転生した聖女は、異世界で初恋の騎士と出会う

東導 号

文字の大きさ
37 / 37

第37話「大団円②」

しおりを挟む
【相坂リンの告白⑲】
 
 時が流れ……
 トオルさんがアランさんに殴られた、運命の『食事会』事件から、もう既に半年が経っている。

 あの夜から……
 私はクリスさんことトオルさんと正式に恋人同士になり、交際を始めた。
 
 当然、将来の結婚を意識した深い付き合いである。
 お互いの休日に会う度、話も弾み、
 幼い子供の頃の懐かしい想い出を話した結果……
 『衝撃の事実』が発覚したのだ。

 衝撃の事実とは、何と!
 幼い頃、私達ふたりは既に出会っていたのである。
 
 親友アリサが、たまたま手配してくれた飲み会で出会った『大門寺トオル』さんは……幼い頃、私の引っ越しで離れ離れになった、あの『初恋のトオル君』だったのだ。

 前にも言ったけれど、ありえないと思っていたから、トオルさんには敢えて聞いたりしなかった。

 どうして聞かないのかと言われても仕方がない。
 だって!
 普通はありえないでしょ?

 事実は小説より奇なりというけれど、何という……数奇な運命なのだろう。
 
 未知の異世界へ転移した私とトオルさんは、劇的な再会を果たすどころか、
 記憶の底に沈んでいた淡い初恋を実らせ、結ばれたのだもの。
 
 私見だけど……
 幼い頃経験した生まれて初めての恋が実り、ずっと愛し合い結婚する人なんてあまり居ないと思う。
 そんな劇的な理由もあり、私達ふたりの愛は更に深まって行った。

 でも、ひとつだけ困った事がある。
 私がこのままトオルさんと結婚すれば……
 疎遠になっていた伯父バジルとは、親戚付き合いが完全に復活する。

 まあ普通に、親戚付き合いするレベルなら全く構わない。
 私はバジル伯父の伴侶、伯母とはとても気が合うから。

 だが、バジル伯父は相変わらず苦手。
 伯父の事だ。
 私を見合いの仲介で『幸せにしたコレクション』のひとつとし、
 何かあれば自慢し、得意げに手柄話を繰り返すだろう。

 数回くらいの自慢なら、何とか我慢するけれど……
 多分、数十回は……
 
 否! それ以上際限なく繰り返し聞かされるに違いない。
 あの満面顔のおまけ付きで。
 加えて恩着せがましく。
 
 う~ん、想像するだけですご~く辛い。

 でも……
 トオルさんはバジル伯父とは抜群に相性が良いみたい。
 公私共々、文句なく最高の恩人だと言う。
 挙句の果てに『愛の伝道師』の称号をバジル伯父へ譲ってもOKだって。
 
 そんな事はいけないと思うけど、私は思わず顔をしかめてしまった。
 
 まあ……仕方がない。
 後でさりげなく、伯父とのこれまでの経緯いきさつというか、
 顔をしかめた『本当の理由』だけは話しておこう。
 
 実はずっと……
 伯父からしつこく勧められたお見合いの話を断っていたって。
 
 正直に言えば、優しいトオルさんなら、絶対に怒らないはず。
 断り続けた結果、私はトオルさんとめでたく結ばれるのだから。
     
 え?
 食事会のメンバーはあれからどうなっているのかって?
 
 大丈夫!
 全員、上手くやっているよ。

 懺悔し改心したシスタージョルジエットは……
 『赤い流星』ことアランさんのプロポーズを受け、すぐに結婚した。
 結婚直後、私はトオルさんと共に新婚家庭に招かれたが、
 ふたりは相変わらず熱々だった。

 当時はあまりの強引さに困惑したが……
 今となっては、シスタージョルジエットも恩人のひとり。
 あの飲み会へ連れて行ってくれた事に感謝すべきだろう。
 本当にありがとうと言いたい。

