姫は王子を溺愛したい

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34. 姫サイド その5

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 夢なのか…。

 まだ信じられない。俺と王子が両思い…。


「お前…何をにやついているんだ。気持ち悪い…」

 同じチームに所属しているプロバレー選手の友人の二木(にき)に変な目で見られている。

 今は練習が終わり体育館で座りストレッチをしている最中だ。

「気持ち悪くてけっこうだよ」

 何て言われたって俺は今、幸せなんだから。

「何?何か良いことでもあったかな?」

 聞きたそうに二木が俺に近寄って来た。

「…告白した」

「え!?マジか!やっと言ったのか!!それでその様子だということは…おめでとう!!!」

 二木が俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でながら、最後は肩を組んできた。

「片想い歴何年だった?」

 コイツは…。

 二木は学生時代からの親友なので俺の事はほとんど知っている仲だ。

「うるさい!」

「え~と…」

 二木が自分の指を折り曲げながら計算している。

「凄いな…15年ぐらい片想いしてたのか。一途と言うか…気持ち悪い執着心と言うべきか…」

 俺は肩に置かれていた二木の手を叩いてからはがした。

「痛!何すんだよ」

「お前が変な風に言うからだろ。一途な純愛と言え!」

「え~!お前に純愛って言葉は似合わない…」

 今度は二木の頬をツネってやった。

「ご、ごめんなしゃい…」

「わかれば良いんだ」

 頬から手を離すと二木がその場所を撫でている。

「しかし…世の中のお前のファンはそんなお前のその本当の姿を知ったら驚くと思うぞ。あんなに恋多き男と雑誌に取り上げられてきたのに実はず~と一人の女性を思っていました。な~んて信じてもらえないだろうな」

「俺は世間がどう言おうとアイツが信じてくれればそれだけで良い」

「何だよ、もう惚気なのか!?はっ?やってられね~」

 二木がその場で後ろに倒れた。

「王子様がお姫様に落ちたか…」

 何だか酷い言い方のような気もするが…聞き流してやろう。今の俺は機嫌が良いからね。

「だけど…王子っていつから姫野の事が好きだったわけ?そんな素振りは一切なかったよな?婚約も嘘をついてたんだろう?」

 それ!それは俺も気になったんだけど聞けなかったんだよな。

「なに?もしかしてヘタレ姫様は聞けなかったのか?」

 二木の奴…昔から俺の事をヘタレ姫様とたまに呼ぶんだよな。

「ヘタレ姫って言うな!」

 ヘラヘラ笑いながら言う二木にムカつくのは仕方ないよな。

「まあ、でもヘタレ姫様は卒業か。王子様に告白出来たんだもんな。本当によくやった!」

 俺の背中をポンポンと叩く二木。

「何様目線なんだよ」

「ハハッ!」

 でも昔から二木には相談していたからな…本当に心配してくれていたのはわかっている。

 ありがたい友人だ。

「じゃあ、婚約は本当になるんだな」

 それもまだ話を出来てないんだよな。

「たぶん…」

「たぶんって。やっぱ、お前だな」

「うるさい」

 でも、それは俺も気になっていた。

 偽物の婚約者から本物の婚約者になってほしいと言うべきなのか?王子なら今更言わなくてもわかってくれていると思うんだけど…どうなんだ?

「まさか言わなくても王子なら大丈夫とか考えてるのか?」

「へ?お前…エスパーなのか」

 驚いて二木の方を見るとニヤニヤしているのがわかって、またムカついた。

「お前専門のな。だけど、王子に何も言わないのはダメだと思うぞ」

「何でだ?」

 二木のアドバイスを聞くのも少し抵抗があるが…ここは聞くべきだよな。

「あの王子様だぞ。お前と同じで…いや、お前より鈍感か。その王子様が相手なんだからキチンと言葉で伝えておかないと伝わらないと思うぞ」

 …確かにそうかもしれない。ん?ちょっと待てよ。

「確認だが、二木は王子の事が好きではないよな?なぜ、そこまでわかっているんだ?」

 やけに王子の事がわかりすぎてるよな。

「はあ?ないない!俺が何年お前達の話を聞かされていると思っているんだ?姫野と王子の性格分析なら俺に任せておけよ」

 納得できるような、出来ないような…。

 二木は王子とも話をするからな。気がついたら俺より話をしていることもあったくらいだ。その後はきっちり話し合ったが、コイツは懲りないんだよな。二木はコミュニケーション能力が高すぎるんだよ。

「良いか、王子にプレゼントでも買ってプロポーズしてこい」

「はあ!?プ、プロポーズ!?」

 付き合いだした所なのに、もうプロポーズ!?

「何言ってるんだよ。お前達は婚約者なんだぞ。それに何年の付き合いだよ。お互いの事はよく知っているんだから全然おかしくない!」

 言いきったな。

「それとも、ヘタレ姫様返上したかと思ったが、やっぱりダメか?」

 二木は煽れば俺がのって来ると思ってるんだろうと言うのが見え見えだ。

「…その手にはのらない」

 チッ…!

「今、舌打ちしたか?したよな?」

 二木に顔を近づけて睨み付ける。

「近い、近い。わかった。こうなったら俺が一肌脱いでやる」

「え?」

 それはそれで心配なんだけどな。

「心配するな。お前の幸せは俺の幸せだ!」

「何だそれ?」

 いや、一体何するつもりなんだ?
 
 

 
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