隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第97話「助けに行かなきゃ!」

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 英雄亭厨房……

 今日引き受けたダンの仕事は、食器の片付けと洗い物、調理補助である。
 そしてゴミ出しも。
 ヴィリヤ主従の席から引き揚げたダンは、途中の席から不要になった皿を回収すると、手際よくピカピカに洗って行く。
 元からあった分と合わせると、大変な量ではあったが……
 慣れているらしく、素晴らしいスピードで手際が良い。
 あっという間に、洗い物は終わった。

 次に調理補助。
 洗った皿を並べたり、泥の付いた野菜を洗ったりするくらいではあるが。

 最後は、ゴミ出し。
 このアイディール王国王都トライアンフでは、人間が食べ残した残飯は家畜の餌にする。
 連絡すると、『業者』が回収に来るのである。

 一連の作業は、これで終わりではない。
 汚れた皿が残飯と共に、また厨房へと運ばれて来るから。

 ダンが居ない時は、当たり前だが店主のモーリスが調理をする傍ら行う。
 なので、今日は助かる事この上ない。

「悪いな、ダン」

「こんなのお安い御用さ」

 ニーナの夫になった事もあって、モーリスはダンにより親しみを感じる。
 一旦、提案して断られてしまったが、ゆくゆくは「英雄亭を譲りたい」と思っている。
 と、その時。

「大変! 大変だよ~、ダ~ン!!!」

 血相を変えたエリンが厨房へ飛び込んで来たのである。

「どうした?」

「クランフレイムがぁ! チャーリー達が居なくなったって!」

「何!」

 ダンが叫んだ。
 モーリスも驚いて、調理の手を止める。
 丁度、ニーナも厨房へ戻って来た。

「お疲れ様です! また、オーダー入りましたよぉ」

 入って来たニーナに、エリンが飛びつく。
 感情が、相当高ぶっているようだ。

「ニーナぁ!」

「え? エリン姉、どうしたの?」

 驚いたニーナが尋ねると、エリンの目が潤んでいる。

「チャ、チャーリー達がぁ! 居なくなったぁ」

 クランフレイムに、何かがあったのだろう。
 それも、エリンの慌てぶりはただ事ではない。

「えええっ? ど、どうして?」

「迷宮で行方不明になったって!」

「え!?」

 エリンの言葉を聞いたニーナは、亡き兄の事が過る。
 抱き合うふたりの嫁を見て、ダンがゆっくりと言う。

「エリン、……落ち着いて詳しく話してみてくれ」

 同時にダンは、興奮したエリンへ、鎮静の魔法を掛けた。
 そしてクールダウンしたエリンに対して、改めて説明をするよう求めたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ……エリンは、先程冒険者クランから聞いた話を包み隠さず話した。

「人喰いの迷宮……それっておにぃが死んだ迷宮です」

 ニーナは、記憶が呼び覚まされているらしい。
 辛そうな顔をして、俯いてしまった。
 ダンも、ニーナの心中を察して、軽く息を吐く。

「そうだったな……」

 ニーナの兄が亡くなった迷宮……
 嫌な予感……
 エリンの胸には不安が、黒雲のように湧き起こる。

「じゃ、じゃあ、チャーリー達は!」

「う~ん、状況が分からないから、はっきりとは言えないが……良いとはいえない」

 ダンは、唇を噛み締める。
 傍らで、話を聞いていたモーリスも頷いている。

「うむ、人喰いの迷宮なら、確かに冒険者の間では噂になっているようだぞ。店でも良く聞く」

 こうなれば、やる事は決まっている。
 エリンは、きっぱりと言い放つ。

「ねぇ! ダン、助けに行こうよ! チャーリー達はエリンの仲間だ」

 僅かな時間の共有ではあったが、エリンはチャーリー達と絆を結んでいる。
 このまま、見捨てるわけにはいかなかった。

「私も、助けて貰いました」

 ニーナもエリンと同じ。
 質の悪い冒険者に拉致されそうになった時、真っ先に立ち上がってくれたのはクラン炎《フレイム》なのだから。
 恩人である彼等を、助けたいという気持ちが強くなっていた。

 嫁ふたりの、切ない眼差しを受けたダンも、全く同じ気持である。
 チャーリー達クラン炎は、大事な友であり仲間なのだ。

「……ん。とりあえず、もう少しはっきりした事実確認をしよう」

 事実確認?
 エリンが、もどかしそうに尋ねる。

「どうするの? エリンへ話してくれたクランに、もう一回聞く?」

「いや……チャーリーが受けた依頼なら、ギルドが一番状況を把握している筈だ。冒険者ギルドへ行く。ローランドさんか、クローディアさんに聞いて確認しよう」

 やはり、ダンはちゃんと考えている。
 エリンは嬉しいと同時に、気が急いて堪らない。
 ニーナも同じようである。

「そうだよね、ダン! 今すぐ、すぐに行こうよ!」
「ダンさん!」

 嫁ふたりの『お願い』に、ダンも頷く。

「ああ、あまり時間を置くと良くない。これからすぐに行こう。……モーリスさん、褒めて貰ったばかりで申し訳ないが……」

 ダンは、モーリスを気遣っていた。
 英雄亭は、相変わらず忙しい。
 ここで抜ければ、結構な負担をかけるのは目に見えていた。

 しかし、モーリスもエリン達と同意見。
 馴染み客であるクランフレイム——彼等は不器用だが、心優しい若者達である。
 まるで、若い頃の自分だ。
 どうか無事であって欲しいと、心の底から祈っている。

「ああ、すぐに行ってくれ! 俺からも頼む」

 ここで、ダンが指示を出す。
 ニーナの気持ちを、慮った上での決断だ。

「了解! じゃあ、エリン、すぐ出るぞ。それとニーナ、申し訳ないがお前は冒険者じゃない。確認が終わったら英雄亭へ戻るから……悪いが仕事をしながら待っていてくれ」

 ニーナは、聡明な少女である。
 兄が亡くなった時もそうであったが、自ら助けに赴きたい気持ちはある。
 しかし、体術も魔法も使えない自分が同行しても、足手まといになる事は明らかであった。
 ダンの家族になった今、自分が貢献出来る事……
 それは、はっきりしている。

「わ、分かりました!」

 ニーナは「にっこり」笑うと、大きく頷いていたのであった。
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