 そしてシスターシュザンヌも、カルパンティエ公爵家の御曹司、
 ジェロームさんと最近婚約した。
 
 ある日、シスターシュザンヌから、こっそり呼び出された私は、
 例の部屋でふたりきりとなり、彼女から婚約までの一部始終を聞いた。

 前にも述べたけれど、シスターシュザンヌの出自は騎士爵家。
 対してカルパンティエは公爵家。
 
 ふたりの身分差は歴然。
 でも……
 最近の風潮から身分の差は問題ないと思われた。
 
 しかし結婚話は結構難航したらしい。
 何故ならばカルパンティエ公爵家は、予想以上に古風で保守的な家風だったから。
 やはりというか、身分差を理由にし、頑なにシスターシュザンヌとの結婚を認めなかった。
 
 そしてジェロームさんの父で当主のカルパンティエ公爵が身分の差に加え、
 本当に失礼な話で、他人事なのにとっても腹が立つけれど……
 ジェロームさんより、ほんの少しだけ年上であるシスターシュザンヌの年齢を理由に猛反対したらしい。
  
 しかしジェロームさんは、騎士らしく、勇ましかった。
 人間としても誠実で素晴らしかった。
 「愛はすべてに勝る! 俺はシュザンヌを心の底から愛している!」
 父の公爵閣下へ、熱く真摯に宣言し、臆せず堂々とした態度で押し切ったって。

 そこまで言って貰えれば女性なら、誰だって嬉しい。
 当然ながらシスターシュザンヌは感極まってしまい、
 その場で人目もはばからず大泣きしてしまったって。
 
 そして何と!
 ジェロームさんも、号泣するシスターシュザンヌを、
 彼のご両親の目の前で優しく抱き締めたんだって!

 うわ!
 凄い!
 想像するだけで、どっきどき!
 
 まるで素敵な恋愛映画のワンシーン。
 私とトオルさんの出会いに匹敵するくらい、運命的な出会いだと思う。
 
 結果……
 ふたりは相思相愛のあつあつカップルになっちゃった。

 こうして……
 シスターシュザンヌは大きな幸せを掴んだのだ。
 
 あの場で恋愛フォローした私へ、シスターシュザンヌは凄く恩義を感じているようだ。
 今後も『特別な親友』として末永く付き合いたいと言って来た。
 こちらとしても、職場の人間関係が向上するのは願ったり叶ったり。

 親友といえば……
 シスターシュザンヌと話をしながら、
 ふと、前世で親友付き合いしていた『アリサ』の事を思い出した……
 
 ……アリサは、私の事をいろいろ心配して、世話を焼き、運命の想い人たるトオルさんに再会させてくれた超が付く大恩人。

 学生時代、ひょんな事で知り合ってから、まるで実の姉妹のように付き合って来た。
 彼女とは、幼馴染のトオルさんとはまた違った、大切な想い出がたくさんある。
 
 でも私は……
 遥かに遠い異世界の人間フルールとなってしまった。
 アリサとは離れ離れとなってしまい、もう二度と会う事はないだろう……
 
 だけど……
 彼女が『最も大切な親友』という事実は永遠に変わらない。

 ああ、今頃アリサはどうしているのだろう……
 突然居なくなった『私』をとても心配しているに違いない。 
 
 耳をすませば……
 どこからともなくハスキーなアリサの声が聞こえて来る。
 「はぁい、リン、元気? 恋してる?」って。
 
 だから私は心の声で応える。
 肉声以上に思いっきりの大声で!
 「大丈夫!! とても元気だよ!! ず~っと素敵な初恋をしていたよぉ!!」って。
 
 しっかりと報告したら、次はアリサへお礼とエールを送りたい。
 
 「さよなら、アリサ!! 今まで本当にありがとう!! 貴女のお陰で宝物にしていた大切な初恋が実ったよ!! 貴女もずっと元気で!! そして絶対幸せになって!!」  
 今や聖女の私は遠い空の下から「願いよ届け!」とばかりにお祈りしてしまった。
 
 ああ、そうだ。
 もうひとつあった。
 こちらは余談になるけれど……
 
 シスターステファニーは、彼女のお祖父様、枢機卿閣下のご手配でお見合いをした。
 その結果、シスターステファニーも、彼女好みのイケメンで且つ真面目な、相思相愛の彼氏を見つけた。
 
