋から出ていってね!」
あや姉が手を数回叩いた後、シッシッと言いながらお兄ちゃん達を部屋から追い出す仕草をした。
そっか…シンデレラになったみたいだった時間はもう終わりなんだ。シンデレラと同じで魔法の解ける時間になったのね。そう思うと悲しい気持ちになってきた。
いつもと違う女性らしい私になるためにつけていたウィッグをはずし、衣装を脱いだ。メイクも今の格好には似合わないからとあや姉に頼んでナチュラルメイクに変えてもらった。
プロのメイクだからいつもの雰囲気ではないけど…。
「さっきまでと別人だね…」
鏡に映る自分を見ていろいろと思い出してしまった。
昔から姫野のファンの女性達は女性らしい雰囲気の人が多く、たまにその人達から声をかけられる事があった。
「これ、姫様に渡してもらえませんか?」
彼女達は、姫野に直接プレゼントを渡しても受け取ってもらえないことを知って私に頼みに来るようになっていた。なぜ私に頼むのかと不思議に思って聞くと…。
「だって王子さんなら姫様と恋愛関係にならなさそうだし、安心して渡せるんです」という答えが返ってきた。あの時なぜかショックを受けたんだよね。
今思えば、女性じゃないと言われた気がしたからかな。
私も26歳…大人の女性としてそろそろ変わらないといけないのかな…。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」
(三度目はないからっ!)
──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない!
「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」
倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。
ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。
それで彼との関係は終わったと思っていたのに!?
エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。
客室乗務員(CA)倉木莉桜
×
五十里重工(取締役部長)五十里武尊
『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる