隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第44話「30分の間に①」

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 サブマスターのクローディアは、一礼すると去って行った。
 どうやら闘技場に赴いて、スケジュール調整をするらしい。
 判定試験開始の準備が出来るまで約30分だと、クローディアは言った。

 ダンは「うんうん」と頷く。
 エリンと自分の、支度をするのには充分な時間である。

「あと30分か……丁度良い。この間に作戦タイムだな」

「作戦タイム?」

 また聞き慣れない言葉を聞いて、首を傾げるエリン。
 自分で言っておいて、ダンは苦笑する。

「あ、ああ……ベタな言い方しちゃったな。30分後にエリンのランク判定試験をやるから必要な装備を準備するのと、ローランド様と戦う為のマル秘作戦を授けようと思ってな」

 今度はローランドが、ダンの言葉に反応した。

「私と戦う為のマル秘作戦? それは凄く面白そうですね、混ぜて貰えませんか」

「駄目ですよ、ローランド様。貴方が入ったら折角の作戦が筒抜けですから」

「ははははは! 確かに! では武器庫まで案内しましょう」

 フレンドリーなローランドは、相変わらず余裕綽々よゆうしゃくしゃくである。
 格下扱いされているようで、エリンはあまり面白くない。

「武器庫? ダン! エリン、自分のがあるよ」

 エリンが、自前の装備を使うと主張した。
 現在はフィービーがくれた、おさがりである旅行用の服を着ている。
 ちなみにダンの持つ魔法が掛かった収納の鞄に、エリンが昔から愛用している、剣や鎧など装備一式は仕舞ってあった。

 しかし、ダンは即座にエリンの希望を却下する。
 何故ならばエリンの武器防具は、エルフ族が使う特有なものだ。
 すぐ「どうして人間の少女が使うの?」とチェックが入るだろう。
 そうなると、話がややこしくなる。

「エリン、ロ―ランド様とやるのは模擬戦だ。武器も刃を潰した練習用を使う」

 ここでも、ローランドは申し入れをする。
 やはりエリンを、『初心者』だと考えているようだ。

「私は練習用を使うが、エリンさんは普通の武器でも構いませんよ」

 ダンが、大きく手を振って制止する。
 今迄で、一番大きなジェスチャーだ。

「それこそ、駄目です、ローランド様」

「それこそ駄目?」

「はい! 詳しくは申せませんが、この子は結構実戦を積んでいます。あまり過小評価しない方が良い」

「……ふむ。ダン殿が言うのなら、その通りなのだろう。分かった……今迄の態度を詫びよう、申し訳ない!」

「エリン、ローランド様がしっかり相手をしてくれるそうだ」

「ううう……エリン、負けない!」

「ははは、ではこちらもギルドの上級ランカーと戦うつもりで行きましょう」

 ローランドは立ち上がるとダンとエリンを促して、冒険者ギルドの武器庫へと向かったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 冒険者ギルドの武器庫は、本館の裏別館内にあった。
 別館の奥が、闘技場である。
 ローランドはふたりを案内すると、笑顔で手を振って闘技場へ歩いて行った。

 冒険者ギルドでは、『戦利品』の購入も行っていた。

 遺跡や迷宮から冒険者が持ち込む『戦利品』は、依頼に対する報酬と共に、冒険者の貴重な収入源となる。
 冒険者ギルドでは、専属の鑑定士がその場で鑑定し、評価額の約半値で買い取る。
 ギルドは更に、その『商品』を商業者ギルドや大手商会へ評価額の約7割で売却し、差額の利益を得るのである。

 一見、冒険者が酷い損をするように思える。
 だが魔法鑑定士が鑑定を行う際に必ず徴収する鑑定料は、他所と比べると格安な為、冒険者は結局ギルドで売却した方が得なシステムとなっていた。
 よって高価で高性能な武器防具は、ギルドが利益を得る為、王家に献上されるほんの一部を除いて即座に売却されてしまう。

 こうした理由で、通常冒険者ギルドの武器庫に大した武器はない。
 ギルド登録者対象に、中級者向けまでの極めて一般的な武器防具の格安販売を行っているだけである。
 他には、ギルド内で行われる練習用の武器防具を貸し出す、レンタル屋の機能を果たしていた。

 ダンはここでも慣れた様子で、武器庫担当のギルド職員へ声を掛ける。
 何とギルド職員は、エリン達エルフの『宿敵』ドワーフ族ふたりであった。

 ドワーフ達は、鍛冶能力に優れた種族である。
 エリン達ダークエルフとドワーフは、過去に接点があった。
 お互いに、地下世界で暮らす種族だからだ。
 当然縄張り争いが起こったが、ダークエルフ達はつまらぬ戦いに嫌気がさし、より深い地下へ去って行った。
 当然、種族間の感情は険悪なものがある。

 エリンの中では、ドワーフ達は基本的には排他的。
 大酒飲みで、武骨且つ不愛想というイメージがあった。
 しかしここのドワーフ達は、巷で言われているのと違って、誰にでも愛想が良い。
 
 エリンに対しても、にこにこしていた。
 レンタルする武器防具に関しても、熱心で的確なアドバイスをしてくれ、ダンとエリンは自分に合ったものを調達する事が出来たのである。

 ダンの防具は兜、鎧、脛あて、靴の革セットに武器はロングソード、エリンも同じセットでサイズと色違いのものを選び、使い易そうなショートソードを借りる。
 当然、武器である剣は練習用の刃を潰したものだ。

 ダンと同じデザインの革鎧に身を固めたエリンへ職員のドワーフが言う。

「おう、夫婦らしくお揃いで恰好良いぜ」

「本当?」

「ああ、可愛い新米冒険者エリン! 頑張れよ!」

「うん! 頑張る!」

 武器庫を後にしたエリンは上機嫌だ。
 あの憎たらしいドワーフが!
 ダークエルフの自分に、晴れやかな笑顔を見せてくれたのだから。

 ダンも、エリンの気持ちが分かる。

「良かったな、エリン」

「うん!」

「あいつらは本当のエリンを見てエールを送ってくれたんだ」

「本当のエリン?」

「ダークエルフとか関係ない、エリンの素を見てくれたのさ」

「そうか! そうなんだね」

 最初にダンから言われた時、エリンが人間に化けるのは少し抵抗があった。
 何故? という思いがあった。

 しかし、ダンの判断はやはり正しかったのだ。

 今迄出会った人達は、皆優しかった。
 ダンが以前言ったように、この人達が誤解してかつてのアルバート達のように酷い事を言って来たら、一々説得するのにはとても骨が折れるだろうから。

 ダンとエリンが歩いて行くと、闘技場の前にはベンチがあった。
 幸い、周囲に人影は無い。
 作戦の相談をするには絶好である。

「ようし、じゃあここに座ってローランド様と戦う作戦を立てようか?」

「うん! エリン、絶対に勝つ! 負けたら死ぬぐらいの覚悟で頑張るよ」

 気合を入れるエリン。
 握った拳が、ふるふると震えている。

 しかし!
 何と言う事か、ダンは笑顔のまま黙って首を横に振ったのであった。
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