 ここまでは聞いていたが、その彼とめでたく婚約をしたそうである。
 『恋のライバル』だった私は……少しだけ、ホッとした。
 
 結局……
 あの夜、参加したメンバーは、全員カップルとなってしまった。
 この異世界でもトオルさんの、
 『愛の伝道師キャラ』はバッチリ生きていたという事。
 
 話を戻そう。
 私とトオルさんの愛が深まると同時に、結婚話もとんとん拍子に進んだ。
 
 先日、私フルールの両親へ、クリスさんことトオルさんがきちんと挨拶。
 結婚を円満に認めて貰い、新居も決まった。
 
 こうして……
 私達は来月、結婚式を挙げる事となったのだ。

 実は、今日が結婚式の衣装合わせの日である。
 当然ながら結婚式と披露宴を行うのは創世神教会と附属の式場で決まり。

 こんな日は、時間が過ぎるのを遅く感じる。
 
 だけど……
 私は『お勤め』をこなすと、定時より少しだけ早めに教会を出た。
 前もって根回しをしてあるから、誰もが気持ち良く送ってくれた。

 トオルさんは今日、仕事が終わったら、駆け付けてくれる事になっている。
 私が着る純白のウエディングドレスを見て、何と言ってくれるだろうか?

 衣装部屋に着いてから、着付け担当の女性に手伝って貰い、
 何とか支度が終わった。

 しばらくして……ノックがあった。
 絶対にトオルさんだろう。

「クリスです!」

「はい! フルールです」

 私は元気に返事をして、軽く息を吐いた。
 そして、

「……どうぞ」

 と、当然ながら入室をOKした。

 トオルさんは扉を開け、部屋へ入って来た。
 対して、私は堂々と胸を張り、トオルさんの前に立った。
 
 ああ、トオルさん、にこにこしている。
 とても嬉しそうだ。
  
 そしてトオルさんが着付けの女性に一礼すると、
 彼女は気をきかせ、部屋を出てくれた。
 こうなったら、もう遠慮はいらない。
 
 トオルさんは私の花嫁姿を見て、感極まったみたい……
 たったひと言。
 とても嬉しい事を言ってくれる。 

「綺麗だ!」

「本当?」

 私は自分でも分かる弾けるような笑顔で、白い手袋をした手を差し出した。
 トオルさんは応えるように手を伸ばし、私の手をしっかりと握ってくれた。
 彼の大きく、温かい手が感じられる。
 嬉しい!
 
 ああ、この手だ。
 幼い頃の記憶がリフレインする。
 手をつなぐのがとってもぎこちなかった初恋のトオル君、
 そして、大人になっても全く変わらず、初デートの時おずおずと手を差し出して来たトオルさん……
 初恋の相手である生涯の『想い人』……
 彼の手を私はしっかりと握った。
 
 初恋の時には不可抗力で離してしまったけれど……
 未知の異世界へ転移して、ほぼ諦めていたけれど……
 私は……トオルさんの手を、もう二度と離さない。
 
 ふたりが3度目につないだ手……
 それは、しっかりと交差した運命の輪。

 私は心の中から、トオルさんへ呼びかける……
 
 私、相坂リンは幼い頃に初恋を経験し、そしてついこの前二度目の恋をした……
 でも人生で愛した想い人はトオルさん、貴方ひとりだけなのだと。
 
 最初は絶望しかなかった。
 この広い異世界にトオルさんが居るはずがないのに……
 ふたりの再会なんて、全くありえないはずなのに……
 
 離れ離れになったふたりの人生は、奇跡的に再び交差した。
 
 胸が熱くなった私は改めて実感する。
 花嫁姿になって、はっきりと確信する。

 遥か遠いラノベの舞台のようなこの異世界で……
 遂に私は……
 運命を超える宿命の『想い人』に巡り会う事が出来たのだと。《完結》

※長らくのご愛読ありがとうございました。
 『転生聖女は幼馴染みの硬派な騎士に恋をする』は今回の話でお終いです。
 今後とも当作品、連載中の作品、新たな作品に対してのご愛読、応援を何卒宜しくお願い致します。《東導 号》 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

処理中です...