隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第63話「エリンのお手伝い④」

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 ダン達が手伝いに入ってから、3時間後の午後11時過ぎ……
 英雄亭は、この日の営業を終了した。
 
 嵐のような時間は終わり、店内には静けさが訪れている。
 
 更に1時間後の日付が変わった午前0時、厨房手前のテーブルには4人の男女が座っていた。
 ダン、エリン、そしてモーリスとニーナである。

「本当に助かったぜ!」
「ホント、ホント」

 すまし顔のダンとエリンに対して、モーリスとニーナは感謝しきりだ。
 もし助っ人を頑固に断っていたら……
 ふたりともあまりの激務に、目を回して倒れていたかもしれない。
 普段の英雄亭も結構な混み具合な事は確かだが、店の外で待つ客が、数十人も溢れる盛況ぶりなのは久々である。

 仕事に関していえば、エリンはホール担当として、ニーナと共に大車輪の働きぶりであった。
 
 幸いエリンは、この仕事の落とし穴に、はまらずに済んだ。
 客から勧められた酒の杯を飲む事は、さすがに断ったからである。
 これは、ダンの忠告を守ったといえよう。
 
 エリンにとって、極めて適切な判断である。
 飲み過ぎて悪酔いすると困るし、性質たちの悪い者が飲み物に悪戯する可能性もあるからだ。
 また手を伸ばして、身体を触ろうとする客に対しては、巧く躱したうえで軽く怒ったりもした。

 だが、エリンはサービス精神が旺盛であった。
 
 一緒に杯を持って、乾杯のポーズをするのは勿論……
 爽やかな笑顔に癒されるから微笑みかけてくれとか、話す声が綺麗だから一緒に歌って欲しいとか、酔客の多種多様な要望に殆ど応えてやったのである。

 ダンの方は厨房のモーリスから、ホール担当であるエリンとニーナへの橋渡し……つまり注文の整理というオペレーションに徹した。
 厨房仕事の合間を縫って、臨機応変にホール担当もこなしたのである。
 
 ちなみに、大量に出た洗い物等の片付けも、4人で頑張って既に終了していた。

「改めて乾杯だな、全員、今日はお疲れ様、乾杯!」

 モーリスの音頭で、4人は乾杯した。
 酒が少しと、モーリスが手際よく作った何品かの簡単な料理で、ささやかな宴を開いたのである。
 またモーリスとニーナは、ずっと溜まっていた疲れが、いつの間にか消えていた。
 ダンがこっそりと、治癒の魔法を4人全員へかけていたからだ。

 最初の乾杯が終わったところで、ダンが愛するエリンを慰労する。
 この英雄亭の手伝いだけではなく、冒険者ギルドの登録を始めとして、宿敵のエルフとのやりとり等、初めての王都なのに奮闘したとダンは心の底から思うのだ。

「エリン、今日はありがとうな。お前はいろいろ良く頑張ったよ、それにメイド服、とても似合うぞ」

「ホント! 嬉しいっ」

 エリンは、ダンから褒められるのが一番嬉しい。
 幸せいっぱいな、満面の笑みを浮かべていた。

 その様子を羨ましそうに見ていたニーナも、エリンを褒め称える。
 エリンの、素晴らしい働きぶりを目の当たりにした、心の底からの賛辞であった。
  
「エリンさんって、素晴らしい。初めてこの仕事をするのに私と同じ……いえ、それ以上に完璧にこなしていたもの。それにどの席からも引っ張りだこの大人気だったし」

「ううん! エリンはニーナの真似をしていただけ……ニーナは本当に大変だよ。毎晩、毎晩なんだから。ニーナこそ偉いよ」

 同じ事をやってみて、ニーナの仕事の大変さを、エリンも実感したようだ。
 謙遜しニーナを労わるエリンを見て、モーリスは目を細める。
 普段ニーナの事を、目の中に入れても痛くないくらい可愛がっているモーリスではあったが、エリンの事もますます気に入ったようだ。

「ははは、でもエリンちゃんは初めてこの仕事をやったんだろう? 確かに凄い才能だな……どうだ、ダン、冒険者やめて4人で一緒にこの店をやるか?」

 モーリスの誘いは、半分以上本気であろう。
 こんな時は、ダンもむげに断らない。

「ああ、考えときますよ。とても楽しかったからね」

 しかしモーリスは、更なる爆弾を投下したのである。

「その場合は……エリンちゃんとニーナ、両方お前の嫁にするってのはどうだ?」

「えええっ!? モモモ、モーリスさん!?」

 目を見開き驚くニーナ。

「ぶっ!」

 飲んだエールを、派手に噴き出すダン。
 そんなダンとニーナを見て、モーリスは惚《とぼ》けた顔で問いかける。

「何だ、きったねぇなぁ、ダン。ニーナと結婚するのは嫌なのか?」

「い、嫌っていうか……何でそういう展開になるんだ?」と、苦笑するダン。

「わわわ、私は……そんな」と、頬を染めて盛大に噛むニーナ。

 ふたりの、反応を見たモーリスは豪快に笑う。

「はっはははは! この国は一夫多妻制だからダンの嫁は何人居ても良いのさ、エリンちゃんさえOKすれば問題ない」

 エリンは、やりとりを黙って聞いていた。
 どうやらモーリスも、ニーナの気持ちに気づいている。
 それで、可愛い『孫娘』の応援をしているのだ。

 いっそう真っ赤になって、俯くニーナをスルーして、モーリスは問いかける。

「ダン、今夜はどうする? 当然宿は取っているんだろうが……」

 問いかけるモーリスに、ダンは「しまった!」という感じで頭を掻く。

「ああ、うっかりしてた、今夜の宿とるの忘れていたよ」

 ダンの言葉は……嘘である。
 
 実のところ、ダンとエリンは転移魔法で、「さくっ」と自宅に戻って寝る予定であった。
 エリンが、落ち着いた自宅の方で寝たいと望んだのだ。
 
 しかし……

「だったら今夜は英雄亭ここに泊まれ。部屋はいくつかある」

 これは、モーリスの好意である。
 可愛いニーナの為でもあるのだろう。
 ダンは、エリンを見た。
 エリンは、勿論OKというように大きく頷いた。

 愛する嫁から了解を貰ったので、ダンはモーリスの誘いを、快く受けることにする。

「分かった、了解!」

 今夜は、英雄亭に泊まる。
 そうと決まればエリンは、ずっと考えていた事を実行に移す。

「ニーナ、今夜は一緒に寝よう!」

「え? ええええっ!?」

 いきなりのエリンからの『提案』にニーナは吃驚して大声を出してしまったのであった。
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