転生した聖女は、異世界で初恋の騎士と出会う

東導 号

文字の大きさ
31 / 37

第31話「お菓子で和解」

しおりを挟む
【相坂リンの告白⑯】

 ジェロームさん……
 今迄と、どこかが違う。

 否!
 全く違う。 
 360度!
 あれ、それだと元に戻っちゃうから、180度変わってしまった。

 ヴァレンタイン王国では、建国の英雄バートクリード・ヴァレンタインに付き従った円卓騎士の子孫。
 累々と続く武家貴族の名門カルパンティエ公爵家の御曹司、
 ジェローム・カルパンティエさん。 
 
 王都騎士隊では飛び抜けた硬派で武骨度ナンバーワンだと聞いた。
 独身シスター達の噂の中心人物。
 まさに『おとこ』という文字がぴったりの方。

 それが、それが、何と!
 今、私の目の前で!
 大好きなお菓子の話題で!
 シスターシュザンヌへ、柔らな笑みを受かべ、活き活きして話しかけてる。
  
 確かに最初はそうだった。
 ジェロームさんのファーストインプレッションは、
 噂通りの方、プラス大の口下手だった。
 女子への気遣いのなさも大きな減点だった。
 対面席のシスターシュザンヌが可哀そうだった。

 うん!
 気付いたかしら?
 全部過去形なのでっす。
 
 私は改めて学んだ。
 ごめん、若手のカミーユさんはこの際どうでも良いから置いといて……
 クリスさんことトオルさん、アランさん、そしてこのジェロームさんを見てはっきりと分かった。
 やっぱり、噂ってあてにならないと思ったの。
 
 だって!
 目の前のジェロームさんは、もう別人!
 魔法で変身したとか?
 あはは、まさか!

 でも……
 女子に対しての『ぎこちなさと口下手』が消えちゃった!
 大好きらしいお菓子の話だけでいえば、ジェロームさんはディベートの達人だもの。
 騎士だけじゃなく、政治家にも向いてるかも。

 片や、シスターシュザンヌも機嫌が完全に直ってる。
 こわばっていた表情が、ぐっと柔らかくなり、笑顔へと変わってる。
 
 あらら、身を乗り出してジェロームさんとお菓子の話で盛り上がってるよ。
 うふふ、何だかふたりは、熱々な恋人みたいになっちゃった。
 
 ジェロームさんの話は益々熱を帯び、口調はとても滑らか。
 もしもフィリップ殿下がこの場にいらっしゃったら、
 政治家へまっしぐらかも、ホントに。
 
 でも!
 私だって美味しいお菓子の話は嫌いじゃないというか、超が付く大好き!
 だからトオルさんにアイコンタクトして、意思疎通。
 
 頃合いを見て、途中から私とトオルさんんが入り、
 都合4人で展開された『お菓子話』は異様に盛り上がった。
 
 いろいろと話してみて、更に吃驚びっくり
 
 ジェロームさんは、単に美味しいお菓子を食べるだけの方じゃなかった。
 様々なお菓子の作り方に精通していたの。
 それどころか、王都のありとあらゆる製菓店の情報にも詳しかった。
 トオルさんが聞けば、休みの日はこっそりと、ひとりで食べ歩きまでしているという。
 
 硬派で武骨なイメージの隊長ジェロームさんに、
 このような趣味があったとは、トオルさんも全然知らなかったらしい。

 でもジェロームさんは目立つ方。
 背恰好もそうだし、お父様にそっくりのイケメン顔を見ればひと目で分かるもの。
 
 なので、トオルさんも気になったみたい。
 「よくばれませんでしたね」って聞いてみたら、何と!
 万が一、知り合いに出くわしてもばれないよう、変装していたんだって!
 
 うわ!
 この人、もう単にお菓子好きってレベルを超越してる。
 お菓子超大好きな私だって、そこまではやらない。
 
 凄い。
 この人は私のラノベ趣味に匹敵する立派な菓子オタク、
 否!『菓子マニア』だ。
 
 でも……
 逞しい騎士が、ひと目を避けて、こっそりとひとりで食べ歩き……
 というのが、微笑ましい。
 
 これってギャップ萌え!?
 
