隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第58話「英雄亭の美少女」

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 英雄亭の美少女ニーナの、いきなりな爆弾発言。
 『恋人』と名指しされたダンはエリンの手前、何とか誤解を解きたいと、つい声が大きくなる。

「おい、エリン! ニーナとは何でもねぇ!」

「本当?」

 ダンの言葉を聞いても、訝しげな表情のエリン。
 その、理由わけとは……
 先程の、ヴィリヤとの件があるからに違いなかった。

 そんなエリンの顔付きを見たダンは、更に声が大きくなる。

「本当だ! 俺はこの店にたま~に来る客、ニーナはここの従業員ってだけの関係だ」

 必死に取り繕うダンを見て、頃合いだと思ったのだろう。
 ニーナは笑顔のまま、ぺろっと舌を出す。

「うふ! 残念ながらダンの言う通りなの、私達は無関係よ」

「…………」

 エリンは疑わしそうな視線で、「じ~っ」とニーナを見た。
 何かを感じる……
 これは……ヴィリヤの時と一緒だ。
 はっきり、分かった。
 この人間の少女ニーナは、ダンに対してほのかな思いを寄せている。

「ダン、この子、こんな事言っているけど……ウソだよ」

 自分の言葉が、『ウソ』と言われたニーナは吃驚する。
 エリンの口調は、有無を言わさぬ雰囲気だったからだ。

「え?」

 今度は、ニーナが驚いた。
 エリンは、そんなニーナを真っすぐ見詰める。

「ねぇ、貴女……名前、ニーナって言ったよね?」

「え、ええ……」

「貴女って……ダンの事……好きでしょ?」

 ストレートなエリンの言葉に、ニーナは面白いほど動揺する。

「へ? ええええっ!? あ、あのぉ、え~と……」

「隠したってダメダメ。エリンには分かるんだもの」

 エリンの攻撃に対して、防戦一方のニーナ。
 ここは、逃げるしかないと思ったようだ。 

「わ、私、今は仕事中ですので」

「あ、誤魔化した」

 エリンの追及をかわすように、ニーナは無理やり事務的な口調で言う。

「お、おふたりさま、ご案内です! こ、こちらの空いているお席へど~ぞ」

「むむむ……」

 矛先をかわされて、エリンは不満顔だ。
 案内されて着席しても口が尖り、頬がまた思いっきり膨らんでいる。

 一方、何とか『態勢』を立て直したニーナは、いつもの仕事モードに戻っている。
 しかし……

「で、で、ではまずお飲み物をお願いします」

 盛大に噛みながらも、何とか仕事をしようとするニーナを見てダンは言う。
 そろそろ、話を終わらせようと言うように。

「エリン、ニーナへ飲み物頼むぞ」

「ダ、ダン!?」

「俺はエール、キンキンに冷えたのを、大マグでな」

「う! じゃ、じゃあ! エリンも同じの」

 驚いたエリンだったが、きっぱりとしたダンの物言いに何かを感じたらしい。
 素直に、ダンの言うことに従ったのだ。

「は、はい! かしこまりました」

 ニーナは、逃げるように厨房へ去って行った。
 追及を中断されたエリンは、ダンを軽く睨む。

「ダンったら」

 エリンから睨まれたダンではあったが、「やましい事はない」とばかりにまっすぐ見つめ返す。

「エリン、誤解のないように言うが、俺はニーナへ恋愛感情なんか持ってない。好きなのはお前だけだ」

「う~、分かった……でも」

 ダンの言う事を認めつつも、エリンは複雑な表情だ。
 彼女が反論したいのは、何か理由わけがあるらしい。
 ここはしっかり聞いておいた方が良いと、ダンは思う。

「でもって、何だ?」

 ダンの疑問に対して、エリンは凄い答えを返して来る。

「うん! 今のニーナもさっきのヴィリヤも……それにゲルダもね、ダンの事、好きなんだよぉ」

「はぁ? 何じゃそりゃ」

「ダンはもてる、人気者だよ。ダンの事を好きな女の子が一杯居る! エリンのダンなのに、面白くない」

「おいおいおい」

 その時である。
 ニーナが、大きなマグをふたつ抱えて現れた。
 注文されたエールを持って来たのだ。

「おお、お待たせしましたぁ」

 ニーナは、相変わらず盛大に噛んでいた。
 またエリンから、厳しく追及されると思ったのであろう。

「おい、ニーナ。料理頼んで良いか?」

「あ! は、はいっ!」

 テーブルに、エールがたっぷり注がれたマグを置いたニーナは、注文を聞く準備をした。

「良いか? パンの各種大皿盛り、豆のポタージュスープ、サラダ大盛り、日替わりパテ、ラグー、ミートパイ。雉の香草焼き。そうだな……豚の串焼きも頼んじゃおうか、味付けは塩で」

「わあ! ダンったら、相変わらず食べるわねぇ」

 ダンの注文オーダーを聞いて、ついニーナが嬉しそうに言う。
 そんなニーナの表情を見て、エリンはまた「ムッ」としてしまう。

「ちょっとぉ! 料理をいっぱい頼むのはダンだけじゃなくて、エリンも居るからだよ」

「あ! ご、ごめんなさい」

 怒るエリン。
 謝るニーナ。
 しかしダンは、ふたりのやりとりを華麗にスルーした。

「じゃあ、頼むぞ、ニーナ」

「はっ、はい! かしこまりました」

 ダンは、エリンに睨まれたニーナのフォローをしたような形になる。
 ニーナはまた、逃げるように去って行く。
 エリンは、当然面白くない。

「もう、ダン!」

 何事もなかったかのように、ダンはマグを持ち上げる。

「さあ、エリン、乾杯しよう」

「ねぇ、ダン。家でもやったけどカンパイって何?」

「ああ、乾杯っていうのはな……俺とエリンに良い事があったのをお祝いしたり、ふたりの健康や仲がずっと良い事を祈って、このような杯を飲み干す行為なんだ」

「へぇ、面白いね」

 エリンは『乾杯』を、面白いと感じてくれたようだ。
 どうやらダークエルフたちには、『乾杯』という習慣が全くなかったらしい。

「乾杯をして、お酒を飲むの?」

「まあ、中には体質的に酒を飲めない人も居るから、飲むのは必ず酒というわけじゃない」

「ふ~ん、そうなんだ」

「で、だ。今俺達の目の前にはエールがあるから、ふたりで俺とエリンの出会いに乾杯だ」

「出会いに乾杯? エリンとダンの? 嬉しいっ!」

「ああ、俺も嬉しい。気持ちよく酒が飲めるよ」

「エリンもそう! でも、エール? エリンが飲んだ事のないお酒だね」

 エールとはビールの一種で、大麦の麦芽を常温かつ短時間で発酵させたものである。
 エリンが見ると、マグの中の液体は黒っぽい色をしていた。
 ダンが、補足説明してくれる。

「ああ、ワインに比べると少し苦いかも……あ、そうだ、飲み干すって言ったが、この前のワインみたいに一気に飲むなよ」

 ダンの注意を聞きながら、エリンは形の良い鼻をエールがなみなみと注がれたマグに近づける。

「了解! 気を付けるよ。ふんふん……これだよ、間違いない。さっき嗅いだ、エリンが飲んだ事のないお酒だ」

「そうか、じゃあ早速乾杯しよう」

「う、うん! 分かった、カンパイ!」

 斉唱し、ふたりはマグを近づけた。

 カチン!

 陶器同士がぶつかる乾いた音が鳴り響き、ダンとエリンはふたりの出会いを祝い改めて『乾杯』したのであった。
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