隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第53話「無礼者!」

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 冒険者ギルドを出た、ダンとエリンは王都の街中を歩いている。
 夕日が街並みを赤く染めて、普段にぎやかな街がやや寂しそうに見えていた。
 普段は朗らかで饒舌なのに、何故か黙っていたエリンが切なそうな表情をする。

「ねぇ……ダン」

「どうした、エリン」

「うん……ローランド様……さっき泣いてた、心の中で泣いていたよ……すまない、自分だけ生きていてすまないって……」

 エリンは、人の心の波動を感じる事が出来る。
 どんどん、その力は強まっているようだ。

「エリン、ローランド様は……奥様と息子さんを亡くされている」

「え?」

 家族が死んだ。
 それはもう、なにものにも代えられない辛さである。
 エリンも、嫌というほど味わった。

「ダン……それって……」

「ああ、とても辛い思いをして来た。だが彼は悲しみを乗り越えて、息子さんの遺志を継いだんだ」

「息子さんの遺志?」

「うん、俺も人から聞いた。……詳しい事は、いずれ話すよ」

 ローランドがダンの事情を知っているように、ダンもローランドの過去を知っているようである。
 しかし今のエリンは、根掘り葉掘り聞く気にはなれなかった。

「そうなの……ローランド様、可哀そう……エリン、分かるよ、凄く分かるんだ」

 エリンも、愛する父を亡くした。
 怖ろしい悪魔達により、目の前で無残に殺されてしまったから。

 ローランドの忸怩たる思い、そしてエリンの張り裂けそうな気持ちを考えると、ダンは発する言葉が見つからない。

「…………」

「でも、エリンにはダンが居る」

「…………」

「もしも……ひとりぼっちだったら……エリンは駄目になっていたかもしれない……でも、ダンが居てくれるから……辛い事を思い出しても、嫌な事があっても……前を向けるよ」

 エリンは、真っすぐにダンを見ていた。
 ストレートな眼差しには、強い気持ちが込められている。

「そうか、ありがとう、俺だってそうさ」

 笑顔を向ける、エリンの気持ちが嬉しい。
 ダンの気持ちに、温かさが満ちて来る。

 そんなダンを見て、エリンも満足げに頷く。

「うん! ローランド様もダンと話していて心が温かくなっていた、ダンが癒しているんだよ、エリンを癒すのと一緒だ」

「……癒してやるなんて偉そうな事は言えないが、俺が少しでも彼の役に立っているのなら嬉しいさ」

「ダン……」

「俺だけじゃない、あの様子ならエリンの笑顔にも凄く癒されたさ、ローランド様は」

「うん……そうなっていたら、エリンも嬉しいよ」

 エリンは、握っていた手に「そっ」と力を込めた。
 ダンも、優しく握り返す。
 ふたりは次に向かう場所へ、力強く歩み始めたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「へぇ、これが?」

「ああ、これがそうだ」

 ダンとエリンが到着したのは、豪奢な邸宅が建ち並ぶ王都貴族街区の一角……
 エルフの王宮魔法使い、ヴィリヤ・アスピヴァーラの屋敷である。

 既に陽は落ちて辺りはもう薄暗く、道に設置された魔導灯が淡く光っていた。

「何か、凄い! この家って冒険者ギルドと同じくらい?」

「ははは、まあそこまでは行かないが、結構な大きさなのは確かだ」

 エリンが言う通り、目の前にある白壁4階建ての屋敷は高い柵で囲まれ、広大な敷地を有していた。

「でも、あの門……閉まっているよ。どうやって入るの? ダンの力でぶち破るの?」

「ぶち破るって……エリン、たまにお前凄い事言うなあ」

「うふ! もしぶち破るんだったら、エリンも岩弾飛ばして手伝う」

「いや、ぶち破らないって……」

「むむむ! じゃあこっそり潜入?」

「いや、潜入もしないって……ごく普通に面会を頼むんだよ」

「ぶ~! つまんない! 敵地なのにっ」

 「ぷりぷり」するエリン。
 宿敵のエルフ――ヴィリヤとかいうリョースアールヴの女には、先制パンチを見舞っておきたい。

 エリンの意図が見え見えなので、ダンはスルーして促す。

「……行くぞ、エリン」

「あ、待ってよぉ、ダ~ン」

 期待した展開に持ち込めず、不満を見せるエリンであったが、とりあえずダンに付いて行くしかない。
 ふたりは、屋敷の正門へ近付いて行く。

 堅く締め切った鉄製の正門前には、エルフの門番がふたり立って辺りを睥睨していた。
 ダン達が屋敷へ向かって来ると見て、門番は鋭い視線を投げかけ良く通る声で制止する。

