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第20話「驚きのライトサイドな見学①」

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 シモンはアレクサンドラに連れられ、長官専用応接室を出た。
 庁舎へ連れて来られてから、ずっと考えていた事がある。

 ティーグル魔法大学の先輩、アレクサンドラ・ブランジェ伯爵は王国復興開拓省の長官である。
 
 この省ではトップ。
 彼女は「一番偉い」はずだ。
 
 それに、国王陛下の弟君、宰相マクシミリアン殿下の元補佐官。
 まさに懐刀であった。
 否、現在もそうに違いない。
 立ち上げたばかりの王国復興開拓省において、省の運営や予算折衝を始めとして、
 行う執務は多忙に多忙を極めているはずだ。

 なのにどうして?
 と、シモンは改めて不思議に思う。
 不思議に思うその理由とは……

「ええっと、先輩。ちょっと宜しいですか? ひとつお聞きしますけど」

「構わないわよ、なぁに?」

「先輩は普段は大変お忙しいのですよね?」

「ええ、毎日すっごく多忙よ。目が回るくらいにね」

 やはり! である。
 シモンの想像以上に、アレクサンドラは多忙に違いない。

「でもですね、それなのに先輩が自ら、案内して頂けるとか、そもそも俺へのスカウトだって、わざわざ直接いらして頂いたとか……さっきお見かけした秘書さんとか、代わりの方にお任せするとか、しないのですか?」

「え? どうしたの? 今更?」

「いや、ホント俺如きに……トップの長官自らって不思議なんで」

 シモンが疑問を呈すると、アレクサンドラは少しだけ顔をしかめる。

「だからぁ、シモン君。何度も言わせないで。全然俺如きじゃないですって。君はね、私が見込んだ有能で大事な人材なの」

 有能で大事な人材!!
 正直嬉しい。
 
 そして……
 やはり、「請われて、仕事をする歓び」とは素晴らしい!
 シモンは、そう思う。

「そう仰って貰えると、本当に嬉しいですけど……」

「さあ、行きましょ」

 アレクサンドラが先導し、シモンは後をついて行く。
 彼女は、まず長官専用エリアを案内してくれるらしい。

「今まで私達が居た5階の一画が長官室。つまり私専用の区画ね」

 シモンが居た応接室以外に……
 執務室兼用の2間分を費やした広い書斎には王国内外の地図、風土記、そして魔導書もぎっしり。

 そして理事長専用の広々とした会議室。
 更に様々な魔道具が大量に置いてある研究室。
 
 大きなベッドのある寝室、厨房、浴室、トイレ付きのプライベートルーム等々は、
 さすがに「口頭で説明だけ」であった。

 長官エリアは、空間を贅沢に使っていた。
 これではまるで、『自宅』である。

 ちらと聞けば、1か月以上、ぶっ通しで泊まり込んで執務を行う事も「ざら」らしい。
 「しばらく、こんなペースは続きそう」だと笑う。
 
 本当に、アレクサンドラは多忙なのだと実感する。

「先輩のお身体が心配っす。俺は身体が頑丈だったから、何とかなりましたけど」
 
 にっこり笑ったアレクサンドラは、シモンへ本音を告げてくれた。

「今のうち、私がしっかり働いて、王国復興開拓省の基礎と実績を作り、優秀な人材も集めたい。ウチの職員が前向きに、健康的に働ける環境にしたいのよ」

「でも……ご無理はしない方が宜しいかと」

 シモンが重ねて心配すると、アレクサンドラは嬉しそうに笑った。

「うふふ、シモン君は優しいね、心配してくれて、ありがと。でも私、仕事は楽しんでやってるし、健康チェックもまめにしてるから大丈夫。その代わり、休む時は君達部下に任せて、どんと休んじゃう! それが私のモットーだから」

 シモンはアレクサンドラの考えに大いに同意、共感した。
 自分も、そうでありたいと思う。

 長官エリアの各所に置かれた調度品は、豪華で金にあかせた貴族的なものというより、渋くてセンスの良いものが多い。

 それも、シモンには好ましい。

「はあ、5間続きの部屋が全て長官エリアですか? 凄いっすね。広いっすね、その上、超豪華です」

「まあ、ね。魔道具と魔導書が一番、場所取ってるけど。あ、自宅はもっと凄いわよ。私、魔法オタクって言われてるから」

「魔法が大好きなんですね」

「ええ、私にとって、仕事と並んで魔法の研究は命だから!」

「俺も魔法が大好きです。地道にこつこつやっていますけど……先輩を見習います」

「うふふ、嬉しい事、言うじゃない、可愛い後輩君!」

 5階は他に長官専属秘書の控室。
 王国復興開拓省の所有する貴重品や重要書類を収納する大金庫などがあるらしい。 

 1階のホールから5階へ上がる際は、魔導昇降機を使い、一気に昇ったが……
 今度は階層ごとの案内なのでふたりは本階段を1層ずつ降りて行く。

「4階が次官室、次官補など幹部職員達の個室、幹部職員専用の会議室。そして管理部門の総合事務所。3階は一般職員用の職員室。一般職員用の会議室とロッカー。職員用食堂。シモン君はね、幹部職員用の個室に席を置く事になるわ」

「うわ、個室っすか? 俺、いきなり個室が貰えるんですか」

「そうよ! 頑張ってね」

 アレクサンドラは笑顔でそう言うと、並んでいる個室の中で、ひとつの扉の前に立ったのである。
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