36 / 37
第36話「大団円①」
しおりを挟む
【大門寺トオルの告白⑱】
「じゃあクリス副長、早速、冒険者ギルドへ行ってきま~す」
今朝も……
カミーユが元気良く、王都騎士隊本部から出かけて行く。
奴は3か月の期間限定出向先である、冒険者ギルド総務部へ向かうのだ。
「おう! ご苦労様。頑張れよ、バジル部長に宜しくな」
「はいっ! 副長、了解でっす」
気合が入りまくりのカミーユは、最近仕事ぶりも真面目で前向きだ。
原因は、はっきりしている。
最近……
奴には、可愛い彼女が出来たのである。
え?
可愛い彼女って?
カミーユがひとめぼれした、枢機卿の孫娘・創世神教会所属の聖女ステファニー殿かって?
いやいや、全然違う子なんだ。
じゃあ、順を追って最初から話そうか。
実は……
俺がアランに殴られた『合コン』から、もう半年が経っている。
あの夜から、俺はフルールさんことリンちゃんと恋人同士になり、
夢にまで見た交際を始めた。
ワンルームであれやこれやと想像したリア充生活を、遂にこの異世界で実現したのだ。
俺がリンちゃんと結婚すれば……
フルールさんの伯父であるバジル部長とは、親せきとして、
一生付き合う事となる。
あの時、部長のフォローは実に大きかった。
部長があの場に居て、上手く話をしてくれたからという感謝の気持ちでいっぱいだ。
公私共々、文句なくバジル部長は俺の恩人。
『愛の伝道師』の名誉ある称号を譲ってもOK。
リンちゃんに、そのように伝えたらすっごく複雑な顔をしていたけど……
話をカミーユへ戻すと……
当然というか、あれから奴はステファニー殿に振られた。
それも、相当悲惨な振られっぷりだったらしく、
しばらく、この世の終わりのような顔をしていた。
俺との『約束』を守らず、スタンドプレーに走るしょうもない奴だが、
見捨てるにはしのびない。
俺は副長の権限を使い、傷心のカミーユのやる気を出させる為……
気分転換を兼ね、期間限定で職場と仕事を変えてやったのである。
俺自身がやりとりをして分かってはいたが、
バジル部長を始めとして、冒険者ギルド総務部のメンバーは皆、良い人達だ。
人間関係で、変なストレスを溜める事もない。
但し、仕事をきちんと真面目にやって貰わないと、
騎士隊とギルドの信頼関係を失ってしまう可能性がある。
なので、俺はカミーユへ厳しく言った。
「一旦約束したら、しっかり守れ」と。
大失恋が原因で精神的に落ち込んでいるから、少し可哀そうな気もしたが……
因果応報ともいえる結果といえなくもない。
ここは上司として、または先輩として、しっかり言わないと奴の為にならない。
「ちゃんとフォローするから、新たな仕事を頑張れ」と、優しく励ました上で、
「あまりにも不真面目なら、即、除隊もある」と脅したのが効いた。
完全に心を入れ替えたカミーユは、日々頑張って、真面目に仕事をしていたらしい。
カミーユが、ひたむきに仕事に打ち込めば、きっと見てくれる人は居る。
俺は……そう信じた。
すると、「捨てる神あれば拾う神あり」という諺通り……
カミーユにも素晴らしい奇跡が起こった。
傷心のカミーユの身に起こった素晴らしい奇跡。
それは……冒険者ギルド所属の魔法鑑定士ルネさんとの運命の出会いであった。
カミーユから内緒という事で聞かされたが……
ルネさんはそれまで付き合っていた『わがまま彼氏』に悩まされていたという。
普段から凄い不満を持っていたらしい。
なんやかんやあったらしいが……
結局ルネさんは大げんかの末に『わがまま彼氏』と別れ……
驚いた事に、カミーユと「くっついてくれた」のだ。
ふたりが親しくなったきっかけだが……
目の前で仕事に一生懸命取り組むカミーユの姿を見て、ルネさんは信頼し、
プライベートの相談を持ちかけたんだと。
それも、何度も何度も……
結果、ふたりが仲良くなるのは必然。
最終的にはカミーユがルネさんの愚痴をこまめに聞いて、
その度に優しく慰めてあげたのが決め手となった。
正式に付き合いだしてから……
ルネさんは以前の彼氏と違い、喧嘩など全くなく、カミーユと仲良くやっているらしい。
こうなると……
冒険者ギルドへ配置転換して貰ったカミーユは、俺に感謝しきりだ。
ルネさんとは結婚も視野に入れた深い付き合いをしていて、
仕事にもますます気合が入り、良い巡り合わせとなっている。
ちなみに、ルネさんは、カミーユより少しだけ年上。
しかし奴みたいなタイプは、『姉さん女房』の方が良いかもしれない。
え?
