32 / 181
第32話「仲直り④」
しおりを挟む
「う、美味い!」
「本当! 凄い!」
エリンが、パンに感動してから1時間後……
様々な料理が運ばれ、朝食が始まった。
今朝も、鱒の料理がメインである。
鱒のバターソテー、鱒と野菜を煮込んだスープ。
そして、スクランブルエッグ。
「えへへ! エリンの料理、褒められちゃった」
「おお、エリン。俺だけじゃなくてふたりからも褒められて良かったな」
ダンの言葉を聞いたアルバートとフィービーは、意外そうな表情になる。
「え? これってダンじゃなくて、エリンちゃんが作ったのか?」
アルバートに聞かれたダンが答える前に、エリンが拳を突き上げる。
「うん! そうだよ、エリンが作った! 昨夜ダンが作るのを見て覚えたの」
エリンの言葉を、ダンが補足説明してやる。
「そうなんだ。昨夜初めて俺が作るのを見て、すぐに出来るようになった」
「え? たった一回見ただけで……この料理を? す、凄いな」
アルバートが驚くのも、無理はなかった。
昔フィービーと一緒に、王宮でご相伴にあずかった、王宮料理人の料理にも引けを取らないのだ。
フィービーも追随して頷く。
「本当よ! 凄い!」
「さあ! 愚図愚図していると、冷めて美味しくなくなるから、食べて、食べてぇ」
エリンの声に促されるかのように、全員が料理をぱくつく。
少し温めたパンも、料理に良く合った。
エリンはというと、生まれて初めて食べるパンの食感と味に感激して、目を白黒させていた。
「いや~! 王都の料理人にも負けないよ、エリンちゃんの料理」
アルバートが感嘆の声をあげた時。
「やったぁ! アルバート兄ありがとう!」
「え? アルバート兄?」
一瞬、吃驚するアルバート。
『アルバート兄』
……それは、遠い昔に呼ばれた事がある……甘く切ない記憶。
驚くアルバートを、エリンが満面の笑みを浮かべて見つめていた。
エリンの表情が、昔の記憶とだぶって来る
「うん! だってアルバート兄はフィービー姉の旦那様でしょう? だったらエリンのお兄さんだよねっ」
「…………」
黙り込んでしまったアルバート。
これは、先程のフィービーの反応と一緒だ。
エリンの表情に、不安の陰が差す。
「嫌……なの?」
「ち、違う! 逆! 逆だよっ! どんどん呼んでくれ」
「じゃあっ! アルバート兄」
「あおうっ!」
エリンが呼ぶ声を聞いたアルバートが、心臓を矢に射抜かれたようなポーズで、大きくのけぞった。
でも、顔には満面の笑みを浮かべながら。
「もう! アルバート兄ったら大袈裟だよぉ」
「うん、うん! そうだな! 俺って大袈裟だよな」
答えるアルバートの目が、何故か遠くなっている。
その理由を幼馴染であり、妻でもあるフィービーは良く知っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食が終わってからも、エリンにとっては楽しい事が一杯である。
ハーブティを飲みながら会話が弾む。
その大きな原因は、アルバート達が持って来た荷物の中身。
ダン達への『差し入れ』であった。
中には、女物の服が結構ある。
勿論、エリン用だ。
エリンは目を輝かせて、服を触っている。
「凄い! 凄いよぉ! いろんな服がい~っぱい!」
王都市民が着る一般的なブリオーがいくつかある。
そうかと思えば、農民男性が作業をする際に着用する、ジャーキンという上着にホーズというズボンの上下。
同じく、農民女性が着る可愛らしいカートルに、エプロンのセット。
これには、カーチフという被り物とパンプスまでついている。
また、旅行者が良く着るダルマティカという服とドミノというフードのセットに、渋いストローハットまであった。
ひと通り見たダンが、深く深く頭を下げる。
「悪いな、フィービー。俺同様、エリンの服まで一杯貰っちゃって! 本当に助かったよ、ありがとう!」
「良いのよ! 全部着なくなった私のお古だから」
「フィービー姉ありがとう! エリン、すっごく嬉しいよ」
「うふふ、こんな山の中でも、少しはお洒落出来るね」
「うん! エリン、色々着てみるよっ」
「ははは、エリンちゃん。今度俺にも着て見せてくれよ」
「うん! エリン、アルバート兄に見せるよっ。似合うと良いなぁ」
「ああ、カートルにエプロンなんて、可愛い村娘って感じで最高だ」
またもや、アルバートの目が遠くなっていた。
エリンを、誰かにだぶらせている事は間違いなかった。
夫の様子を見ていたフィービーが、「そっ」と囁く。
「あなた……よかったわね」
「う、うん……俺、久々に思い出したよ……ジュディの事をさ」
アルバートには、今は亡きジュディという妹が居た。
年が10才以上も離れた、兄に良く懐いた可愛い妹。
アルバートも、目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた。
アルバート兄!
