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奇跡の救援者編
第3話「特別な事情」
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結局……
ベルナールは悩んだが、バルバの提案を受け入れざるを得なかった。
堅く閉め切った部屋にいきなり現れた、人間とも思えぬ正体不明の男。
そして、人間の魂をあれだけ欲しがるとは……正体はもう分かりきっている……
契約を遂行してくれる保証はない。
どんな方法で砦と守備隊を救うのか、ろくに説明さえもなかった。
だが……
守備隊が助かる為、他に選択肢は全くない。
すっかり万策尽きて、追い詰められたベルナールは、藁《わら》にも縋る気持ちだったのだ。
その夜……
ベルナールは、一睡も出来なかった。
提案を受け入れてから、ふと気が付けば、部屋の中には自分ひとりだけ……
バルバの姿は……どこにもなかった。
現れた時同様、忽然と消えてしまったのだ。
まんじりともしない夜が明け……いよいよ今日は最後の戦い……
バルバが契約を果たすにしろ、そうでないにしろ……
ベルナールは、運命の日であろうと覚悟を決めた。
革鎧をしっかりと着直して、守備隊長執務室で待機するベルナール。
扉がノックされ、ベルナールが答えると、副隊長のロック・ケーリオが来たようである。
入室を許可すると、ロックは扉を開けて「さっ」と入り、すかさず敬礼をした。
傭兵隊長上がりのロックはベルナールより10歳以上年上で、既に40代半ばを過ぎていた。
王国に雇われた立場であったが、ベルナールの人柄に惚れ込み忠実に仕えていたのである。
「隊長! 現在、生き残りは98名……我々を入れて100名、全員が死ぬ覚悟を決めています」
「ロック、す、済まぬ。この様子では救援は来ない……」
ベルナールは済まなそうに頭を下げた。
ロックは微笑みながら、首を振る。
「いいえ、どうせ我々は半端者の集まり……隊長と共にこの砦で過ごした2年間はとても充実しておりました。戦死した者達も……同じ思いでしょう」
部下たちは、薄々感づいていた。
ベルナールと、王国軍の中枢とは何かの『事情』がある事を。
しかしベルナールは戦いの際には、毎回先頭に立って、兵士達を鼓舞し戦った。
時には自ら盾となるベルナールを見て、部下達は彼に心酔していたのである。
「ありがとう……我が隊は1時間後には出撃する。……多分最後の戦いになるだろう」
「そうですね! では……隊長、後程《のちほど》……お互いに悔いなき戦いを!」
ロックはそう言うと、直立不動となりびしっと敬礼した。
部下の敬礼を見たベルナールも、すっくと立ちあがった。
そうだ!
ロックの言う通り……悔いなき戦いを……
クローディーヌ……どうやら私は……ここまでのようだ。
お前は生きて……必ず幸せになってくれ……
ベルナールは、王都で待つ愛する妻の事を思い出していた。
隊長として責任を取り、戦いの先頭に立ち、部下に先立って殉じようと覚悟を決めても……
家で自分の生還を信じて待つ妻の事を考えると、胸が締め付けられる思いだった。
しかし任務を放棄して、信頼してくれる部下達を無責任に見捨てるわけにはいかない。
5年前……
30歳になったばかりのベルナールは妻となるクローディーヌを紹介された。
紹介したのは、上席となるウジェーヌ・ドラポール侯爵である。
クローディーヌは素晴らしい美貌の持ち主で当時26歳……
性格も穏やかで、優しい心の持ち主だった。
お互いに結婚を前提とした紹介だったので、話はスムーズに進んだ。
そして、ふたりは……まもなく結婚した。
ベルナールは騎士となってから地方勤務が多かった為、王都に戻ってから結婚しようと思っていた。
なので、貴族としては珍しく晩婚となる。
実直な騎士ベルナールと、美貌の優しい妻。
普通なら、誰もが祝う筈の結婚であった。
しかし口さがない貴族達は陰で笑っていた。
クローディーヌはウジェーヌ・ドラポール侯爵の愛人として有名であったから……
ウジェーヌが3年間手放さなかった愛人を手放したのは、正室からの厳しい申し入れによるものだ。
そもそもラウルス王国は、一夫多妻制を認めている。
それなのにクローディーヌが単なる愛人だったのは、ウジェーヌが婿養子だった事が大きい。
ドラポール家の家付き娘であった正室はクローディーヌが妻となる事を認めなかった。
そして遂に、クローディーヌを屋敷から追い出す事を夫へ談判したのだ。
元々ウジェーヌは、気が強い妻に頭が上がらなかった。
遂には押し切られ、部下へ嫁としてクローディーヌを譲る事で、妻の了解を得たのである。
しかし、2年前に状況が変わった。
ウジェーヌの正室が、呆気なく病死したのだ。
ある者は、ウジェーヌが病死に見せかけて、妻を殺したのではとも噂した。
やがて、その理由を納得させるような事が起こった。
ウジェーヌは、ずうずうしくもベルナールへ申し入れをしたのである。
何と、クローディーヌと離婚をするようにと……
部下へ離婚を強要する、ウジェーヌの魂胆は見え見えであった。
再びクローディーヌを『我がモノ』とするつもりなのだ。
しかし既にベルナールとクローディーヌは愛し合い、仲睦まじい夫婦となっていた。
ベルナールは妻の意思確認をした上で、ウジェーヌへ断りを入れたのだ。
するとウジェーヌは卑劣にも職権を乱用して、ベルナールを王都からこの最果ての砦へ単身赴任を命じた。
