隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第45話「30分の間に②」

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「ええっ!? 何、ダン?」

 エリンは驚いた。
 気合がビシバシ入った、エリンの必勝への決意。
 それを……ダンが『否定』したからである。
 しかしダンは、エリンが反論する前に、別の話を切り出した。

「エリン、ローランド様はこのアイディール王国の元騎士団長、そして英雄ドラゴンスレイヤーだ」

 ドラゴンスレイヤーの意味は、エリンも知っている。
 エリン達のいう竜とは、地下世界に生息する巨大な蚯蚓《ミミズ》に似た怪物である。
 その竜を倒した勇猛なダークエルフの戦士を称えて、ドラゴンスレイヤーと呼んでいたのである。
 古文書にも竜を倒した者は、そのように呼ばれると書いてあった。

「ドラゴンスレイヤー? もしかしてドラゴンを倒したの? あの人が?」

「もしかしてじゃなくて、確実にそうだ。それも1体じゃない、人に害為す竜を2体も倒している。それでこの国の人々から尊敬を込められて竜殺しドラゴンスレイヤーと呼ばれているのさ」

「凄いんだね」

 エリンが感嘆してそう返すと、ダンはローランドの説明を始める。

「まあな、タイプとしては戦士なんだが、ローランド様はただの戦士じゃない」

「ただの戦士じゃない?」

「そう! 戦士というのは概してパワーファイターが多い。パワーファイターというのは、力を前面に出して戦うタイプだ。剣だけじゃなくアックス、メイス、ハルバードなどの打撃で戦う武器を得手としている」

「うん! エリン、何となくイメージが湧くよ」

 エリンの描いたイメージ……力任せの戦士。
 まるで、チャーリーである。
 エリンは彼の困ったような笑顔を思い浮かべて、つい「ぷっ」と吹き出してしまう。

 ダンもエリンの笑顔を見て、微笑むと話を続けてくれた。

「パワーファイターと対するのが、ソリッドファイターだ」

「ソリッドファイター?」

「ああ、ソリッドファイター。パワーファイターが力を前面に出して戦うのに対して、ソリッドファイターは技で戦う。技とは技巧、そして速度と瞬発力だな。パワーファイターは敵を一気に粉砕する。ソリッドファイターは手数を多く出したり、弱点を的確に攻めて、相手を死に至らしめるというタイプだ」

「エリン、それ凄く分かる! ダークエルフの使う剣や体術って、それだもの」

 ダークエルフ、そしてエルフは他種族に比べると膂力に劣る。
 その弱点をエルフ達は速度、瞬発力、そして磨き抜かれた技巧で補う魔法剣士として強さを極め、他種族に対抗したのである。
 ズバリ、ダンの言うソリッドファイターだ。

 ここで、エリンにはピンと来た。
 ダンが、わざわざこのような説明をしたという事は……

「でもダン……ローランド様って、も、もしかして……」

「そう! ローランド様はもう58歳だが、あの年でも力と技の両方を兼ね備えた完璧な戦士、しかも頑丈な身体と底なしのスタミナを誇る化けものさ」

「うっわ! パワーファイターとソリッドファイターを合わせた? ば、化け物? それってアスモデウスより強いの?」

 エリンがいきなり凄い比較対象を出して来たので、ダンは「えっ?」という顔をする。

「アスモデウス? ん~、それはどうかな? 比較するのが難しいが……ある意味同じか、ローランド様の方が強いかもしれない」

「ふえ~、そ、そうなの?」

「うん、あのスケベ魔王と違って魔法を使ったり、口から火を吐いたりは出来ないけどな」

 ローランド様は、魔法を使えない。
 それは分かった!
 だけど……

「むむむ! じゃ、じゃあ! エリンはどうしたら良いの? どう戦ったら勝てるの?」

「そこだ! エリン、思い出して欲しい。最初に俺が首を振った事を」

 そういえば、思い出した。
 エリンのやる気をそぐようなダンの態度を。

 「ムッ」としたエリンは口を尖らせた。
 頬も、思いっきり膨らませる。
 ほお袋が満杯の栗鼠そっくりだ。

「ああ、あれ! 思い出したよ、エリン。ちょっといらっとしたもの。ダンはエリンの味方の筈なのに」

「御免、御免。ただエリンには考えを改めて欲しいと思ってな」

「考えを改める?」

「そう! エリンは今迄一族を代表する王族として誇りをかけて戦って来ただろう。敗北は許されないって感じでさ」

 そう!
 エリンは、ダンと出会った時の事を思い出した。
 あの時自分は、ダークエルフ一族最後のひとりだった。
 それでも、悪魔共と戦い抜こうと悲壮な決意を固めていた。

