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第14話「新居探索④」

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 逃げ遅れた使用人を全員虐殺し……
 廃城に巣食っていた主ノーライフキングが倒された瞬間。
 周囲にあった重圧プレッシャーがどんどん軽くなって行く。
 城中に満ちていた澱んだ瘴気もあっという間に消失して行く。

 ダンは満足そうにポンと胸を叩く。
 勝利を得た時に、良く見せる彼の癖である。

『よっし、スケルトンも亡霊も全滅させた。親玉ノーライフキングも倒した。これで掃除&リフォームすれば、この城に住める。生活物資は買い揃えて、俺の魔道具、収納腕輪へたっぷりと貯め込んであるからな』

『御意でございます。念の為、各所をもう一度だけ確認し、余計なモノが出ないか見届けるでございます』

『了解! その前にこの部屋の本を含め、ノーライフキングの遺品をチェックしておこう。殆ど魔導書だろうが、スオメタルの手掛かりになるようなガルドルドの記述でもあると良いな』

 ノーライフキングが居を構えていた部屋を見回し……
 ダンの目が妖しく輝いた。
 持ち前のジャンク屋魂に火が点いたらしい。

 一方のスオメタルは、ノーライフキングの遺産が彼女の趣味には合わない様子だ。

『御意でございますねって、うっわ! 何か、肉片が残った人間の骨格標本とか、とんでもなくどぎつい色の、超怪しい薬品とかもあるでございますよ』

『う~ん。あいつ、どんな研究してたんだろな?』

『主に死霊術だと思いますが、我々とは真逆の趣味であり、相当に不気味でございます』

『だな! さすがに骨格標本は葬送魔法で塵にするとしても、書物、書類は勿論、薬品関係とか、後々役に立つかもしれない。めぼしいものは全部持って行こう! 呪われてても俺達には関係ないし!』

『スタップ、マスター。後々役に立つかもしれないし……というのは、ガラクタをため込む輩《やから》の常套句でございますよ』

『どき! ま、まあ、良いじゃないか。不要ならポイっと捨てれば良いよ!』

『そう言いながら、簡単に捨てられないのが収集家の性癖でございますけどね』

『どきどき! まあ、いずれ、前向きに努力するよ』

『いずれ努力とか、どこかのやる気のない政治家みたいな口ぶりでございます』

『……頑張る』

 いつになく鋭角にとがった、スオメタルの口撃。
 ノーライフキングの攻撃は無効化したダンも、
 散々ダメージを喰らい、最後は言葉少なとなってしまったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 散々ダメージを受けても、挫けず諦めずが収集家の長所?である。

 という事で、けしてめげないダンは帰路、上機嫌である。
 案の定、亡霊達、不死者の類も全く出現しない。

『やっぱ、この城の全ての元凶はノーライフキングだったな』

『の、ようでございますね。今のところ問題なし、ノープロブレムでございますよ』

 と、その時。

『あの~』

 誰かが、ダンとスオメタルを呼んでいる?
 少女の声のようだ。

 ちゃんと聞こえているはずなのだが……
 首を傾げるふたり。

『何か、聞こえたか?』
『いいえ~、多分、気のせいでございますよぉ』

 少女の声は徐々に大きくなり、すがるような口調へと変わる。

『あの、待って……』

『うん、幻聴げんちょうだよな?』
『はい、絶対そうでございます。何も聞こえませんでございます』

 終いには手で耳をふさぐふたりを見て、少女は遂に切れた。

『待てや!! ごらぁ!! めんどくさがって、聞こえんふりするんじゃねぇ! たたってやるぞ、とりついてやるぞぉ!! ひとりじゃ死なねぇぞ!!』

 しかたなく、という感じでダン達が振り向けば……
 独特の白と黒を配したゴスロリ風メイド服を着た、ひとりの少女が立っていた。
 15歳くらい、スオメタルと年齢が同じくらいの少女である。

 しかし気配からすぐ分かった。
 実体ではなく、魂の残滓、つまりは亡霊である。

『あれれ? まだ残ってた? それにしても言葉遣いが微妙だ』
『はい、祟るとか、とりつくとか、ひとりじゃ死なないとか、貴族に仕えるメイドなのに言葉遣いが大変バッチイでございます』

『う~ん、だとすると悪霊かな?』

『御意でございます。多分、心安らかに天へ召されていなかったからでございます。わけありの悪霊でございますかね?』

『こら! わけありとか! 人を売れ残りのバーゲン品みたいに言うなっ!』

 しかしダンとスオメタルは亡霊少女の物言いを華麗にスルー。
 悪魔を始め、邪悪な人外に話を合わせると、心が付け込まれやすいのは、
 世の常、お約束だからである。

『ま、良いか』
『可哀そうですがコイツも、さっさと葬送魔法で片づけるでございます』

 しかし、亡霊の少女は懇願した。

『ま、待て! 葬送魔法使うな! わ、私は! あわれな被害者なのだ!』

『あわれな被害者?』
『マスター、こんな悪霊の戯言ざれごとを聞く必要はないでございます』

 しかし今度は少女がダンとスオメタルを華麗にスルー。
 一方的に喋りまくった。

『私はタバサ、見習い魔法使いだ。この城でメイドのバイトをしていたら、領主に置き去りにされ、ノーライフキングの襲撃に巻き込まれたのだ。だから助けろ!』

 いろいろ、本当に『わけあり』らしき少女――タバサである。
 しかし、突っ込みどころが満載だ。

『見習いって、コイツ、その割には相当な上から目線だな』
『半人前の癖に、偉そうでございます』

 ダンとスオメタルの言葉を聞き、タバサはふんと鼻を鳴らし、ふんぞり返る。

『偉いんだから、仕方がねぇ。私は天才で底知れぬ知識の持ち主、且つ大器晩成型なんだも~ん!』

 天才で大器晩成型……
 ああ言えば、こう言う。

 呆れ果てたダンとスオメタルは顔を見合わせ、頷き合う。
 タバサに対し、どう対応するか決めたようだ。

『ま、良いよ』
『仕方ないから助けるで、ございます』

『おお、助けてくれるのか! ならば、お前達の未来は、強力な魔導灯のように明るい! 私の力は必ず役に立つぞ!』

 タバサの顔が歓びに輝くが……
 単なるぬか喜びだった。

 ダンとスオメタルの、情け容赦ない言葉がさく裂する。

『ああ、助けてやる! 葬送魔法で速攻天へ送ってやる』
『お前を、東方の言葉で送りましょう。とっとと成仏するでございます』

『えええええっ! 成仏、スタ~ップ! 待て待てぇ! 聞いてくれ~!! 私の華々しい経歴と涙失くしては聞けない過去をモノ語ってやるからぁ!!』

 まだ現世に未練があるらしい亡霊少女タバサは……
 ダン達の都合などお構いなし。
 ガンガン語り始めたのである。
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