つまりベルナールを、愛妻クローディーヌから遠ざける為に左遷したのであった。
ベルナールは悩んだが、バルバの提案を受け入れざるを得なかった。
堅く閉め切った部屋にいきなり現れた、人間とも思えぬ正体不明の男。
そして、人間の魂をあれだけ欲しがるとは……正体はもう分かりきっている……
契約を遂行してくれる保証はない。
どんな方法で砦と守備隊を救うのか、ろくに説明さえもなかった。
だが……
守備隊が助かる為、他に選択肢は全くない。
すっかり万策尽きて、追い詰められたベルナールは、藁《わら》にも縋る気持ちだったのだ。
その夜……
ベルナールは、一睡も出来なかった。
提案を受け入れてから、ふと気が付けば、部屋の中には自分ひとりだけ……
バルバの姿は……どこにもなかった。
現れた時同様、忽然と消えてしまったのだ。
まんじりともしない夜が明け……いよいよ今日は最後の戦い……
バルバが契約を果たすにしろ、そうでないにしろ……
ベルナールは、運命の日であろうと覚悟を決めた。
革鎧をしっかりと着直して、守備隊長執務室で待機するベルナール。
扉がノックされ、ベルナールが答えると、副隊長のロック・ケーリオが来たようである。
入室を許可すると、ロックは扉を開けて「さっ」と入り、すかさず敬礼をした。
傭兵隊長上がりのロックはベルナールより10歳以上年上で、既に40代半ばを過ぎていた。
王国に雇われた立場であったが、ベルナールの人柄に惚れ込み忠実に仕えていたのである。
「隊長! 現在、生き残りは98名……我々を入れて100名、全員が死ぬ覚悟を決めています」
「ロック、す、済まぬ。この様子では救援は来ない……」
ベルナールは済まなそうに頭を下げた。
ロックは微笑みながら、首を振る。
「いいえ、どうせ我々は半端者の集まり……隊長と共にこの砦で過ごした2年間はとても充実しておりました。戦死した者達も……同じ思いでしょう」
部下たちは、薄々感づいていた。
ベルナールと、王国軍の中枢とは何かの『事情』がある事を。
しかしベルナールは戦いの際には、毎回先頭に立って、兵士達を鼓舞し戦った。
時には自ら盾となるベルナールを見て、部下達は彼に心酔していたのである。
「ありがとう……我が隊は1時間後には出撃する。……多分最後の戦いになるだろう」
「そうですね! では……隊長、後程《のちほど》……お互いに悔いなき戦いを!」
ロックはそう言うと、直立不動となりびしっと敬礼した。
部下の敬礼を見たベルナールも、すっくと立ちあがった。
そうだ!
ロックの言う通り……悔いなき戦いを……
クローディーヌ……どうやら私は……ここまでのようだ。
お前は生きて……必ず幸せになってくれ……
ベルナールは、王都で待つ愛する妻の事を思い出していた。
隊長として責任を取り、戦いの先頭に立ち、部下に先立って殉じようと覚悟を決めても……
家で自分の生還を信じて待つ妻の事を考えると、胸が締め付けられる思いだった。
しかし任務を放棄して、信頼してくれる部下達を無責任に見捨てるわけにはいかない。
5年前……
30歳になったばかりのベルナールは妻となるクローディーヌを紹介された。
紹介したのは、上席となるウジェーヌ・ドラポール侯爵である。
クローディーヌは素晴らしい美貌の持ち主で当時26歳……
性格も穏やかで、優しい心の持ち主だった。
お互いに結婚を前提とした紹介だったので、話はスムーズに進んだ。
そして、ふたりは……まもなく結婚した。
ベルナールは騎士となってから地方勤務が多かった為、王都に戻ってから結婚しようと思っていた。
なので、貴族としては珍しく晩婚となる。
実直な騎士ベルナールと、美貌の優しい妻。
普通なら、誰もが祝う筈の結婚であった。
しかし口さがない貴族達は陰で笑っていた。
クローディーヌはウジェーヌ・ドラポール侯爵の愛人として有名であったから……
ウジェーヌが3年間手放さなかった愛人を手放したのは、正室からの厳しい申し入れによるものだ。
そもそもラウルス王国は、一夫多妻制を認めている。
それなのにクローディーヌが単なる愛人だったのは、ウジェーヌが婿養子だった事が大きい。
ドラポール家の家付き娘であった正室はクローディーヌが妻となる事を認めなかった。
そして遂に、クローディーヌを屋敷から追い出す事を夫へ談判したのだ。
元々ウジェーヌは、気が強い妻に頭が上がらなかった。
遂には押し切られ、部下へ嫁としてクローディーヌを譲る事で、妻の了解を得たのである。
しかし、2年前に状況が変わった。
ウジェーヌの正室が、呆気なく病死したのだ。
ある者は、ウジェーヌが病死に見せかけて、妻を殺したのではとも噂した。
やがて、その理由を納得させるような事が起こった。
ウジェーヌは、ずうずうしくもベルナールへ申し入れをしたのである。
何と、クローディーヌと離婚をするようにと……
部下へ離婚を強要する、ウジェーヌの魂胆は見え見えであった。
再びクローディーヌを『我がモノ』とするつもりなのだ。
しかし既にベルナールとクローディーヌは愛し合い、仲睦まじい夫婦となっていた。
ベルナールは妻の意思確認をした上で、ウジェーヌへ断りを入れたのだ。
するとウジェーヌは卑劣にも職権を乱用して、ベルナールを王都からこの最果ての砦へ単身赴任を命じた。
つまりベルナールを、愛妻クローディーヌから遠ざける為に左遷したのであった。
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