合コンのメンツがあれからどうなっているのか、気になるって?
バッチリさ!
全員、上手くやっている。
『赤い流星』アランは、宣言通り、ジョルジェットさんとすぐに結婚した。
結婚直後、リンちゃんと共に新婚家庭に招かれたが、相変わらず熱々だった。
そしてこちらも予想通り……
カルパンティエ公爵家の御曹司であるジェローム隊長も、
シュザンヌさんと最近婚約。
聖女であるシュザンヌさんの出自は騎士爵家の娘であるが、最近の風潮から身分の差は問題ないと思われた。
でも、さすがカルパンティエ家は古風で保守的な名門貴族。
今どきの風潮だからと、簡単にジェロームさん達の結婚を認めなかった。
ジェロームさんの父カルパンティエ公爵が身分に加え、
俺から見れば本当に失礼だとは思うが……
ジェロームさんより年上のシュザンヌさんの年齢(推定30歳)を理由に猛反対したのだ。
しかしジェロームさんは、
「愛はすべてに勝る! 俺はシュザンヌを愛している!」
と強硬に父の公爵へ主張。
騎士隊隊長の仕事にも勝る熱意と真剣さで、堂々と押し切ったそうである。
こうなると、シュザンヌさんは大感激。
その場で号泣したらしい。
結果……
こちらも今や、アラン達以上ともいえる相思相愛のあつあつカップルだ。
こうしてめでたくジェロームさんはめでたく幸せを掴んだ。
元々彼はとても義理堅い人である。
今後も俺とは一生末永く付き合いたいと言って来た。
こちらとしても、願ったり叶ったりである。
そして、風の便りに聞いた話だと……
ステファニー殿も祖父枢機卿の手配でお見合いをして、
イケメンで真面目な相思相愛の彼氏を見つけたという。
結局……
あの夜、俺と関わったメンバーは、全員カップルとなってしまった。
この異世界でも、俺の『愛の伝道師キャラ』はバッチリ生きていたということになる。
最後に……
かんじんの俺とリンちゃん、すなわちこの異世界ではクリストフ・レーヌとフルール・ボードレールの現状はといえば、付き合いだしてから交際はいたって順調である。
ああ、恋愛するって嬉しい。
本当に楽しい。
そしてリンちゃんとの付き合いが深くなり、いろいろと話した結果、
運命的な驚愕の事実が発覚した。
幼い頃、俺達ふたりは出会っていたのだ。
いつもトオル君と呼んでくれて、一緒に遊んでいたあの子。
急な引っ越しで離れ離れになった、二度と会えないと諦めていた初恋のあの子。
あの子が何と! リンちゃんだったのだ。
何という、運命的な出会いだろう。
初恋の相手と、未知の異世界で再会出来るなんて!
まさに奇跡。
運命の……否! 宿命の再会であろう。
衝撃の事実に感動した俺は絶対に、彼女を幸せにすると決意したのである。
こうして……
一旦失った初恋を見事に成就させた俺は……
リンちゃんの親にも挨拶して、結婚を認めて貰い、新居も決まった。
俺達は来月、結婚式を挙げる事となった。
実は、今日が結婚式の衣装合わせの日である。
式場は当然ながら創世神教会付属の結婚式場。
こんな日は、時間が過ぎるのを遅く感じるが……
俺は地道に仕事をこなすと、定時より少しだけ早めに王都騎士隊本部を退出した。
前もって根回しをしてあるから、誰もが気持ちよく送ってくれた。
騎士隊本部を出た俺は走る。
王都の石畳の道を、教会へと、ひたすら走る。
息が切れても、構わず走る。
いよいよ!
リンちゃんの、花嫁姿が見れるのだから。
もう胸が、高鳴りっぱなしだ。
先に衣装合わせを始めると言っていたから多分……
教会付属の式場へ到着した俺は、受付で部屋を聞くと、一目散に向かう。
衣装部屋に着いて、ひと呼吸置いてノックをした。
「クリスです!」
「はい! フルールです」
中からは、リンちゃんの声がした。
そして、一瞬の間を置き、
「……どうぞ」
と、入室が許可されたので、俺は扉を開けて部屋へ入る。
すると!
