転生した聖女は、異世界で初恋の騎士と出会う

東導 号

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第29話「愛の伝道師、帰還」

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【相坂リンの告白⑬】

 ようやく……
 トイレに立ったクリスさんとジェロームさんが個室『宝剣の間』へ戻って来た。
 少し長かったから、何か相談事をしていたのかもしれない。
 
 でも、良かった!
 シスターステファニーとは恋の火花を散らしていたから、結構辛かった。
 
 そのシスターステファニーは、やはり熱い眼差しをクリスさん、
 否、トオルさんへ送っていた。

 確信した。
 シスターステファニーは本気だ。
 こうなるとトオルさんを巡っての戦いは、避けられそうもない。
 でも、私は絶対に負けない!

「ただいま、戻りました!」

「おう! 戻ったよ!」

 王都騎士隊の隊長、副長のふたりは、大きな声で帰還宣言きかんせんんげんをして、元の席に座った。
 ちなみにアランさんは一足先に戻って、
 早速シスタージョルジエットと話し込んでいる。

 辺りをはばかるようなひそひそ話なので、良く分からないが……
 どうやら真剣なやりとりを行っている。
 喧嘩ではないのが、幸いだが……

 でも人より自分の恋。
 よっし、ここは先制攻撃。
 シスターステファニーに勝つ為に、ことわざ通り先んじよう。

「お帰りなさい~! 待ってたわ」

「ただいまっ」

 「挨拶は元気良く!」が、看護師である私のモットー。
 あ~んど、爽やかな、笑顔を合わせるのが基本。
 
 お互いに気持ち良いから。
 うん、トオルさんも分かっていて、素敵な笑顔で返してくれた。

 でも、トオルさんは私に挨拶した後、きょろきょろしてる。
 あれ、シスターシュザンヌを見てるぞ。
 どうして?

 と、不思議に思った私は、はたと気付いた。
 
 トオルさんはいつもの癖が出たのだと。
 『愛の伝道師』としての、気配り癖が。
 
 案の定、哀しそうな表情をしてる。 
 先ほどジェロームさんから冷たくされたシスターシュザンヌを、
 何とかケアしてあげたいと考えているに違いない。
 相変わらず優しいなぁ……

 ついトオルさんの仕草を観察してしまう私。 
 次にトオルさんは、アランさん、そしてシスタージョルジエットを見た。
 
 先ほども言った通り、
 幹事同士、ずっと『ふたりきりの世界』に入っている。

 私が最後にトオルさんが見たのは……
 私の恋敵ライバルで、
 いやいやリュカさんの相手をしている、シスターステファニーだ。
 必死にシスターステファニーを口説くリュカさんだが
 疲れと焦りの色が見えている。

 改めて見やれば、一番『危険人物』だったシスタージョルジエットだけが幸せになっている。
 古いベタなギャグだけど、な~んでこうなるの!?
 
 シスタージョルジエット以外の参加メンバーは、私も含め、
 いろいろ『難あり』となっている。
 その上、そろそろ男子チームの席が変わる頃だ。
 トオルさんが移動して、シスタージョルジエットの対面に座ってしまう。
 更にその次は……
 シスターステファニーの対面に座ってしまう。

 と、その時。
 トオルさんが一声。
 私の勘は良く当たる。 

「ええと……そろそろ席替えを……」

 どかんっ!
 ミシッ!

「わっ!」
「ああっ!」
「きゃっ!」

 シスター達の悲鳴があがった。

 私だって驚いた。

 わあああっ!
 誰かが、床を思い切り踏んだよっ。
 
 音がした方を「そうっ」と見れば……
 アランさんの傍の床がクラッシュしていた。
 結構大きなひび割れが入っている。
 
 改めて思った。
 騎士さんって、凄いパワーだって。

 でもアランさん本人は一見冷静で、微動だにしていなかった。
 視線さえ動かさず、
 シスタージョルジェットをずっと見つめている。
 ちょっと怖いかも……

 ふとトオルさんを見やれば、 
 アランさんの行為に納得したみたいで頷いていた。
 何か、ピンと来たみたい。 
 
 でも、少し経ってから、アランさんより指示があった。
 「あと10分、席を現状のままで」と、延長申し入れがあったのだ。
 
 これって、凄く分かり易い。
 つまり、あと10分あれば……
 「シスタージョルジェットと、深い仲になれる」という意味だろう。
  
 軽くため息をついた私は、改めてトオルさんを見た。
 ……トオルさんは、何やらジェロームさんと話していた。 

 そして、トオルさんが口を開いた。
 場の空気を和らげる為、わざと3枚目を演じているようだ。
 
「シュザンヌさん! フルールさん! お菓子は好き?」

「大好き!」

「超好き!」

 わぁ、トオルさんが素敵な話題を切り出した。
 女性で、お菓子が嫌いな人を私は見た事がない。
 美味しそうなお菓子を想像して、私は思わず笑顔となる。
 
 シスターシュザンヌも、満面の笑みで応えてくれた。
 会話が少しずつ、盛り上がって来た。

 ここは、『特別なフォロー』のタイミングなのだろう。
 トオルさんが、私ではなくシスターシュザンヌへ話しかけたから。
 
「シュザンヌさんは、お菓子とか、ご自分で作ったりするのですか?」

「ええっと、私は、あまり……」

 トオルさんの質問を聞き、シスターシュザンヌはトーンダウンしてしまう。
 私は知らなかったけど、
 彼女はあまり、料理やお菓子つくりが得意ではないらしい。

 シスターシュザンヌの反応を見た上で、
 トオルさんがジェロームさんへ、何か囁いている。

 すると、
 ジェロームさんは「承知した」という雰囲気で、柔らかな笑みを浮かべ、頷いた。
 そして、シスターシュザンヌへ、身振り手振り付きで話しかけたのである。
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