隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

文字の大きさ
68 / 181

第68話「度胸と愛嬌」

しおりを挟む
 エリンは、気持ちを固めた。
 ニーナの恋を応援すると。
 堅く閉ざされてしまった扉の、鍵だけを「開けてやろう」と決めたのである。

「ニーナ、それで良いの?」

「それで良い……とは?」

 エリンから言われて、ニーナは、戸惑っているようだ。
 相手の真意が見えない。
 それは、仕方のないことであろう。

 だからエリンは問いに答えてやる。

「ダンを諦めるのが、よ」

「で、ですが……ダンさんはエリンさんと」

 当たり前の質問だった。
 だから、エリンは即答する。

「うん、結婚してる」

「…………」

 きっぱりしたエリンの物言いに、ニーナは黙り込んだ。
 そこでエリンは、モーリスの提案を引き合いに出す。

「でもさっきお爺ちゃんも言っていたじゃない。この国ではニーナも『お嫁』さんにしてOKって、ダンに」

「…………」

「エリンはダンと別れない、これははっきり言っておくよ。エリンはダンが大好き、絶対に離れないもの」

「…………」

 ニーナは、ずっと黙っていた。
 ここでエリンは、話の核心部分を「ずばり」と言い放つ。

「でもね、もしニーナがダンのお嫁さんになりたいのなら……エリンは応援する」

「エリン……さん」

 もしや、とは思っていたのだろう。
 エリンの提案を聞いて、ニーナは目を潤ませた。
 正妻として、エリンはニーナを受け入れる。
 認める——そう告げたのだ。

「エリンが出来るのはここまで……後はニーナの行動次第、そしてダンの返事次第だね」

 いくらニーナが「好きだ」と気持ちを伝えても、ダンが応えるかどうか。
 断固として、ニーナを拒否するのなら、エリンだってそれ以上は無理押し出来ない。
 一方、ニーナは再び考え込んでいるようだ。

「…………」

「どうするの?」

 エリンは、白黒はっきりさせたい。
 ニーナに答えるよう、再び促したのである。

 答えを求められたニーナであったが……迷っているようだ。

「い、いえ……私、いきなり言われて今は頭の中が真っ白になっちゃって、どう答えて良いのか」

 ニーナの言葉を聞いて、エリンが分かった事がある。
 思ったら即、行動するエリンに比べると……
 ニーナは良く言えば慎重、悪く言えば臆病なのだ。

 しかしニーナには、充分に考える時間があった筈である。
 『想い』を伝えるチャンスも……
 そう、エリンは思う。

「ニーナ……エリンが、そうだよねぇ、急に言われて無理もないよねって……同意すると思う?」

「…………」

「エリンは、ダンに初めて会った時、助けて貰ってすぐに決めたよ……だけどニーナは、ダンを好きな気持ちをず~っと温めて来たんでしょ?」

「で、でも……」

「エリンはすぐ決めた、ダンに付いて行くって……後悔したくないから」

「後悔……」

「これ以上あれこれ言うのも嫌だから、もう最後にするね。多分、明日……エリンとダンは王都を出て旅立つよ。……暫く戻って来ないと思う」

 エリンは、そう言うと満足した。
 少なくとも、フェアになった筈だと考えた。
 ニーナも、『戦える舞台』に上げてやったと思う。

「戻って来ない……」

 ニーナは事実を確かめるように、まだエリンの言葉を復唱していた。
 躊躇ためらうニーナを見て、エリンはもう突き放す事にした。
 決断すべき時に、自分の行動を決められなくて、結局後悔するのはニーナ自身なのだから。

「じゃあ、お休み~、もう寝るね」

 いきなりの就寝宣言に、ニーナは驚く。

「え?」

「むにゃ……」

 エリンの、可愛い声が聞こえた。
 ニーナが気が付けば、エリンは隣のベッドで毛布を掛け、目を閉じて横になっているではないか。
 このまま、話が終わっていいわけがなかった。

「ままま、待って下さいっ!」

「むにゃ?」

「起きて下さい、お願いですから寝ないで下さいっ」

 ニーナの、必死な懇願に……
 エリンは横になったまま、目を少しだけ開けてニーナを見た。

「ん? 起きるけど、どうするの?」

「わ、私、決めました! 告白します! ダンさんへ好きって言います」

「分かった、だったらエリンは応援するよ。……後はダン次第だね」

「ううう、自分で決めたのに凄くドキドキします」

 ニーナは、胸を手で押さえていた。
 高ぶる気持ちを落ち着かせようとしているらしい。
 
 身体の震えと共に、大きなおっぱいが「ぶるぶる」揺れている。
 エリンが改めて見ても、……やはり大きな胸だ。
 もしニーナがお嫁さんになったら、ダンは自分同様に彼女の胸も好きになるに違いない。
 
「じゃあ、行こっか?」

 エリンが促すと、ニーナは「きょとん」とする。

「い、行く? 行くってどこへですか?」

「ダンの寝ている部屋だよ」

「ええええっ!? ダダダ、ダンさんの部屋ぁ!」

 夜中に、男性の部屋へ行く。
 それって!?
 驚いたニーナの顔が、トマトのように真っ赤になって行く。

「ニーナ、声大きい。皆起きちゃうよ」

 エリンが苦笑して首を振ると、ニーナは盛大に噛みながら抵抗した。

「だだだ、だって! いいい、今は夜中です、ダダダ、ダンさん寝てますよ」

「だから良い、こういう大事な話は静かな夜の方が良い。エリンがダンを起こしてあげるから」

「ううう」

 筋の通っているような、そうでないような……
 微妙なエリンの主張に、主導権を握られたニーナは従わざるを得ない。
 唸るニーナに対して、エリンは「にっこり」笑う。

「昼間言ったよ、仕事は戦い。女子は恋も戦い!」

「恋も……戦い」

 エリンは、欲しいものは戦って勝ち取れと、告げているのだ。
 逃げたり、避けていては、絶対手に入らないと。

「そう、逃げてちゃ、恋は出来ないよ。女は度胸!」

「え? 女は愛嬌じゃないのですか?」

 何か違う例えに、ニーナは怪訝そうな表情になった。
 しかし、エリンは笑顔のままきっぱりと言う。

「両方必要!」

「……分かりました、私、ダンさんへ好きって言います。これから告白しに行きます」

 遂に、ニーナの気持ちは固まったようである。
 ニーナの大きな鳶色の瞳が、強い意思の光を宿して、エリンを見つめていたのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...