「止まれっ、この屋敷を王宮魔法使いの屋敷と知って……ん!? な、何だ、ダンか、ヴィリャ様からそろそろ来るだろうとは聞いているぞ」

 相手がダンだと知った、門番達の表情が和らぐ。
 口調も、一気に砕けたものとなった。

 門番の、表情を見たダンも軽口となる。

「じゃあヴィリャは居るのかい?」

「ああ、ご在宅だ……しかし」

「しかし? 何だ?」

「ふむ、お前は人間にしては良い奴だと思うが……唯一、ヴィリヤ様を呼び捨てにするのだけはムカつく。まあ、あの方が許されているから仕方がないが」

 主人が屋敷に居る事を認めた門番であったが、人間であるダンが呼び捨てにするのは気に入らないようだ。

 しかし、ダンはさして気にする様子がない。

「まあ……そういうこった」

 軽く流すダンに、門番はエルフ特有の端正な顔を歪める。

「ふん、仕方がない、通れ! って、む!? 待て! この者は誰だ?」

 門番はダンに続こうとするエリンを見て、慌てて割り込むと両手を広げて制止した。
 呆気に取られるエリンを、門番は頭からつま先まで、「じろじろ」と見渡す。

 ダンが振り返って、エリンへ手を差し伸べる。
 門番へ、きっぱりと言い放つ。

「この子は俺の嫁だ。一緒に通して貰っても問題ないだろう?」

「ま、待て! そんな身元不明の女など通せないぞ、ヴィリヤ様にお聞きしてからだ」

 その瞬間!

 びった~ん!
 大きな音が鳴り、門番は派手にぶっ倒れた。
 片方の頬が、真っ赤になっている。

 エリンが素早く近づいて、門番へ思い切りビンタしたのだ。

「無礼者! 気持ちの悪い目付きで私を見おって、何が身元不明だ! 私はエリン・シリウス! ダン・シリウスの妻だ! それ以上でもそれ以下でもないっ」

 ダンも驚いた。
 いつものエリンの物言いとは、まるで違っていた。
 アスモデウスと戦っていた時の、凛々しいエリンの雰囲気へ戻っている。

 頬を打たれた門番は気を失って倒れており、それを見たもうひとりの門番が、血相を変えてエリンへ詰め寄った。

「な、何が無礼者だ! こんな事をして許さんぞ、さあ大人しく詰め所へ来て貰おうか」

 もうひとりの門番は、ダンの見覚えのないエルフの男である。
 まだ王都に来て、日が浅いのだろう。

「いくらヴィリヤ様の客人とはいえ、許さんぞ」

「おいおい、嫁がぶっ叩いたのは詫びるが、冷静になってくれよ」

「ふざけるな、貴様ぁ! 容赦せん!」

 激高した門番は、とうとう剣を抜いてしまう。

「あ~あ、抜いちゃったか……しゃあねえ」

 ダンは、「ピン」と指を鳴らす。
 剣を抜いて向かって来た門番の身体が硬直し、その場に崩れ落ちた。

 ダンが束縛の魔法を発動し、相手を無力化したのである。

「悪いな、面倒は御免なんだ」

「あ? ダン! 誰か来るよ、ふたりだよ」

 エリンが何者かの気配を察知し、叫ぶ。
 やがて門から見える屋敷の扉が開き、金髪の小柄なエルフ女性が現れた。
 傍らには、少し背の高い栗毛のエルフ女性が控えている。

「これは何の騒ぎです? ああ、ダンですね……待っていました」

 さらさらな金髪をなびかせ、美しい菫色の瞳でダン達を見つめたのは、この屋敷の主《あるじ》……ヴィリヤ・アスピヴァーラであった。
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