「ダンの言う通りだよ。お父様やエリンが負けたら……ダークエルフは終わりなんだもの。……実際に負けたから終わりになっちゃったけど……」

 エリンは話しているうちに、悲しくなって来た。
 辛い思い出が、一気に押し寄せて来た。
 我慢出来なくなって目が潤み、涙で一杯になってしまった。

「しまった!」という表情でダンが慌てて言う。

「ああ、本当に御免! 泣くな! いや、その考えを改めて貰いたいんだ」

 王族として誇りを持って戦う。
 それを改める?
 どういう事だろう。
 エリンには分からない。
 だから、黙り込んでしまう。

「…………」

 無言になったエリン。
 ダンは、諭すように言う。

「俺は冒険者、エリンも冒険者になったよな?」

 ダンは、何かを説明しようとしている。
 エリンの事を思っての事だ。
 気を取り直して、エリンは頷いた。

「う、うん! なったよ、冒険者」

「その冒険者なんだが……一番大事なのは生き残るって事さ」

「生き残る?」

 意外な答えであった。
 誇り高く戦い抜いて、潔く死ぬ。
 生に頓着せず、命を懸けて戦い抜く。
 亡き父が教えてくれた、王族の矜持だったから。

 しかしダンは、全く違う事を言っている。
 きっと大事な話なのだろう。
 そして、何か意味がある筈だ。

 エリンは、真っすぐにダンを見つめる。

「そう! 表向きの勝負に勝つ事より、負けても良いから確実に生き残る、そして無事に帰る! 冒険者の真の勝利はそこなんだ」

「確実に生き残る……無事に帰る……冒険者の真の勝利」

 エリンは、ダンの言葉を繰り返す。
 するとさっきと同じ。
 唐突に、クランフレイムのメンバーが、叫んだ言葉が聞こえて来る。

『エリンちゃ~ん! ありがと~っ』
『最高の見送りだよ!』
『頑張るよ!』
『絶対帰って来るよ!』

 チャーリー達は、ダンと同じ事を言っていた。

「絶対に帰って来る……」

 エリンは、再び繰り返して呟いた。
 段々言葉の意味を、理解して来たらしい。
 その証拠に、小さく頷いている。
 
 ダンはそんなエリンに対し、きっぱりと言い放つ。

「そうさ! 勝つに越した事はないが、無事なら負けても良い。絶対に帰る事が大事なんだ」

「うん! エリン、良~く分かって来た! 無事にダンと一緒に帰るのが一番なんだねっ!」

 もうエリンは、完全に理解した。
 冒険者は死んだらお終い。
 その為には、目先のつまらない勝利に拘ってはいけないんだと。

「その通り! 偉いぞ、エリン。よっし! 冒険者の心得が分かったところで、お前に対ローランド様のマル秘作戦を授けよう」

「マル秘作戦?」

「そう! こうこう、こうだ!」

 ランク判定の為の模擬戦とはいえ、ダンはやはりエリンに勝って貰いたい。
 悪くても、善戦して貰いたい。
 今のやりとりで、もう無謀な事をエリンがしないと、ダンは見極めた。
 だから、何回か手合わせしている、ローランドの戦法と癖を教えたのだ。

 ダンのアドバイスが告げられ、少々戦意喪失気味だったエリンの表情が明るくなる。
 これから待つ戦いが、不思議に怖くはない。

 エリンは、竜殺しと呼ばれる英雄との一戦を控えて、あがるどころかワクワクして来るのであった。
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