俺の目の前には、着付けの担当の女性、
そして、純白の花嫁用ドレスを着たリンちゃんが立っていた。
おお、リンちゃん!
何という神々しさ!
この素晴らしい衣装を俺の為に着てくれるなんて、大感激だ。
俺は着付けの女性に一礼すると、彼女は気をきかせ、部屋を出てくれた。
こうなったら、もう遠慮はいらない。
「綺麗だ!」
「本当?」
リンちゃんはにっこり笑って白い手袋をした手を差し出す。
俺は彼女の手をしっかり握った。
温かく、柔らかい手が嬉しい。
ああ、この手だ。
初めてのデートでおずおずと差し出した俺の手を、君はしっかり握ってくれた。
本当は……
幼い頃、彼女の手を握っていたけれど……
俺はこの手を、もう二度と……
否、永久に! 絶対に! 離しはしない。
ふたりがつないだ手……
それはまるで、しっかりと交差した運命の輪のように見える。
俺は心の中で、リンちゃんへ呼びかける……
そう、初めて会った幼い日に……
リンちゃん、俺は恋に落ちた。
淡い初恋だった。
そして再会した時に……
大人となった素敵な君に改めて惚れ直したんだ。
だが、悪戯好きな神様は残酷だった。
異世界転移し、初恋の相手リンちゃんと離れ離れになった俺に、
最初は絶望しかなかった。
しかし、奇跡は起こった……
リンちゃん!
君も、この異世界へ転移して来たんだ。
だけど、いくら転移したって……
この広い異世界、数多の人が居る中で……
ふたりの再会なんて、限りなくゼロに等しい確率なのに……
離れ離れになったふたりの人生は再び……交差した。
そう!
再び素晴らしい奇跡が起こったんだ。
結果……
俺とリンちゃんは、起こりえない奇跡を経て、
強く深い『愛の絆』を結び直す事が出来た。
改めて実感する。
リンちゃんの美しい花嫁姿を見て、俺は今、はっきりと確信する。
遥か遠い……
まるでラノベのようなこの異世界で……
遂に俺は……
宿命の相手に巡り会う事が出来たのだと。
「じゃあクリス副長、早速、冒険者ギルドへ行ってきま~す」
今朝も……
カミーユが元気良く、王都騎士隊本部から出かけて行く。
奴は3か月の期間限定出向先である、冒険者ギルド総務部へ向かうのだ。
「おう! ご苦労様。頑張れよ、バジル部長に宜しくな」
「はいっ! 副長、了解でっす」
気合が入りまくりのカミーユは、最近仕事ぶりも真面目で前向きだ。
原因は、はっきりしている。
最近……
奴には、可愛い彼女が出来たのである。
え?
可愛い彼女って?
カミーユがひとめぼれした、枢機卿の孫娘・創世神教会所属の聖女ステファニー殿かって?
いやいや、全然違う子なんだ。
じゃあ、順を追って最初から話そうか。
実は……
俺がアランに殴られた『合コン』から、もう半年が経っている。
あの夜から、俺はフルールさんことリンちゃんと恋人同士になり、
夢にまで見た交際を始めた。
ワンルームであれやこれやと想像したリア充生活を、遂にこの異世界で実現したのだ。
俺がリンちゃんと結婚すれば……
フルールさんの伯父であるバジル部長とは、親せきとして、
一生付き合う事となる。
あの時、部長のフォローは実に大きかった。
部長があの場に居て、上手く話をしてくれたからという感謝の気持ちでいっぱいだ。
公私共々、文句なくバジル部長は俺の恩人。
『愛の伝道師』の名誉ある称号を譲ってもOK。
リンちゃんに、そのように伝えたらすっごく複雑な顔をしていたけど……
話をカミーユへ戻すと……
当然というか、あれから奴はステファニー殿に振られた。
それも、相当悲惨な振られっぷりだったらしく、
しばらく、この世の終わりのような顔をしていた。
俺との『約束』を守らず、スタンドプレーに走るしょうもない奴だが、
見捨てるにはしのびない。
俺は副長の権限を使い、傷心のカミーユのやる気を出させる為……
気分転換を兼ね、期間限定で職場と仕事を変えてやったのである。
俺自身がやりとりをして分かってはいたが、
バジル部長を始めとして、冒険者ギルド総務部のメンバーは皆、良い人達だ。
人間関係で、変なストレスを溜める事もない。
但し、仕事をきちんと真面目にやって貰わないと、
騎士隊とギルドの信頼関係を失ってしまう可能性がある。
なので、俺はカミーユへ厳しく言った。
「一旦約束したら、しっかり守れ」と。
大失恋が原因で精神的に落ち込んでいるから、少し可哀そうな気もしたが……
因果応報ともいえる結果といえなくもない。
