姫は王子を溺愛したい

縁 遊

文字の大きさ
上 下
31 / 43

31. 王子と姫はクラゲを眺める

しおりを挟む

「災難だったな…」

 お互いにタオルで体を拭きながら水族館の中を歩く。

 あの後、WHOチューバーのUさんは逃げるように私たちの前から走り去って行きました。

「ほんとだね」

 イルカショーまでは幸せだったんだけどね…。絡まれることさえなければ幸せな気持ちが続いていたはずなんだけどね。

「あっ、クラゲだ…」

 目の前に突然大きな水槽が見えた。中には無数のライトアップされたクラゲ達。気持ち良さそうにフワフワと水の中で移動しています。

「綺麗…」

 神秘的な雰囲気にのまれてしまう。

「王子、こっちだ」

 姫野がいつの間にか水槽の前にあるクラゲを見る席に座っていて横に座れと合図してきた。

「こんなクラゲを見るためだけの席があるんだね。凄いね…」

 広めの幅の階段みたいな席なんだけど、ゆっくりクラゲを見れるのはありがたいです。

「こんなに沢山のクラゲを見るのは初めてだな」

 姫野もクラゲを気に入ってくれたのか水槽を食い入るように見ている。薄暗い館内でクラゲようのライトが姫野の顔にもあたっている。水に濡れてセットしていた髪も崩れているけど顔が綺麗だからか妖艶なカッコよさがでてるように見える。

「…何だ?」

 じっと横顔を見ている私を不思議に思ったのか姫野の視線がクラゲから私に向いた。

「いや…水に濡れてもカッコいいんだなと思って…」

「は?」

 姫野の視線が私から離れてまたクラゲの水槽に移ってしまう。しかも顔を手で隠しているんだけど…どうしたのかな。

 見えないのが勿体ないと思いながらも、私もクラゲの水槽に視線を戻した。

 水の中を漂うクラゲを見ていると、さっきの嫌な出来事とかも忘れられそう。ゆっくりした時間を過ごしている感じが良いんだよね。

「あ~、さっきは助けるのが遅くなってすまなかったな」

 帰ってくるのが遅いなとは思っていたけど、謝られるほどではないと思うんだけど。

「何かあったの?」

「ああ、俺のファンだという人達に囲まれていたんだ。そこから出るのに時間がかかってしまった。戻って来たらあんなことになっていて後悔したんだ…。本当にすまない」

 再び私の方を見て頭を下げる姫野。

「頭を上げてよ、姫野が謝る事はないよ。それに助けてもらったんだから私の方こそお礼を言わないとね。ありがとう姫野」

 姫野が下を向いた時に頭頂部の髪の毛が乱れていたのでそれを直してお礼を言った。まるで頭を撫でているみたいになってしまったけど…。

 頭を上げるように言ったのに姫野の頭はまだ上がらないまま。どうしたのかと気になるので顔を覗き込むように下から覗いてみた。

「どうしたの?」

 下を向いていた姫野と視線があった途端に首がおかしくならないかと心配するくらいのスピードで顔を上げて反対方向を向いてまた下を向いてしまった。

「み、見るな!」

 一瞬見えたのは真っ赤な顔をした姫野だった。

「姫野…もしかして照れてるの?」

「……」

 間違いない。姫野は昔から都合が悪くなると黙ってしまう癖があるんだよね。それは大人になっても変わってないみたい。

「フフッ…」

 昔の姫野と変わらない所を見ることができて、なぜか嬉しい気持ちになった。

「…何が可笑しいんだ?」

 姫野がやっと私の方を向いてくれたけど、少しムッとした顔をしている。笑ったのをバカにされたとか思ってるのかな?

「昔と変わらない姫野が見れて嬉しいな~と思ったの」

「バカにしてる?」

 やっぱりそう思っていたか!

「してないよ。嬉しいって言ったでしょ」

 理解が出来ないといった感じの姫野が頭を傾げながらクラゲの水槽の方に向き直した。

「姫野と一緒にここにこれて良かった。ありがとうね姫野」

「ああ…」

 二人で並んでクラゲの水槽を長い時間見ていた。ユラユラ漂うクラゲを見ていると時間を忘れてしまうんだよね。

 水族館を出ると太陽が真上から少し傾いていた。

「お腹すかない?」

「すいたな。遅いランチに行くか?」

「うん」

 車に乗り込みランチに向かう。どうやら美味しいお店も探してくれていたみたいです。

 どんなお店に連れていってくれるのか楽しみです。



 

 





 
しおりを挟む

処理中です...