隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第6話 「押しかけ宣言」

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「……エリンを一緒に連れて行って」

「断る!」

「お願い! 連れて行ってよ」

「ダメだ!」

 先程から、ダンとエリンの間に、同じ会話が何度も繰り返されていた。
 いわゆる堂々巡りだ。
 エリンが、切なげに問いかける。

「どうして? エリンを悪魔から助けて、癒しの魔法で傷も治してくれたのに」

 しかし、ダンはきっぱりと言い放つ。

「窮地に陥った所を助けた……傷も治した。通りすがりの俺が、そこまですれば十分だろう? 連れていけない理由は説明している」

「納得出来ない……エリンが、納得出来る理由をちゃんと提示して」

 食い下がるエリンに、ダンは首を振る。

「いやエリン……お前が納得出来る、出来ないは関係ない。俺がそう思っているからだ」

「ぶ~」

 口を尖らせ、頬を膨らませるエリンを見て、ダンは苦笑した。
 まるで、森に居る冬ごもり前の、栗鼠のようであるから。
 
「さっきから言っている通りだ。俺は依頼を受けて魔王アスモデウスを倒しに来た。その過程で、たまたまお前を助けただけだよ」

 しかし、エリンは諦めない。
 目が、夢見る少女となっている。
 菫色の大きな瞳に、煌びやかな星が「ピカピカ」と、またたいている。

 ダンを誘う声も、ますます艶っぽくて甘くなって来る。

「ねぇん……そういうのって運命の出会いと言うんじゃない? 女の子の夢なんだよ」

「運命の出会い? 単なる偶然だろ」

 きっぱり否定するダン。

 折角、ロマンチックな気分に浸っていたのに……
 気分を害されたエリンは、完全に駄々っ子状態になってしまう。

「違うもん! 偶然じゃないもん、運命の出会いなんだもん、ダンはエリンを助けてくれた王子様なんだもん、こうなったらエリンとダンは結婚するしかないんだもん」

 まるでエリンの言い方は子供……いや幼児退行かもしれない。
 しかし、ダンの言い方は容赦がない。

「おいおい、俺とお前が結婚?」

「そう! 結婚するの」

「はぁ? 何、とんでもなく話を飛躍させてるんだ? 運命の出会い? 絶対に錯覚だと思うぜ、それ」

 絶対に錯覚!?
 女子の夢……運命の出会いを全く信じようとしないダン。
 とどめを刺されたエリンは、またも口を尖らせる。

「ぶ~」

 また『栗鼠』状態?
 肩を竦めたダンは、突き放すように言う。

「さっきからこうして話が平行線になってる。人間の俺について来ても仕方ないって」

「何でよ!」

「それもさっきから言っているじゃないか。人間とダークエルフじゃあ、考え方や価値観が違う。育って来た環境も違う。元々連れて行く理由もない。そもそも俺とお前は、寿命が全然違うだろう?」

「違う……と思う……」

 ダンの指摘に、エリンは口籠る。
 寿命の違いはダンの言う通りなのだ。

 黙り込んだエリンへ、ダンは言う。

「思うじゃねぇ、寿命は絶対に違うんだ。見たところお前はまだまだ若そうだし、エルフは数千年は生きる筈だからな」

「確かに……生きるよ数千年」

 同意したエリンへ、ダンは説得するべく畳み掛ける。

「だろう? だったら俺とお前が一緒に居るのはほんの一瞬だ。人間の俺はせいぜいあと数十年であの世行きだもの」

 しかしエリンは、ダンの話など聞いていないように、別の話を持ち出す。

「ダンは勇者でしょう?」

「は? 何だよ、いきなり」

「だって! エリンの一族、ダークエルフには救世の勇者様というのが数千年に一度は現れるって伝説があるの。ダンの力、戦い方を見ても勇者としか思えないよ」

 ダークエルフ達の、勇者伝説。
 それが、エリンを連れて行くのと何の関係があるのだろうか。
 ダンは、またも肩を竦める。

「はぁ、何、それ? ……全く話が見えないぞ」

「救世の勇者様はね、万能なの。凄い力を持っているから何~でも出来るのよ。困った女の子の願いを、必ず叶えてくれるのよ」

「…………」

「ダンは困ったエリンを助けてくれた。簡単に悪魔を倒してくれた。だったら、エリンと同じくらい生きられるよう、不老不死の秘術を使う事だって楽勝でしょ?」

 エリンは魔法で、人間の寿命の短さを克服しろと言っているらしい。
 ダンは、さすがに呆れてしまう。

「あのなぁ……お前達に伝説って奴があるのは分かったけど、俺はその勇者様じゃないって。それに何だよ不老不死って、そんなの無理に決まっているだろ」

 ダンの言う事は、正論である。
 この世界では、生き死にの寿命を自由に出来るのは、万物を管理する全知全能の創世神のみなのだ。

 実のところエリンには、ダンが否定する事も織り込み済みである。

 こうなったら……

 エリンは、最後の手段に出た。
 どうせ、あの場で戦って潔く散るつもりだった。
 自分の『覚悟』を、ダンへ見せるのだ。

「だったら死ぬ!」

「はぁ?」

「ダンが死んだら、エリンも死ぬ、ずっと一緒……だから連れて行って」

「おいおいおい」

 意外にも、ダンは狼狽している。
 もしかしたら……

「エリンは、もうひとりぼっちなの! お父様も仲間も皆死んで誰も居ないの! ダンしか頼れないんだもん! う、うわぁぁぁ~ん!」

 エリンはいきなり泣き出した。
 泣きながら、そっと薄目でダンを見た……

 ダンは、目を丸くしている。
 慌てている。
 困っている。
 こんなダンは意外だ。

 うん!
 やっぱりダンは……優しい!

 ダンの様子を確認したエリンは、安心して泣き続ける。

「うわあああああん!」

「ああ、な、泣くなよ」

 こんな方法で同行を頼むなんて、何てずるい奴! 卑怯な女!
 
 自分でもそう思ったが、エリンは必死だった。
 もう、なりふり構ってなどいられない。
 
 だって!
 
 こんなに強くて、頼れるひとは居ない。
 ここでダンと、離れ離れになるわけにはいかないのだ。

 ……そして、遂にダンから出て来た言葉は、エリンの希望通りである。

「まあここにお前ひとり残して行くわけにもいかないか……じゃあ、とりあえず地上までだぞ」

「ダメ! ずっと一緒! エリンはダンと一緒」

「やれやれ……分かったよ……」

「やったぁ!」

 エリンは、思わず拳を突き上げた。
 もう涙は……全く出ていない。

「あれ? お前……涙、止まってるぞ」

「ウソ泣きだもん」

「…………」

 「しれっ」とカミングアウトしたエリンに、ダンはジト目だ。
 これは……まずい。
 エリンは、ここでダメ押しする。

「泣いたのは嘘でも! ダンが死んだらエリンも死ぬっていうのはホントなんだからぁ」

「分かった! 分かったよ」

 真剣な眼差しのエリンを見て、ダンも彼女の覚悟が本気だと感じたらしい。
 とうとう、同行を了解したのだ。

 こうして……
 ダンとエリンは、一緒に地上へ戻る事になったのである。
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