ここは上司として、または先輩として、しっかり言わないと奴の為にならない。
「ちゃんとフォローするから、新たな仕事を頑張れ」と、優しく励ました上で、
「あまりにも不真面目なら、即、除隊もある」と脅したのが効いた。
完全に心を入れ替えたカミーユは、日々頑張って、真面目に仕事をしていたらしい。
カミーユが、ひたむきに仕事に打ち込めば、きっと見てくれる人は居る。
俺は……そう信じた。
すると、「捨てる神あれば拾う神あり」という諺通り……
カミーユにも素晴らしい奇跡が起こった。
傷心のカミーユの身に起こった素晴らしい奇跡。
それは……冒険者ギルド所属の魔法鑑定士ルネさんとの運命の出会いであった。
カミーユから内緒という事で聞かされたが……
ルネさんはそれまで付き合っていた『わがまま彼氏』に悩まされていたという。
普段から凄い不満を持っていたらしい。
なんやかんやあったらしいが……
結局ルネさんは大げんかの末に『わがまま彼氏』と別れ……
驚いた事に、カミーユと「くっついてくれた」のだ。
ふたりが親しくなったきっかけだが……
目の前で仕事に一生懸命取り組むカミーユの姿を見て、ルネさんは信頼し、
プライベートの相談を持ちかけたんだと。
それも、何度も何度も……
結果、ふたりが仲良くなるのは必然。
最終的にはカミーユがルネさんの愚痴をこまめに聞いて、
その度に優しく慰めてあげたのが決め手となった。
正式に付き合いだしてから……
ルネさんは以前の彼氏と違い、喧嘩など全くなく、カミーユと仲良くやっているらしい。
こうなると……
冒険者ギルドへ配置転換して貰ったカミーユは、俺に感謝しきりだ。
ルネさんとは結婚も視野に入れた深い付き合いをしていて、
仕事にもますます気合が入り、良い巡り合わせとなっている。
ちなみに、ルネさんは、カミーユより少しだけ年上。
しかし奴みたいなタイプは、『姉さん女房』の方が良いかもしれない。
え?
合コンのメンツがあれからどうなっているのか、気になるって?
バッチリさ!
全員、上手くやっている。
『赤い流星』アランは、宣言通り、ジョルジェットさんとすぐに結婚した。
結婚直後、リンちゃんと共に新婚家庭に招かれたが、相変わらず熱々だった。
そしてこちらも予想通り……
カルパンティエ公爵家の御曹司であるジェローム隊長も、
シュザンヌさんと最近婚約。
聖女であるシュザンヌさんの出自は騎士爵家の娘であるが、最近の風潮から身分の差は問題ないと思われた。
でも、さすがカルパンティエ家は古風で保守的な名門貴族。
今どきの風潮だからと、簡単にジェロームさん達の結婚を認めなかった。
ジェロームさんの父カルパンティエ公爵が身分に加え、
俺から見れば本当に失礼だとは思うが……
ジェロームさんより年上のシュザンヌさんの年齢(推定30歳)を理由に猛反対したのだ。
しかしジェロームさんは、
「愛はすべてに勝る! 俺はシュザンヌを愛している!」
と強硬に父の公爵へ主張。
騎士隊隊長の仕事にも勝る熱意と真剣さで、堂々と押し切ったそうである。
こうなると、シュザンヌさんは大感激。
その場で号泣したらしい。
結果……
こちらも今や、アラン達以上ともいえる相思相愛のあつあつカップルだ。
こうしてめでたくジェロームさんはめでたく幸せを掴んだ。
元々彼はとても義理堅い人である。
今後も俺とは一生末永く付き合いたいと言って来た。
こちらとしても、願ったり叶ったりである。
そして、風の便りに聞いた話だと……
ステファニー殿も祖父枢機卿の手配でお見合いをして、
イケメンで真面目な相思相愛の彼氏を見つけたという。
結局……
あの夜、俺と関わったメンバーは、全員カップルとなってしまった。
この異世界でも、俺の『愛の伝道師キャラ』はバッチリ生きていたということになる。
最後に……
かんじんの俺とリンちゃん、すなわちこの異世界ではクリストフ・レーヌとフルール・ボードレールの現状はといえば、付き合いだしてから交際はいたって順調である。
ああ、恋愛するって嬉しい。
本当に楽しい。
そしてリンちゃんとの付き合いが深くなり、いろいろと話した結果、
運命的な驚愕の事実が発覚した。
幼い頃、俺達ふたりは出会っていたのだ。
いつもトオル君と呼んでくれて、一緒に遊んでいたあの子。
急な引っ越しで離れ離れになった、二度と会えないと諦めていた初恋のあの子。
あの子が何と! リンちゃんだったのだ。
何という、運命的な出会いだろう。
初恋の相手と、未知の異世界で再会出来るなんて!
