隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

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第109話「迷宮初心者③」

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 ヴィリヤは、まとった法衣ローブの内に、薄手の革鎧を着ていた。
 その腰にさした、ショートソードが見える。
 
『ダン、私は魔法だけ修行して来たわけではありません。お祖父様から剣も習いました』

 ヴィリヤによれば、刀身はミスリル製だという。
 鞘と柄に凝った彫刻が施されており、ひと目で高級品だと分かる。

 ダンは頷くと、ヴィリヤの法衣を掴み、「そっ」と戻してやる。

『分かった。だが、迷宮では敵に剣を見せるな。それは最後の武器だ。接近戦が全く出来ない魔法使いだと油断させておいて、不意を衝く……魔力が尽きた時とか、お前にとって最後の切り札になる』

『私の……最後の切り札……』

 ヴィリヤは、噛み締めるように言った。
 やはりダンは、大切な事を教えてくれると思う。

 ダンは微笑むと、エリンとヴィリヤ双方を見る。

『ああ、改めて言うぞ。まずエリンだが……実戦経験は充分、更に冒険者スキルを含めた知識を得た方が良い』

『了解!』

 エリンが大きく頷いた。
 ダンには地上に出てから、多くの事を学ばせて貰っている。
 この迷宮でも同様だろう。

 次がヴィリヤだ。
 ダンは優しく微笑みながら言う。
 
『ヴィリヤは魔法知識は充分だが、それ以外の知識は勿論、戦闘を始めとして実務経験を積む事が必要だ』

『了解! その通りね』

 いつものヴィリヤなら、正論でも絶対に否定する所だ。
 しかし、大好きなダンの指摘なら素直に受け入れられる。

 人間誰しも、自分の欠点や至らなさを指摘されれば、普通は嫌がる。
 だがヴィリヤは、自分の長所も短所もダンに知って欲しい。
 心の底からそう思っていた。

 ここでダンは、魔法属性の話をする。
 いわゆる、地・水・風・火の各精霊が存在する四大元素だ。

『お互いの属性だが……俺は火、風、そして地の魔法を使える。ヴィリヤは地の魔法の事以外は把握しているだろう』

 ダンの話を聞き、ヴィリヤが驚く。
 念話もそうであったが、重要度はこちらの方が上だ。
 
『え? 地の魔法? 私、聞いていないわ』

『ああ、悪いな。こっちも少し前から使えるようになった』

『もう! 一応私は貴方の管理者です。念話の件といい、ちゃんと報告して下さい』

『ああ、すまん』

 ヴィリヤの叱責に対し、ダンは素直に謝った。
 ……ダンが召喚されたばかりの日々を思い出し、ヴィリヤはとても嬉しくなる。

『宜しい! でも、凄いわ! もう少しで全属性魔法使用者オールラウンダーじゃない!』

 全属性魔法使用者オールラウンダーとは、文字通り、全属性の魔法を使いこなせる術者の事を言う。
 ダンは苦笑し、補足説明をする。

『ははは、万が一、お前の持つ水の魔法も加わればな……というわけで、ヴィリヤは水の魔法、エリンは地の魔法を使う上級術者だから、お互いに認識するように』

『了解!』
『りょ、了解!』

 上級術者……
 エリンとヴィリヤは改めて顔を見合わせる。
 ダンが言い切るのだから、お互いに相当の実力者だと思ったようだ。

『戦いの心構えに関しても言っておく。迷宮とはいわば社会の縮図だ。外の世界に比べれば極端に狭いこの地下10層に、殆どの事象がぎゅっと凝縮されているんだ』

『外の世界全てが?』
『ぎゅっと凝縮……』

『ああ、完全ではないが……外の世界で貧富、身分による区別や格差があるように、弱肉強食の理《ことわり》や、強さの差が当たり前にある。傾向としては層が深くなるに比例して敵も強くなり、得る物も高価且つレアになる。いわゆるハイリスク、ハイリターンだ』

『成る程!』
『知識だけでなら、理解しているわ』

 ……打合せはもう、充分になされた。
 ダンは、そろそろ頃合いだと考えたらしい。

『良し、ならば講義は終了、そろそろ出発だ。ところでふたりとも、打合せをしながら、冒険者達を見ていただろう?』

 ダンの質問に対し、ふたりは答える。
 どうやら、ダンの意図が良く分かったようだ。

『うん、見てた! みんな、気合が入ってる、ううん、入り過ぎてる』
『ええ、私もそう思います』

『じゃあ、俺達はどうだ?』

『うん! さっきより、全然落ち着いてる!』
『エリンさんの言う通りです』

『そうか! じゃあ、行くぞ』

 ダンが更に促し、3人は立ち上がった。
 いよいよ迷宮探索が始まるのだ。

 微笑むダンが、手をあげ、拳を突き出す。

『あくまで軽くだぞ。拳を、こつんとぶつけるんだ』

 一体何をするのだろう?
 エリンも、ヴィリヤも不思議そうな顔をする。

『旦那様、これどういう意味?』
『ええ、教えて下さい』

『ああ、クランの結団式みたいなものだ』

 こつん、こつん、こつん。

 3人の拳は「そっ」と触れ合った。
 温かい体温を感じ、ダンが微笑みかけ、エリンとヴィリヤも微笑みかける。
 
 こうして……
 不器用ながらも、お互いに理解しようと努力しつつ、即席のクランは発進したのであった。
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