姫は王子を溺愛したい

縁 遊

文字の大きさ
32 / 43

32. 王子は姫に抱きしめられる

しおりを挟む

 どうしてこうなったのか…。

 現在の私の状況を報告させてもらうと、ホテルの一室でシャワーを浴びて、スッキリした状態です。

 今からランチに行く予定で水族館を後にしたはずだったんだけど…。

 あの後、海の見えるホテルのレストランで食事をすると言うことを姫野から聞いて喜んだのだけど、イルカショーで水を浴びて二人とも少しヨレヨレになっていたことが気になるよねって二人で話をして…そしたら、いつの間にか姫野がホテルの一室を予約してたんだよね。

 因みに姫野は今は部屋にいません。私達の服を買いに行ってくれているんです。

 その事に少しモヤモヤするのはなぜなんでしょうか?

 こういうことに慣れているのかな?

 手際が良いというか…良すぎるというか…。

 今までの彼女達で慣れているのかな。今来ているホテルとかも何度も利用してるとか…。

 だって女性の服を買いに行くって…お店の場所とかもわかっているということだよね。

 ダメだ…考え出したら止まらなくなってきた。

 姫野がモテるのは前から知っている。今更何が気になるのよ私…。

 小学生の時からすでにモテていた姫野。あの時すでに地域にファンクラブがあったんだよね。確か…"姫を見守る侍女会"だったかな?変な名前だなと思ったので間違ってないと思う。

 子供から大人まで年齢層が幅広く、どこに行くにも必ず誰かがいたんだよね。

 姫野に近寄る女性は危険人物リストに名前を書かれてマークされるという…熱心な活動をしていたんだけど私はそのリストに載ることは無かったみたいでよく話しかけられていたな。

 皆さん私の事を姫野を姫様と呼んでいたせいか王子様と呼んでくれていたんですよね。


「王子様、今日の姫様のご機嫌はどうでしたか?」

「今日は鼻をよく触っているから機嫌が悪いみたいですよ」

「そんな癖があるんですね。会員に知らせておきます。あっ、それから最近姫様にしつこく付きまとっている女性がいるみたいなので絡まれないように気を付けてくださいね」

「わかりました。気を付けます」

 その後、気を付けると言っておきながら、その女性に「姫野に近寄るな!」と絡まれていたところを皆様に助けていただいたこともあったな…。

 あれ?よく考えたらあれだけ鉄壁な守りがあって姫野に彼女なんてできたのかな。

 何だかモヤモヤが薄くなっていくのを感じます。

 私のこの気持ち…誰に対する嫉妬?

 やっぱり…これって理解できていなかっただけで私はずっと前から姫野の事が好きだったんだよね。

 何十年もかけてやっと理解できる…って私って本当に鈍感過ぎだな。

 他の人には触れられるとドキドキしないのに姫野に触れられてドキドキするのも、何気ない笑顔にときめくのも…全部、ぜ~んぶ姫野の事が好きだからなんだよね。

 私ってバカだな…。

 今さら気がついても遅いよ。

 今の私は姫野に本当の婚約者が見つかるまでの偽物の婚約者。

 姫野の近くで姫野が他の女性に恋をして婚約して付き合うまでを見ていないといけない。それなのに…恋心なんて物に気がついて何の得になるのよ。…地獄だよね。

 確かに好きな人には幸せになってほしい。だけどそれは私の知らないところでだよ。目の前で見せられたら…きっと私の心が苦しい。苦しくて耐えられないかもしれない。

 想像しただけでもそう思える。

 だけど、一度引き受けた偽物の婚約者役を今さら断るのも変な感じだし…。

 どうしよう。

 こんな気持ちのまま続けられるのかな…。

 ガチャガチャ。

 ホテルの部屋の扉が開く音がした。姫野が帰って来たみたい。まだ気持ちの整理がついてないのに…。

「なっ!お前…何でそんな格好でいるんだ?」

 そういえばバスローブを羽織っただけの姿だったよ。後で着替えようと思ってたんだけど…。着ていた洋服をハンガーにかけてドライヤーで乾かそうと思っていたのだけど、姫野の事を考えてボーとしてたんだ。

 顔を私から背けた姫野が手に持っている紙袋をこちらに差し出している。

「これ、値札とかは切ってもらってすぐに着られるようにしてもらってるから着てくれ。趣味じゃなかったらごめん」

「ありがとう…」

「俺は今からシャワーするからその間に着替えて…」

「わかった」

 姫野がすぐにバスルームに入っていった。

 私は紙袋から姫野が買ってきてくれた洋服を取り出す。

「可愛い…」

 淡い水色のロングワンピースに白いカーディガンの組み合わせだ。すぐに着替えて鏡の前に立ってみた。

「朝とは別人だね…」

 あんなに頑張ったお化粧もすっかりとれてスッピン(眉だけは描いた)だし、髪の毛もいつも通りに戻ってしまった。

「童話のシンデレラの気持ちが理解できる日がくるなんて思ってなかったな…」

 12時を過ぎたシンデレラは今の私と同じように魔法が解けた自分を見てガッカリしたんじゃないかな。素敵なドレスを着て、素敵な王子様とダンスを踊って夢のような時間を過ごした後の現実か…。

 鏡の前で現実を見て時間が止まる。

 そこにシャワールームから姫野が声をかけてきた。

「もう着替えはすんだか?」

「うん。終わったよ」

 姫野がシャワールームから出てきて私の姿を見た。

「良かった…。似合ってるな」

 褒めてくれた姫野の目線が私の足で止まっていることに気がついた。

 しまった!まだストッキングをはいていなかった。傷が見えてる。

「その傷…」

「あっ…この傷は昔のだから…」

 気にしないでって言おうとしたのに、姫野に抱きしめられて続きが言えなかった。

 私はなぜ姫野に抱きしめられているんだろう…。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない

如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」 (三度目はないからっ!) ──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない! 「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」 倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。 ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。 それで彼との関係は終わったと思っていたのに!? エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。 客室乗務員(CA)倉木莉桜 × 五十里重工(取締役部長)五十里武尊 『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……

処理中です...