まさに奇跡。
運命の……否! 宿命の再会であろう。
衝撃の事実に感動した俺は絶対に、彼女を幸せにすると決意したのである。
こうして……
一旦失った初恋を見事に成就させた俺は……
リンちゃんの親にも挨拶して、結婚を認めて貰い、新居も決まった。
俺達は来月、結婚式を挙げる事となった。
実は、今日が結婚式の衣装合わせの日である。
式場は当然ながら創世神教会付属の結婚式場。
こんな日は、時間が過ぎるのを遅く感じるが……
俺は地道に仕事をこなすと、定時より少しだけ早めに王都騎士隊本部を退出した。
前もって根回しをしてあるから、誰もが気持ちよく送ってくれた。
騎士隊本部を出た俺は走る。
王都の石畳の道を、教会へと、ひたすら走る。
息が切れても、構わず走る。
いよいよ!
リンちゃんの、花嫁姿が見れるのだから。
もう胸が、高鳴りっぱなしだ。
先に衣装合わせを始めると言っていたから多分……
教会付属の式場へ到着した俺は、受付で部屋を聞くと、一目散に向かう。
衣装部屋に着いて、ひと呼吸置いてノックをした。
「クリスです!」
「はい! フルールです」
中からは、リンちゃんの声がした。
そして、一瞬の間を置き、
「……どうぞ」
と、入室が許可されたので、俺は扉を開けて部屋へ入る。
すると!
俺の目の前には、着付けの担当の女性、
そして、純白の花嫁用ドレスを着たリンちゃんが立っていた。
おお、リンちゃん!
何という神々しさ!
この素晴らしい衣装を俺の為に着てくれるなんて、大感激だ。
俺は着付けの女性に一礼すると、彼女は気をきかせ、部屋を出てくれた。
こうなったら、もう遠慮はいらない。
「綺麗だ!」
「本当?」
リンちゃんはにっこり笑って白い手袋をした手を差し出す。
俺は彼女の手をしっかり握った。
温かく、柔らかい手が嬉しい。
ああ、この手だ。
初めてのデートでおずおずと差し出した俺の手を、君はしっかり握ってくれた。
本当は……
幼い頃、彼女の手を握っていたけれど……
俺はこの手を、もう二度と……
否、永久に! 絶対に! 離しはしない。
ふたりがつないだ手……
それはまるで、しっかりと交差した運命の輪のように見える。
俺は心の中で、リンちゃんへ呼びかける……
そう、初めて会った幼い日に……
リンちゃん、俺は恋に落ちた。
淡い初恋だった。
そして再会した時に……
大人となった素敵な君に改めて惚れ直したんだ。
だが、悪戯好きな神様は残酷だった。
異世界転移し、初恋の相手リンちゃんと離れ離れになった俺に、
最初は絶望しかなかった。
しかし、奇跡は起こった……
リンちゃん!
君も、この異世界へ転移して来たんだ。
だけど、いくら転移したって……
この広い異世界、数多の人が居る中で……
ふたりの再会なんて、限りなくゼロに等しい確率なのに……
離れ離れになったふたりの人生は再び……交差した。
そう!
再び素晴らしい奇跡が起こったんだ。
結果……
俺とリンちゃんは、起こりえない奇跡を経て、
強く深い『愛の絆』を結び直す事が出来た。
改めて実感する。
リンちゃんの美しい花嫁姿を見て、俺は今、はっきりと確信する。
遥か遠い……
まるでラノベのようなこの異世界で……
遂に俺は……
宿命の相手に巡り会う事が出来たのだと。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる