隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第67話「ニーナをナンパ?④」

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 当時は恐ろしい状況で、一歩間違えばどうなっていたか分からない。
 しかし、ダンはニーナを救った。
 助けて貰ったから、ニーナは無事であり、エリンの前で楽しそうに笑っているのだ。
 
 今だから、笑って話せる思い出のせいか、エリンもだんだん楽しくなって来る。

「うふふ、でもその悪い冒険者、ダンに邪魔されて怒ったでしょ?」

「それはもう! クランのリーダーはダンさんや私よりずうっと年上の、結構良い歳したおじさんなんですけど、『ふざけるな、ガキ』って怒鳴って、ダンさんへ殴りかかりました」

「そうしたら?」

「うるさいな、クソ親爺って……たったこぶし一発で」

「そうかぁ……だよね、だよねぇ~。悪い奴は、ダンの拳一発でノックアウト!」

 エリンが、思わず相槌を打ったので……
 ニーナも、エリンがダンに助けて貰った時の状況を、知りたいと思ったようだ。

「エリンさんの時も、そんな感じだったのですか?」

「そうそう! 嬉しかった! ダン、すっごく強かった! エリン、もう少しで相手の魔物に乱暴されると思ったから……」

 ダークエルフを皆殺しにして、勝ち誇ったアスモデウス。
 その恐ろしい姿を、エリンはまだはっきりと覚えていた。
 自分の魔法は、全く通じなかった。
 それでも抵抗するエリンへ、おぞましくも花嫁になれと、告げて来たのだ。

 アスモデウスは、拒否するエリンを無理やり犯そうと迫った。
 あのままだったら、エリンは意思を曲げ、仕方なく自死するしかなかった。
 もしくは、アスモデウスの卑劣な魔法で自由を奪われ、凌辱されていただろう。
 
 そんな強敵をあっさり倒したダンを思い出すと、エリンは感動で身体が震えた。
 絶体絶命の窮地を助けてくれたダン。
 ダンと出会い、愛し合い結ばれたのはやっぱり運命であり、自分はとても幸せだと思ったのである。

 片や、エリンの言葉を聞いたニーナは眉をひそめた。
 異形の恐ろしい魔物が、エリンを力ずくで犯そうとするシーンを想像したらしい。

「魔物ってもしや……オークか、何かですか? オークなんて最低最悪な女の敵ですものね」

 地下世界で、アスモデウスの先兵として猛威を振るっていたオークは……
 種として雄しか生まれないせいか、恐ろしいことに他種の雌を攫い繁殖を行う本能を持つ。
 よってこの世界では、『女性の敵』と呼ばれる嫌われ者なのだ。 

 ダンが倒したのはオーク如き小物ではない。
 だが……
 さすがに「倒したのは大悪魔です」と、ニーナには言えない。
 そんな事をもし言えば、ニーナは驚き誇らしげになり、いろいろな人に自慢するだろう。
 そうなれば、この国が大騒ぎになるのは、間違いないからである。

 ニーナには悪いが、エリンは話を誤魔化すしかない。

「う、うん、そんなところ……かな」

「そうですか、オークを倒すなんてダンさんはやっぱり強いのですね! 私も助けて貰って本当に良かった、奴らに連れていかれたら間違いなく……ああ、ぞっとします」

 ニーナは首を振り、青ざめていた。
 男達にさらわれたら、確実に乱暴されていただろうから。

「だけど残りの悪党共は?」

 エリンが聞くと、ニーナはまた笑顔になる。

「はい、リーダーを簡単に片づけましたから当然ですが、ダンさんが軽~く捻ってしまいました」

 エリンの脳裏にはアスモデウスに引き続き、ローランドと戦うダンの姿が浮かぶ。
 自分が苦労したローランドを相手にして、充分余裕を見せるくらい、圧倒的な強さだった。
 あんなに強いのに、何故勇者だと自覚しないのか不思議だと、エリンは思う。

 しかしここは、素直にダンを賛辞しておこう。

「うわぁ、ダン、強い! さすが飢えた狼!」

 エリンが褒め称えると、ニーナは同意して「うっとり」している様子だ。

「飢えた狼……うふ、私達にとっては、素敵な狼さんですね」

「うん、かっこいい狼! ダンは最高」

「はい、ダンさんは最高です。……奴らは衛兵が引き立てて行って、今迄の罪もあってむち打ちの上、結局は国外追放になったとか……私が今、安心して王都で暮らせるのは、ダンさんのお陰なんです」

 悪党はとうとう捕まり、裁かれたらしい。
 そんな奴らなのに、何故極刑にならないか、エリンは不思議に感じた。
 だげ、ひとまずニーナは、平穏に暮らせるようにはなったのだ。

 ニーナの話を聞き終わったエリンは、花が咲いたように笑う。
 爽やかな笑顔である。

「よかった!」

 エリンが喜ぶと、ニーナも釣られて満面の笑みを浮かべる。

「ええ、本当によかったです! それ以来、ダンさんはたま~にですけど、この店に顔を出して元気? とか言ってくれて。……私は、凄く嬉しかった。だから、兄が死んでも生きる張り合いが出来たんです」

 ダンは助けた後も、兄を亡くしたニーナを励ましていたようだ。
 これでは、ニーナが好きになるのも当たり前だと、エリンは思う。
 やっぱり、ダンは優しい。
 少し妬けるけど……嬉しい。

 しかし、ニーナの表情はだんだん暗くなって行く。
 目の前には、厳しい現実がある。
 恋焦がれた相手は、美しい少女と結婚してしまったから。

「だけど、それきりだったんです。ダンさん……店には来るけど全然誘ってくれなくて……私、ダンさんとふたりきりで会ってちゃんとお礼を言いたかったのに……」

 好きだと伝えたかったのに、ダンがいきなりエリンと現れて、ニーナはがっかりしただろう。
 自らが愚図愚図していたのを、悔やんでいるのかもしれない。 
 大好きなダンは、もう他人のモノ……エリンの夫なのである。

 あの『恋人発言』は、思いが通じなかった悔しさの裏返し……
 片思いのニーナから、遅すぎたともいえる、ダンへの意思表示だったのだ。
 
 ニーナはため息をつき、一瞬考え込んだようだった。
 しかし、すぐにエリンへ笑顔を見せたのである。

「ああ、御免なさい! エリンさん、改めてご結婚おめでとうございます、お幸せに!」

 ニーナの言葉を聞いて、エリンには良く分かった。
 ダンの事が本当に好きだから、彼が幸せになったのを素直に喜んだのだ。
 エリンを伴侶と認めてくれて、祝福してくれたのである。

「ニーナ……」

 だが……
 お祝いされても、エリンは辛かった。
 ニーナの気持ちが、良く分かるから……
 何とも、複雑な気持ちになっていた。
 
 英雄亭の給仕の仕事をした時から感じていたし、話してみて改めて分かったが、エリンはニーナの事が好きだ。
 素直で明るい。
 優しい子だし、とても気に入った。
 絶対、友達になれるだろう。

 だからといって、愛するダンは渡したくない。
 と、なると……

 考え抜いたエリンはある決意をして、ニーナを真っすぐに見つめたのであった。
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