 ああ、シスターシュザンヌったら。
 晴れ晴れとした笑顔を見せちゃって!
 対してジェロームさんからも、愛が感じられる。
 間違いない!
 
 おっと!
 ジェロームさんが手を高々と挙げた。
 何だろう?

「この俺が保証しよう。現在この王都で1番の菓子店と言えば金糸雀《カナリア》だな」
 
 え?
 金糸雀カナリア
 王都のナンバーワンショップ!?
 あららフルールは……残念ながらこのお店を知らないみたい。
 
 でも!

「ああ、そのお店なら……聞いた事があります」

 おお! 
 凄い!
 何と!
 シスターシュザンヌは金糸雀カナリアを知っていた。
 
 私は改めて確信した。
 シスターシュザンヌはメンバー中、ジェロームさんに準ずる甘党だって。
 
 であれば、ジェロームさんとは相性抜群。
 これは……素敵な予感。
 
 つらつら考える、私……
 一方、ジェロームさんとシュザンヌさんは、更に盛り上がり、
 お菓子の話を重ねて行く。

「うむ! シュザンヌさんはご存知だったか? 実はまだ知る人ぞ知るという店なのだ」

「知る人ぞ知る……ですか?」 

「うん、これも貴女はご存知かもしれないが、金糸雀カナリアのパティシェは、女性だけ。全員、情熱を持って仕事をしている素晴らしい女子達だ」

「素晴らしい女子達……」

「ああ、俺は働く女性を尊敬している。彼女達の作る焼き菓子は王都では味もセンスも抜群。その上、手頃な価格で飲食出来る、小さなカフェも併設しているぞ」

 あは!
 ラッキー!
 前世でも経験があるけれど、熱心なマニアの情報って凄く有益。
 ジェロームさんの話し方は、お菓子に対する愛情がいっぱいだったから。
 
 そんな菓子命の人が、力を入れて推薦するお店だもの。
 ほぼ完璧であるはずだ。
 
 わお!
 ひらめいた!
 私もぜひ、トオルさんと行こう。
 お菓子デートってのも楽しみ!
 
 ああ、トオルさんが私を見た
 よっし、お返しにウインクしてあげる。
 
 ああ、伝わったみたい。
 今度、絶対に金糸雀カナリアへ行こうね。
 ふたりで一緒にね! 

 まあ、お菓子の話だけじゃなく、
 徐々に4人での話題は変わり、お互いの仕事に関してという真面目な雰囲気。
 
 元々、聖女と騎士は接点がある。
 実はこの異世界、昔とは違い、戦争は殆ど無い。
 
 騎士の仕事の大部分は魔物討伐である。
 その際、私達聖女も回復役として戦場に同行する。
 今回のセッティングも、シスタージョルジエットとアランさん、
 そのつながりから起こったものだから。

 ああ、またトオルさんが素敵な笑顔を見せている。
 大好きな先輩が幸せになるのを見て、嬉しいみたい。 
 うん!
 私もシスターシュザンヌには幸せになって欲しいな。

 そんなこんなで……
 まもなく、10分が経つ。
 そろそろ次の席替えになる時間だ。

 店の壁に掛かっている魔導時計を見ていたら、
 丁度秒針を指すと同時に、アランさんが勢いよく立ち上がった。
 
 気になった私はシスタージョルジェットを見た。
 
 うわ!
 この子……すっかり変わってる!
 アランさんを女性の敵と罵り、糾弾しようって怒っていたのに!
 
 ああ…… 
 夢見るような乙女になっちゃってる。
 頬を紅くし、ぽ~っと、アランさんを見つめているよ。

 これは、アランさんの恋の攻撃が命中!
 完・全・撃・破って奴?

 アランさんは、リュカさんを促して立たせると、左側に座った。
 シスターステファニーの正面である。
 
 そして私へ恋のライバル宣言をしたシスターステファニーは、
 席替えをして貰い、はっきりと安堵の表情が見える。
 多分、リュカさんは彼女のタイプではなかったのだろう。

 こうして……
 私の前にはジェロームさん、シスタージョルジェットの前にはトオルさんが、座り、食事会は再開されたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

処理中です...