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第13話「新居探索③」

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 メイド亡霊少女達を天へかえしたダンとスオメタルは……
 この城の使用人だったらしき、各所で襲いかかる大量の亡霊どもを葬送魔法で昇天させながら更に奥へ進む。

『おいおい、何でこんなに亡霊だらけなんだ?』

『どうやら……魔王軍に殺されたでございます。マスターが勇者として、市場より見出される前でございますね』

『くそ! ここの領主だった奴は外道げどうだ。使用人を見捨てて自分だけ逃げやがったな』

『さっきのメフィストではありませんが、人間の皮をかぶった悪魔、超が付く最低の外道、畜生野郎でございます』 

 突き当りに、らせん状の階段がある。
 ところどころ崩れ落ちているが、何とか上っていけそうだ。
 
『マスター』

『何だい?』

『初めてマスターと組み、不死者アンデッド退治を行った時から、感じていた事がございます』

『スオメタルと初めて不死者退治を行った時から?』

『はい、スオメタルはホラー超大好き少女ですから、全く平気なのですが、男子でお化け嫌いの方は意外に多いでございますゆえ』

『ああ、確かに男で怖がりは多い。俺は今こそ平気だけど、最初は怖いし気味悪かったよ』

『スオメタルが見ていても、マスター、お化け全く平気でございますよね』

 スオメタルの感じた疑問。
 何故、ダンは不死者や亡霊のたぐいに恐怖を感じないのか?

 しかしダンは拍子抜けするほどあっさり答える。

『うん、ゾンビとか、気持ち悪いとか臭いのにも慣れた。いじわる王女アンジェリーヌ様に散々、バイトやらされたから』

『バイト?』

『ああ、バイト』

『何のバイトでございますか?』

『墓守り!』

『墓守り! ああ、成る程でございます 心と身体が鍛えられるでございますね』

 ダンの言う墓守りにはふたつの意味がある。
 ひとつは墓の継承者、もうひとつは墓地の管理者だ。
 
 ダンがバイト……
 委託されたのは、墓地の管理者の方である。

『うん、しばらくの間、王女の命令であちこちの王立墓地へ行かされた。王女曰はく、修行の一環、不死者アンデッド対策の鍛錬だって』

不死者アンデッド対策でございますか』

『おう! でも、後で分かったけど、俺を使ったのは、単に人手不足と経費節減の為だった』

『王立墓地でろくに墓守りを雇えないとは、情けないと言うか、何というケチ臭さでございますかねぇ』

『そうそう、ケチってちゃんと弔っていないから、葬られた人が皆、不死者化。天へちゃんと還れなかったんだ。はあ……』

『結果、その経験でマスターは、不死者アンデッドにほぼ慣れたと』

『ああ、その通り! いじわる王女のお陰で素敵な経験をさせて頂きましたよ』

『……それ、スオメタルは思いますけど、あまり素敵な経験ではないでございますよね』

『ああ、素敵な経験じゃない! とんでもない経験だよ』

『やっぱり、ジャストアジョークでございましたね』

『ああ、単なるどころか! 笑えないジョークだよ。俺が派遣されたリオン王国の墓地はどこもかしこも酷かった』

『ほうほう』

『野外にある、吹きっさらしの見張り小屋で徹夜の連続。もわんとした実体のないのが出たり、ぼこぼこと土の中から腐った手が出て全身がずるずる出て来たり、たまらんかった……それも超が付く大量に……』

 ……ダンの労働環境はとても悲惨なものだったらしい。
 思い出すと愚痴が止まらないようだ。

『通常は王立墓地なら、充分な対策が為されるでございますから』

『その通り。まともな墓地なら創世神教の司祭が正規の葬送魔法を使うし、墓守りにも邪気を払う法衣ローブとか、お守りや銀製の武器が無償配布される。でもそんなの一切なし、勇者武具も着用禁止だった』