アルバート兄!
どこへ行くのにも、ちょこちょこと、この幼い妹は付いて来た。
しかし!
別れは、唐突にやって来た……
流行り病にかかったジュディは、呆気なくこの世を去ったのだ。
葬式が行われ、ジュディの小さな亡骸が墓地へ埋められるのを見て、アルバートは呆然としていた。
愛する者が、この世に居ない……
もう、二度と会えないのだという悲しみを、当時少年のアルバートは嫌というほど味わったのだ。
この子は、もしかしたら……
神様が、遣わしてくれたのかもしれない。
ジュディの生まれ変わりとして……
だって!
心が、とっても温かくなっているのだから。
守るよ、ダン。
俺もフィービーもこの子を!
それに信じるよ!
呪われてなんているもんか!
俺達夫婦を、こんなに幸せな気持ちにしてくれるこの子が!
アルバートは、花が咲くように笑うエリンを見て、強く強く決意していたのだった。
「本当! 凄い!」
エリンが、パンに感動してから1時間後……
様々な料理が運ばれ、朝食が始まった。
今朝も、鱒の料理がメインである。
鱒のバターソテー、鱒と野菜を煮込んだスープ。
そして、スクランブルエッグ。
「えへへ! エリンの料理、褒められちゃった」
「おお、エリン。俺だけじゃなくてふたりからも褒められて良かったな」
ダンの言葉を聞いたアルバートとフィービーは、意外そうな表情になる。
「え? これってダンじゃなくて、エリンちゃんが作ったのか?」
アルバートに聞かれたダンが答える前に、エリンが拳を突き上げる。
「うん! そうだよ、エリンが作った! 昨夜ダンが作るのを見て覚えたの」
エリンの言葉を、ダンが補足説明してやる。
「そうなんだ。昨夜初めて俺が作るのを見て、すぐに出来るようになった」
「え? たった一回見ただけで……この料理を? す、凄いな」
アルバートが驚くのも、無理はなかった。
昔フィービーと一緒に、王宮でご相伴にあずかった、王宮料理人の料理にも引けを取らないのだ。
フィービーも追随して頷く。
「本当よ! 凄い!」
「さあ! 愚図愚図していると、冷めて美味しくなくなるから、食べて、食べてぇ」
エリンの声に促されるかのように、全員が料理をぱくつく。
少し温めたパンも、料理に良く合った。
エリンはというと、生まれて初めて食べるパンの食感と味に感激して、目を白黒させていた。
「いや~! 王都の料理人にも負けないよ、エリンちゃんの料理」
アルバートが感嘆の声をあげた時。
「やったぁ! アルバート兄ありがとう!」
「え? アルバート兄?」
一瞬、吃驚するアルバート。
『アルバート兄』
……それは、遠い昔に呼ばれた事がある……甘く切ない記憶。
驚くアルバートを、エリンが満面の笑みを浮かべて見つめていた。
エリンの表情が、昔の記憶とだぶって来る
「うん! だってアルバート兄はフィービー姉の旦那様でしょう? だったらエリンのお兄さんだよねっ」
「…………」
黙り込んでしまったアルバート。
これは、先程のフィービーの反応と一緒だ。
エリンの表情に、不安の陰が差す。
「嫌……なの?」
「ち、違う! 逆! 逆だよっ! どんどん呼んでくれ」
「じゃあっ! アルバート兄」
「あおうっ!」
エリンが呼ぶ声を聞いたアルバートが、心臓を矢に射抜かれたようなポーズで、大きくのけぞった。
でも、顔には満面の笑みを浮かべながら。
「もう! アルバート兄ったら大袈裟だよぉ」
