隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第38話「冒険者ギルド②」

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 エリンは、もう一度貼り紙を読み直した。
 書いてある事は、間違いなく『愛犬の散歩』であった。

 エリンは、じっくりと考えてみる。

 犬の散歩とははっきりしないが……
 ダンの家に居る、ケルベロスのようなああいった生き物と、ただこの街を歩くだけなのだろう。
 
 戦うとか探索するとか、勇ましい『冒険』をするイメージを冒険者に対して持っていたエリンには、とんだ拍子抜けである。

 そんなエリンに構わず、ダンは他の貼り紙を指さした。

「じゃあ、これは?」

「自宅前のどぶ掃除をしてくれる人……募集?」

 どぶ……掃除って何だろう?

 エリンの頭の上に、?マークが飛び交っている。

「じゃあこっちは?」

「市場の買い物の手伝いを求む、重い荷物を運ぶ為、力に自信がある方……って、ええっ? ねぇ……ダン、これが冒険者の仕事なの?」

「うん、これも立派な冒険者の仕事だ。まあ俺やエリンでも、簡単に出来る雑務だな。じゃあこっちを見てくれ」

「ええっと……森を荒らすゴブリンの大群の討伐人募集? 賃金はずむって? あ、あれぇ!? こ、こっちは女性の敵オークを倒せる方、美人冒険者は特に危険あり要注意!? って! 全然違うよぉ、ダン、何これぇ!」

 ゴブリンやオークは、エリンも知っている。
 地下世界における悪魔との戦争では、ダンが倒した魔王アスモデウスの手先であり、一族の仇ともいえる凶暴な怪物だ。
 数を頼んで、攻め寄せる厄介な相手でもある。

 エリンは、あんな怪物共が地上にも存在する事に驚いた。
 生まれて初めて見た地上の世界……ダンの家の周囲の森や草原は美しく平和だった。
 狼という肉食動物は見たが、気高く美しい獣であり、醜悪なゴブリンやオークとは比べ物にならない。
 そして同時に驚いたのは、奴らと戦う『仕事』が、先に見た貼り紙の召使がやるような雑務と並んで貼られていた事にである。

 呆然とするエリンへ、ダンが言う。

「そうだな。前にも言ったように冒険者というのは何でも屋だ。犬の散歩からオーク討伐まで様々な依頼がある。そして依頼によって報酬……すなわち貰えるお金が違うんだ、良く見てご覧」

「え? そ、そうなの?」

 ダンに言われてエリンが慌てて見ると、確かに依頼によって金額が違う。
 全然違う。

「えっと……犬の散歩は大銀貨2枚で……オーク討伐は王金貨5枚? 本当だ、違う!」

「銀貨や金貨はこの前話したお金というものだ。こうやって働いた代償にお金を貰う。大銀貨2枚は……そうだな。俺やエリンのどちらかひとりが最も安い宿に泊まれるくらいかな?」

「え? 王都で泊まるのに、お金が要るの?」

「ああ、人を泊めるのを仕事にしてお金を貰うのが宿屋。食事も用意しなければならないし、当然お金が掛かるからこちらが対価を払うのは当然だ。それにいきなり見ず知らずの他人の家には泊まれないだろう?」

「うう、確かに! じゃ、じゃあ王金貨5枚は?」

「うん、王金貨5枚は……ええっと、王都で一番安い家が買えるくらいだな」

「ふわぁ! 違うね! 全然違うね、報酬!」

「ははは、違うな。ちなみに紙の色が違うのは、依頼を受ける事が可能な冒険者ランクが違うって事だ。ランクというのは……分かり易く言うのなら、貴族の爵位みたいなものだ」

 ダークエルフにも、貴族階級は存在した。
 だからエリンは、ダンの言う意味が分かる。

「依頼はランクによって受けられるものと、受けられないものがある。高ランクの依頼は難易度に比例する。見たら分かると思うが、犬の散歩は比較的容易い。だけど、オークを倒すのはとても骨が折れる仕事だ。だからその分報酬金額も高い」

 ダンの説明は、やはり分かり易い。
 エリンは、砂漠の砂が水を吸い込むように理解して行く。

「そうなんだ! エリン、分かって来たよ。ちなみにダンのランクってどれくらいっ?」

「俺? 俺はランクBさ」

「Bって……一番強いの? この世界で最強なの?」

「ええっと……いや、冒険者ランクで最強というか最上はS。その次がAで、そのまた次がBなんだ」

「え~っ!? 3番目なのぉ、それっておかしいよ!」

 ダンより、強い冒険者が居る?
 エリンの中に、違和感が広がって行く。

 頬を膨らませるエリンに、ダンは微笑む。

「ははは、エリン、俺がBなのは理由があるんだ。後で説明するから、とりあえず依頼の内容とランクは理解したな?」

「う、うん……」

 不満そうなエリンを宥めるダン。
 そこへ……

「おう、やっぱりダンか! 久しぶりだな」

 ダンとエリンへ声を掛けて来たのは先程、肘掛け付き長椅子ソファに座ってだべっていた、冒険者クランの男達である。

 リーダーらしい若い男が、ダンへ問う。
 戦士らしく、逞しい体つきだ。

「おお、その子、すっげぇ可愛いなぁ! またナンパしたのか、ダン」

「むむう、ナンパ!? 何ですってぇ!」

 ダンより先に、素早く反応したのがエリンである。
 何せ、禁断のキーワードが入っていたから尚更である。

「あ、馬鹿! チャーリーの奴」

 折角、封印されていた話題だったのに……

 チャーリーと呼ばれたクランリーダーへ、怒りの余り大股で詰め寄って行くエリンを見て、ダンは大きなため息をついたのであった。
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