『勇者武具だと、ひと目で勇者がバイトしてるとばれますゆえ、王家は世間体を気にしたでございますね』

 スオメタルは苦笑し、大袈裟に肩をすくめる。

『お気の毒でございました。マスターの魂の叫びでございますね』

『まあな……だけど、もう突き抜けちゃったよ。今では亡霊とかゾンビは全然平気だ。ゴキブリの方が嫌だもの』

『うふふふ。私もミミズは苦手でございますからね』

『他の鍛錬同様にそのバイトの積み重ねで不死者が平気になったから、結果良し……なんだけどな』

『ま、雨降って地固まるでございます』

『全くだ』

 ダンが同意すると、スオメタルはちらと階上へ目を走らせる。

『……話はいきなり変わりますが、そろそろ最上階の部屋でございます。多分、この気配はノーライフキングだと思うでございますが』

『一応、魔法さえ気を付ければ、俺達の敵じゃないだろ』

『はい、ノーライフキングと言っても所詮は人間が長期保存用干物になったモノでございますゆえ』

『人間の干物か? おいおい、すげぇ事言うな』

『いえいえ。単なる事実……でございます』

『分かった、了解!』

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ダンとスオメタルはなおも進み、最上階の様々な書物が書架に詰まった、
 書斎らしき部屋に、この古城に巣食う『主』は居た。

 スオメタルの言う通りの風貌、干からびたミイラのような、
 ノーライフキング。
 不死の王と呼ばれる魔人である。

 飄々としたダン、落ち着き払ったスオメタルを見て、
 ノーライフキングは、勝手が違うとばかりに戸惑う。

『貴様ら! 何者だ! 魔王様亡き後は、ワシの天下だ! この城に居た人間どもは全てワシの瘴気しょうきで皆殺しにしてやった! お前らも死ねぇ!』

 しかし、ダンとスオメタルはノーライフキングの質問を華麗にスルー。

『お~、さすがノーライフキング、コイツも念話を使うんだ』
『魔力感知! 分析! 結論! ……そこそこの能力を持っているようでございますよ、マスター』

『くっそ! さすがとか、そこそこだとぉ! このワシをバカにしやがって、喰らえ!』

 ノーライフキング某は不死者特有の怨念がこもった波動、そして瘴気を放って来た。
 しかし前面に立つダンは、おぞましい波動を受けても、瘴気に包まれても全く平気な顔をしていた。
 背後に立つスオメタルも、ダンを心配する様子が全く無い。

『あはは、そんなん効かないって』

『何だと!』

『俺さ、ある事情でさ。呪いとか、瘴気の類が一切効かなくなったんだ』

 ある事情……
 それはダンが『救世の勇者』として選ばれた事である。
 しかし敵にそれ以上説明する必要などない……

『何だと! ならば、凍りつけ!!』

『そう来ると思った! はい、障壁!』

 さすがノーライフキング。
 無詠唱で瞬時に凍結させる、水属性の高位魔法を放った。
 
 が……
 これまた同時に発動され、ダンとスオメタルの前に張り巡らされた魔法障壁が、
 全てを吸収してしまった。
 室温はほんの少し下がった程度である。

 ノーライフキングは悔しそうに地団駄を踏んだ。
 「ぺしぺし」と情けない音がした。

『き、貴様! ワ、ワシの魔法を無効化したな! だ、だが同じだ! 貴様の魔法も、今や世界で最強たるノーライフキングの儂には効かぬ! 全て無効化してやるわい!』

『ははは、無効化違うって。それと、ついでに言おう。お前は世界最強じゃないって』

『な、何ぃ!』

『俺が作ったこの障壁は、魔法を単に無効化しただけじゃない。お前の身体を包み込み、ず~っと体内魔力を吸収しているのさ』

『な、何だと!? くっそ~~ぉぉ!!』

『ほらほらぁ……吠えてる間に、お前の体内魔力は、もうほんのちょびっとしか残ってねぇぞぉ』

『ななな、くっそ!』

『ほら、速攻で魔力は枯渇、すなわちゼロになるぜ』

『な! ゼロだと!?』

『ああ、ノーライフキングなら知ってるだろ? 魔力が完全に枯渇、つまりゼロになったら、誰でも活動を停止する。不死者アンデッドも例外じゃない』

『うぐぐぐぐ、お、おのれぇ!』

『俺の魔法は特製だ。お前みたいな不死者へすぐに止めを刺す。即座にボン! サヨナラだ。生まれ変わって幸せになりな!』

『うぬぬぬぬ! も、もし! わ、儂が消えても舎弟達がぁぁぁ!!!』

『あはは、お前の舎弟なんてもう居ないよ。亡霊もガイコツも倒したって』

『くっそ~!!!!!』

 お下品な言葉が、ノーライフキング最期の言葉であった。

 ボン!
 というベタな音と共に、干からびた身体は消滅していたのである。
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