「うん、うん! そうだな! 俺って大袈裟だよな」
答えるアルバートの目が、何故か遠くなっている。
その理由を幼馴染であり、妻でもあるフィービーは良く知っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食が終わってからも、エリンにとっては楽しい事が一杯である。
ハーブティを飲みながら会話が弾む。
その大きな原因は、アルバート達が持って来た荷物の中身。
ダン達への『差し入れ』であった。
中には、女物の服が結構ある。
勿論、エリン用だ。
エリンは目を輝かせて、服を触っている。
「凄い! 凄いよぉ! いろんな服がい~っぱい!」
王都市民が着る一般的なブリオーがいくつかある。
そうかと思えば、農民男性が作業をする際に着用する、ジャーキンという上着にホーズというズボンの上下。
同じく、農民女性が着る可愛らしいカートルに、エプロンのセット。
これには、カーチフという被り物とパンプスまでついている。
また、旅行者が良く着るダルマティカという服とドミノというフードのセットに、渋いストローハットまであった。
ひと通り見たダンが、深く深く頭を下げる。
「悪いな、フィービー。俺同様、エリンの服まで一杯貰っちゃって! 本当に助かったよ、ありがとう!」
「良いのよ! 全部着なくなった私のお古だから」
「フィービー姉ありがとう! エリン、すっごく嬉しいよ」
「うふふ、こんな山の中でも、少しはお洒落出来るね」
「うん! エリン、色々着てみるよっ」
「ははは、エリンちゃん。今度俺にも着て見せてくれよ」
「うん! エリン、アルバート兄に見せるよっ。似合うと良いなぁ」
「ああ、カートルにエプロンなんて、可愛い村娘って感じで最高だ」
またもや、アルバートの目が遠くなっていた。
エリンを、誰かにだぶらせている事は間違いなかった。
夫の様子を見ていたフィービーが、「そっ」と囁く。
「あなた……よかったわね」
「う、うん……俺、久々に思い出したよ……ジュディの事をさ」
アルバートには、今は亡きジュディという妹が居た。
年が10才以上も離れた、兄に良く懐いた可愛い妹。
アルバートも、目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた。
アルバート兄!
アルバート兄!
どこへ行くのにも、ちょこちょこと、この幼い妹は付いて来た。
しかし!
別れは、唐突にやって来た……
流行り病にかかったジュディは、呆気なくこの世を去ったのだ。
葬式が行われ、ジュディの小さな亡骸が墓地へ埋められるのを見て、アルバートは呆然としていた。
愛する者が、この世に居ない……
もう、二度と会えないのだという悲しみを、当時少年のアルバートは嫌というほど味わったのだ。
この子は、もしかしたら……
神様が、遣わしてくれたのかもしれない。
ジュディの生まれ変わりとして……
だって!
心が、とっても温かくなっているのだから。
守るよ、ダン。
俺もフィービーもこの子を!
それに信じるよ!
呪われてなんているもんか!
俺達夫婦を、こんなに幸せな気持ちにしてくれるこの子が!
アルバートは、花が咲くように笑うエリンを見て、強く強く決意していたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる