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第69話「女子だってヨバイする」
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エリンとニーナは、薄い肌着の上にガウンを羽織ると、そっと部屋を出た。
向かう先は、この英雄亭の建物内でダンへの寝室として、あてがわれた部屋である。
ふたりとも、裸足であった。
靴で、足音を立てない為だ。
忍び足で……静かに歩く。
ダンは勿論、店主のモーリスも起こさないように、「そっとそっと」歩いていたのである。
先頭を歩くエリンは「にこにこ」して口笛でも吹きそうな雰囲気だ。
一方、エリンの後ろを歩くニーナはというと……
顔が強張り、全身がガチガチ。
無理やり身体を動かすという感じで動きも「ぎくしゃく」としており、まるで操り人形であった。
「ううう」
唸っているニーナの声を聞いて、エリンは振り向いて苦笑する。
「ニーナ、歩き方が変。それに、さっきから狼みたいに唸りっぱなし……これじゃあ、どっちが『飢えた狼』だか分からないよ」
苦笑いのエリンから指摘されても、ニーナの歩き方は変わらない。
「そ、そんな事言ったって、夜中に男性の部屋へ行くなんて……とても緊張しているんですもの」
生まれてから18年……
ニーナには、恋愛経験がなかった。
彼女にとって一番身近な男性は、双子の兄であったから。
大人しいニーナは、いつも優しくて守ってくれる兄を一心に慕っていた。
その兄が亡くなってから、初めて近しい男性だと感じたのがダンであったのだ。
そんなニーナに対して、既にひとつの恋を成就させたエリンは、『先輩』として大胆にふるまっていた。
更に、とんでもない衝撃発言が飛び出したのである。
「そっか、まあ緊張するのは仕方がないかも。ニーナはこれからダンにヨバイかけるんだものね」
「ヨバイ!?」
「そう、ヨバイ」
ヨバイ、ヨバイ、ヨバイ!!!
ニーナの頭の中に、エリンの言葉が木霊《こだま》のように反響した。
ヨバイとは……
夜中に、エッチを目的にして、他人の家へ忍び込む行為である。
一般的には、男性から女性への求婚行為の一環だという。
実はこのアイディール王国、いやこの世界でも、人間とエルフは共にそのような習慣があったのである。
しかしあくまで男性からの求愛行為であり、女性が行う事は無いとされていた。
それをエリンの口車に乗って、ニーナは実行に移そうとしている。
ニーナは、自分で自分が信じられない。
男性には及び腰、恋愛には消極的である筈なのに、こんな大胆な行動をするなんて! である。
「ひえっ、私って、何てふしだらな女?」
赤面するニーナへ、エリンは「しれっ」と言う。
「いいじゃん、さっきも言ったでしょ。恋は戦いなんだもの、勝ち取らなきゃ!」
「…………」
反論出来ず黙り込んだニーナへ、エリンは澄ました顔で問いかける。
「納得した?」
「ううう~、改めて分かった。私、エリンさんに口では絶対に敵わない」
「え~、口ではって、エリンは口だけの女じゃないよ、押しも強い」
「…………」
「何? その沈黙」
「……何でもありません」
そうこうしているうちに、エリンとニーナはダンの寝ている部屋の前に着いた。
エリンは相変わらず、にこにこしている。
「いよいよだね、ヨバイ」
「ヨ、ヨバイって、何度も言わないで下さいっ」
「だって、ヨバイはヨバイじゃない」
「…………」
「臆していたら後悔するよ、ニーナ。今から大胆に、すっごくエッチになった方が良い。そうじゃないと、恋は上手く行かない」
「…………」
その時であった。
ダンの寝ている部屋の扉が軋みながら、ゆっくりと開いたのである。
しかし、部屋の入り口には誰も立っていなかった。
これは……
「ありゃ~、ダン、起きてたみたい」
「え?」
「今、魔力を感じた。誰も開けないのに扉が開いたのはダンの魔法。多分起きていてエリンとニーナを待っている」
ダンが、起きている?
ふり絞ったニーナの勇気が、みるみるうちに萎《しぼ》んで行く。
「あう、じゃ、じゃあ! も、戻りましょうか?」
「何で? 丁度良いよ、ダンを起こす手間が省けたじゃん」
エリンはそう言い放つと、ニーナの手を掴んでぐいっと引っ張った。
「ああああっ」
小さな悲鳴をあげるニーナの手を、エリンはしっかり握って部屋の中へ入って行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エリンの予想通り、やはりダンは起きていた。
ベッドに腰かけて、ふたりが部屋へ入って来るのを待ち受けていたのである。
「ダン……さん!」
エリンに起きていると言われていたとはいえ、手を振るダンの姿を認めニーナは息を呑む。
「ふたり揃ってどうした? ニーナは朝早いんだろう?」
ニーナは風邪で休んだ同僚と違い、この英雄亭に住み込んで日々モーリスを手伝っている。
ダンに助けて貰ってからは、変な冒険者クランからつきまとわれる事もなくなった。
だから、モーリスが行く市場への仕入れにも同行しているのだ。
「は、はい……朝早く市場へ行きます」
「だったら、もう寝た方が良い。これから話していたら夜が明けちまうぞ」
ダンは、単純にニーナの身体の事を心配している。
慈愛の籠った眼差しだ。
しかしエリンの見るところ、それは妹を気にするような肉親の情に近いものだと感じたのである。
「ううう」
ダンに言われ、口ごもるニーナ。
見ていたエリンは、ニーナの代わりに告げてやる。
「ダン、ニーナは話したい事がある。大事な話なの、だからこんな時間に来たんだよ」
「エリンさん!」
驚く、ニーナ。
自分で告げられなかった意思を、エリンに代弁して貰った。
絶妙なアシストが、とてもありがたい。
エリンが、ニーナの恋を応援すると言ったのは、ここまで本気だったのだ。
にっこり笑う、エリンがひと言。
「ニーナ、た・た・か・い……だよ」
恋は戦い!
ニーナの脳裏に、エリンの言葉が甦った。
「う! は、はいっ!」
「ニーナ、深呼吸」
「はい!」
す~は~す~は~……
エリンに言われた通り、ニーナは深呼吸をする。
魔法を発動させる際、魔法使いは独特な呼吸法を用い、精神を安定&集中させて魔力を高める。
ニーナは、魔法使いではない。
魔法使いが使う呼吸法も当然知らない。
だが、単なる深呼吸でも、行えば気持ちを制御するのに効果はあるのだ。
「おいおい、どうした?」
ただならぬ雰囲気を、感じたのだろう。
ダンは、怪訝な表情をする。
この状況から、女性の気持ちに鋭い男なら、当然相手の意図が分かる筈なのに……
エリンの時同様、ダンはとてつもなく『鈍感』であった。
首を傾げる、ダンの様子を見たエリンは……
ふと自分が、思いを告げた時の事を思い出した。
あの時も、エリンから強くアプローチしたのである。
ここは、女であるニーナから言わねば話が進まない。
「ニーナ、言って! 貴女の気持ちを」
「は、はいっ! 私……ダ、ダンさんが!」
ここまで言うと、ニーナは大きく息を吸い込んだ。
そして、一気に吐き出しながら言い放つ。
「ダンさん! 貴方が好きなんですっ! 大好きですっ!」
遂に自分の思いを告げたニーナは、気持ちが高ぶり、再び真っ赤になってしまったのであった。
向かう先は、この英雄亭の建物内でダンへの寝室として、あてがわれた部屋である。
ふたりとも、裸足であった。
靴で、足音を立てない為だ。
忍び足で……静かに歩く。
ダンは勿論、店主のモーリスも起こさないように、「そっとそっと」歩いていたのである。
先頭を歩くエリンは「にこにこ」して口笛でも吹きそうな雰囲気だ。
一方、エリンの後ろを歩くニーナはというと……
顔が強張り、全身がガチガチ。
無理やり身体を動かすという感じで動きも「ぎくしゃく」としており、まるで操り人形であった。
「ううう」
唸っているニーナの声を聞いて、エリンは振り向いて苦笑する。
「ニーナ、歩き方が変。それに、さっきから狼みたいに唸りっぱなし……これじゃあ、どっちが『飢えた狼』だか分からないよ」
苦笑いのエリンから指摘されても、ニーナの歩き方は変わらない。
「そ、そんな事言ったって、夜中に男性の部屋へ行くなんて……とても緊張しているんですもの」
生まれてから18年……
ニーナには、恋愛経験がなかった。
彼女にとって一番身近な男性は、双子の兄であったから。
大人しいニーナは、いつも優しくて守ってくれる兄を一心に慕っていた。
その兄が亡くなってから、初めて近しい男性だと感じたのがダンであったのだ。
そんなニーナに対して、既にひとつの恋を成就させたエリンは、『先輩』として大胆にふるまっていた。
更に、とんでもない衝撃発言が飛び出したのである。
「そっか、まあ緊張するのは仕方がないかも。ニーナはこれからダンにヨバイかけるんだものね」
「ヨバイ!?」
「そう、ヨバイ」
ヨバイ、ヨバイ、ヨバイ!!!
ニーナの頭の中に、エリンの言葉が木霊《こだま》のように反響した。
ヨバイとは……
夜中に、エッチを目的にして、他人の家へ忍び込む行為である。
一般的には、男性から女性への求婚行為の一環だという。
実はこのアイディール王国、いやこの世界でも、人間とエルフは共にそのような習慣があったのである。
しかしあくまで男性からの求愛行為であり、女性が行う事は無いとされていた。
それをエリンの口車に乗って、ニーナは実行に移そうとしている。
ニーナは、自分で自分が信じられない。
男性には及び腰、恋愛には消極的である筈なのに、こんな大胆な行動をするなんて! である。
「ひえっ、私って、何てふしだらな女?」
赤面するニーナへ、エリンは「しれっ」と言う。
「いいじゃん、さっきも言ったでしょ。恋は戦いなんだもの、勝ち取らなきゃ!」
「…………」
反論出来ず黙り込んだニーナへ、エリンは澄ました顔で問いかける。
「納得した?」
「ううう~、改めて分かった。私、エリンさんに口では絶対に敵わない」
「え~、口ではって、エリンは口だけの女じゃないよ、押しも強い」
「…………」
「何? その沈黙」
「……何でもありません」
そうこうしているうちに、エリンとニーナはダンの寝ている部屋の前に着いた。
エリンは相変わらず、にこにこしている。
「いよいよだね、ヨバイ」
「ヨ、ヨバイって、何度も言わないで下さいっ」
「だって、ヨバイはヨバイじゃない」
「…………」
「臆していたら後悔するよ、ニーナ。今から大胆に、すっごくエッチになった方が良い。そうじゃないと、恋は上手く行かない」
「…………」
その時であった。
ダンの寝ている部屋の扉が軋みながら、ゆっくりと開いたのである。
しかし、部屋の入り口には誰も立っていなかった。
これは……
「ありゃ~、ダン、起きてたみたい」
「え?」
「今、魔力を感じた。誰も開けないのに扉が開いたのはダンの魔法。多分起きていてエリンとニーナを待っている」
ダンが、起きている?
ふり絞ったニーナの勇気が、みるみるうちに萎《しぼ》んで行く。
「あう、じゃ、じゃあ! も、戻りましょうか?」
「何で? 丁度良いよ、ダンを起こす手間が省けたじゃん」
エリンはそう言い放つと、ニーナの手を掴んでぐいっと引っ張った。
「ああああっ」
小さな悲鳴をあげるニーナの手を、エリンはしっかり握って部屋の中へ入って行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エリンの予想通り、やはりダンは起きていた。
ベッドに腰かけて、ふたりが部屋へ入って来るのを待ち受けていたのである。
「ダン……さん!」
エリンに起きていると言われていたとはいえ、手を振るダンの姿を認めニーナは息を呑む。
「ふたり揃ってどうした? ニーナは朝早いんだろう?」
ニーナは風邪で休んだ同僚と違い、この英雄亭に住み込んで日々モーリスを手伝っている。
ダンに助けて貰ってからは、変な冒険者クランからつきまとわれる事もなくなった。
だから、モーリスが行く市場への仕入れにも同行しているのだ。
「は、はい……朝早く市場へ行きます」
「だったら、もう寝た方が良い。これから話していたら夜が明けちまうぞ」
ダンは、単純にニーナの身体の事を心配している。
慈愛の籠った眼差しだ。
しかしエリンの見るところ、それは妹を気にするような肉親の情に近いものだと感じたのである。
「ううう」
ダンに言われ、口ごもるニーナ。
見ていたエリンは、ニーナの代わりに告げてやる。
「ダン、ニーナは話したい事がある。大事な話なの、だからこんな時間に来たんだよ」
「エリンさん!」
驚く、ニーナ。
自分で告げられなかった意思を、エリンに代弁して貰った。
絶妙なアシストが、とてもありがたい。
エリンが、ニーナの恋を応援すると言ったのは、ここまで本気だったのだ。
にっこり笑う、エリンがひと言。
「ニーナ、た・た・か・い……だよ」
恋は戦い!
ニーナの脳裏に、エリンの言葉が甦った。
「う! は、はいっ!」
「ニーナ、深呼吸」
「はい!」
す~は~す~は~……
エリンに言われた通り、ニーナは深呼吸をする。
魔法を発動させる際、魔法使いは独特な呼吸法を用い、精神を安定&集中させて魔力を高める。
ニーナは、魔法使いではない。
魔法使いが使う呼吸法も当然知らない。
だが、単なる深呼吸でも、行えば気持ちを制御するのに効果はあるのだ。
「おいおい、どうした?」
ただならぬ雰囲気を、感じたのだろう。
ダンは、怪訝な表情をする。
この状況から、女性の気持ちに鋭い男なら、当然相手の意図が分かる筈なのに……
エリンの時同様、ダンはとてつもなく『鈍感』であった。
首を傾げる、ダンの様子を見たエリンは……
ふと自分が、思いを告げた時の事を思い出した。
あの時も、エリンから強くアプローチしたのである。
ここは、女であるニーナから言わねば話が進まない。
「ニーナ、言って! 貴女の気持ちを」
「は、はいっ! 私……ダ、ダンさんが!」
ここまで言うと、ニーナは大きく息を吸い込んだ。
そして、一気に吐き出しながら言い放つ。
「ダンさん! 貴方が好きなんですっ! 大好きですっ!」
遂に自分の思いを告げたニーナは、気持ちが高ぶり、再び真っ赤になってしまったのであった。
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