33 / 43
33. 姫は王子に告白する
しおりを挟む姫野に急に抱きしめられて、私の全てがフリーズしています。一体何がおきたのか?
「…姫野?」
姫野は私を抱きしめて顔を私の肩口に埋めています。だから、顔が見えないんです。何も言わない姫野の表情が気になって仕方ありません。
「…ごめん。本当にごめん」
何を謝ってるのかな。もしかしてイルカショーで濡れたことを謝っているの?そんなこと気にしなくて良いのに。
「濡れた事なら楽しかったから気にしてないよ」
私は姫野の背中をポンポンと叩きながら言った。
「…違う。その事じゃなくて…」
違うのか。じゃあ、何に対して謝っているんだろう?その続きを知りたいのに姫野から言葉の続きが出てこない。聞いても良いのかな。
「え…と、じゃあ何を謝っているのか聞いても良い?」
「………それは…」
姫野が言いにくそうにしているけど、そんなに言いにくいことなんか今日あったかな。
「知らなかったんだ…つい最近まで本当の事を…」
ポツリ、ポツリと姫野が言葉を選んで話しているのが何となくわかった。
「何を知らなかったの?」
私に謝らないといけないけど、姫野が最近まで知らなかった事…って、もしかして…。
嫌な予感がしてきた。そういえば傷のある足を見ていたんだった。
「お前が…バレーを…辞めた…理由」
やっぱりその事なんだ!
「俺の…ファンが…お前を…突き飛ばしたんだろう?何で俺に文句の一つも言いに来なかったんだ!?」
やっと顔を見せた姫野の目尻に光るものが見えた。
こうなるだろうと思ったから言わなかったんだよ。…とは言えない。
あの時、確かに姫野に伝えるべきだと周りから言われたけど…言わなかったのは姫野が真面目で精神的に脆いところがあるのを知っていたから。
あの時、姫野はプロからスカウトされていて頑張っている時期だった。それなのに、この事を知ったら直接関係してなくても姫野は気にしてバレーに集中できなくなる可能性があるかもしれないと思ったら言えなかった。だから他の人にも口止めしていたのに…何で今頃になって知ったんだろう。
もしかして…最近、姫野の様子が違うのは私への罪悪感を感じていたからなの…。
そう考えると胸の奥がギュッと誰かに捕まれたように痛く感じた。
でも…私に今出きることをしないと…。
「どうして言う必要があるの?姫野は直接指示したわけでもないし、現場にもいなかったんだよ。あの時、私は自分の判断でファンの人達の方に行ったんだから姫野が謝る事なんか一つもないよ」
私は笑顔を作って姫野を見つめた。
「…なんだよ…それ…。何でそんな顔…見せるんだ…」
姫野は目から溢れる涙を拭くこともなく、私をじっと見ている。
「お前の…夢は…プロバレー選手…になること…だったよな」
確かにあの時はそうだったかもしれない。あの怪我の後はいろいろ考えたし、落ち込んだり泣いたりもした。けど…。
「あの時はね。今は、立派な靴職人になることだよ」
今はもう吹っ切れている。もし、プロバレー選手になっていたとしても長く続ける事ができたかわからない。故障や体力的なもので早期リタイアで次の職を探さないといけないこともある。それが少し早かっただけだと今は考えられるようになったんだよね。
やっと…って感じだけどね。
「しかし…お前の…最初の夢を奪ったのは…」
この続きを姫野に言わせたくないな。
「姫野じゃないよ。そこは事実。勘違いしないでね」
姫野が責任を感じることなんて1ミリもないんだよ。それで責任を取るなんて言われたら…悲しすぎるかも…。
「お前は本当に…それで良いのか?」
「うん。良くなかったらとっくに姫野に言ってるよ」
姫野が無言でまだ私を見つめている。
さすがにこの距離でずっと見つめられていると恥ずかしくなってきた。
「やっぱり王子は王子様だな…」
どういう事?
「俺はそんな王子の事が…ずっと好きだった」
…今、何て言った!?
私の事がずっと好きだった!?
「…姫野が私の事を好き?」
「ああ…。だが、お前が怪我をした原因を知って、俺にはお前に好きだと言う資格がないと思っていたんだ。だからこんな手の込んだ芝居を考えて…」
手の込んだ芝居?
姫野がブツブツと横を向いて何かを言い始めたけど…。
ダメだ…。姫野が私を好きだと聞いてからドキドキとフワフワとそれから…それから…いろんなものが混ざって何も考えられないよ!
だけど、これだけは言っておいた方が良いと思うんだよね。
「…私も姫野の事が好きだよ」
横を向いていた姫野の顔が凄いスピードで私の方に向き直した。
「え?い、今…何て言った」
二度も言わすのか…。顔の温度が上がって、真っ赤になっているのを見てわからない?
「…私も好きだよって言った」
姫野が目を見開いて一瞬フリーズした後で急に私を抱きしめて上に持ち上げた。
「夢じゃないよな?王子の感触…あるな…夢じゃない」
私の身体を触って確かめるのはどうなんだろうかと言いたいけど、抱きしめてもらえてるのは嬉しいので何も言わない。
私を抱き上げてクルリと一回転した姫野のバスローブの紐がハラリと床に落ちた。
「ちょっ!姫野!!前!はだけてる!!」
裸にバスローブを羽織っていたらしい姫野の裸体が丸見えになっている。
「うわぁ…」
「また、うわぁって…」
「「フフッ…」」
二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
結局…私達の告白はロマンチックとはいかなかったけど、私達らしかった…かも。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」
(三度目はないからっ!)
──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない!
「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」
倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。
ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。
それで彼との関係は終わったと思っていたのに!?
エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。
客室乗務員(CA)倉木莉桜
×
五十里重工(取締役部長)五十里武尊
『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる