隠れ勇者と押しかけエルフ

東導 号

文字の大きさ
134 / 181

第134話「奴らへ罠を仕掛けろ!」

しおりを挟む
 ダンとオーガとの戦いが終わった。
 開始から、時間にして僅か10分少しと言ったところだろうか……
 もうあっという間の出来事であった。

 周囲には累々と、オーガの死骸が散らばっている。
 今、立っているのはダンだけだ。

『旦那様!』
『ダン!』

 危険が去ったと分かり、離れて見守っていたエリンとヴィリヤが駆け寄った。
 「まず、大丈夫だ」とは思っていた。
 ダンの勝利は、絶対に揺るがないと……
 「悪魔王アスモデウスを物差しにしろ」と、ダンが言った時点で。

 エリンもヴィリヤも確信していた。
 怖ろしいアスモデウスに比べれば、単なるオーガなどは、いかに上位種でもダンの敵ではないという事を。

 そして何故、ダンが単身で戦いを挑んだのか?
 彼の意図にも、何となく気が付いていたのだ。

 ダンの意図、それは……
 例の『謎めいた存在』に対してのアピールである。

 そもそもダン達の今回のミッションは、行方不明者の救助と迷宮調査である。

 謎めいた存在は「この迷宮の謎を解け」と告げた。
 つまり冒険者失踪事件の、『鍵』を握っている可能性がある。
 と、なれば……
 まずは、この謎めいた存在の手がかりを掴む事が、ミッションクリアへの早道と言えるのだ。 

 そして……
 ダンには思い当たる事がある。
 相手の正体に関して。

 「ピン!」と来たのは、ヴィリヤの祖父ヴェルネリ・アスピヴァーラ以外に、『ソウェル』が存在するという話からだ。
 そもそもソウェルとは、エルフことリョースアールヴ族の長たる呼称……の筈である。
 ヴィリヤに聞けば、ソウェルの役職は、祖父のヴェルネリがもう千年は務めているという。

 だとすれば、奴らの言う『ソウェル』とは一体何者なのだろう?
 そして奴等は、ヴィリヤの家アスピヴァーラが卑しいと貶めた。
 つまりアスピヴァーラ家を憎んでおり、何らかの恨みがあると推定される。

 以上の事を踏まえて、導き出した結論なのだが……
 まだ、あくまでも、ダンの推測に過ぎない。
 
 確証を掴む為に、更に手を打たねばならない。
 だが、今のまま状態では難しい。

 何故ならば、この『人喰いの迷宮』は相手のホームグラウンドだからだ。
 現在ダン達は、一挙手一投足を見られた上、相手の掌で遊ばれている状態だ。
 この不利な状況を打破し、優位に立たなければ確証を掴む手はない。

 その第一の仕掛けが、クラン戦闘における圧倒的な勝利である。
 更に第二の仕掛けが……
 たった今、ダンが単独で成し得た圧倒的な勝利なのだ。

 こうなると、ただでさえダン達を気にしている相手は……
 更に注目する事となる。
 ダンを始めとして、3人の底知れぬ能力に対し、もっともっと興味を持つだろう。
 そして、まだまだ実力を隠しているのに、すぐ気付く筈だ。

 相手がどうしても、ダン達の正体を知りたくなった時。
 真の力を知りたくなった時……

 手段を問わず、なりふり構わずとなった時……
 大きな隙が生じる。
 その時こそ、ダン達は真の攻勢に出るのだ。

 既にダンの頭の中で……
 最後の仕掛けに関しては、組み上がっている。

 後は……実行するだけ……であった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 そんなこんなで、ダン達は地下8階をクリアし、地下9階へ降りた……

 この階層でも、出現するのはやはり、様々な魔物の上位種である。
 しかしダン達にとってみれば、もはや脅威となる相手ではない。
 ちなみに、再びダンの単独戦闘などはなく、全員で『普通』に倒して行く。

 この階もダン達の歩みを妨げる者は居なかった。
 そして……いよいよ、ダン達は最下層地下10階へ到達した。
 
 この地下10階はいくつかの小広間、そして通称『王の間』と呼ばれる、大広間とで構成されていた。
 伝説では、アイディール王国の開祖バートクリード・アイディールが迷宮全階層をクリアした際、クランの仲間と共に、『王の間』で祝杯をあげたという。

 その為、この王の間まで踏破し、『祝杯』をあげる事が、冒険者達の間ではステイタスとなっていたのだ。
 
 そんな時、突如、異変は起こった。

 地下10階を探索していた、ダン達の姿が煙のように消えたのだ。
 何の前振りもなく……歩いていて、いきなり消え失せてしまったのである。
 ダン達に先行していた、火蜥蜴《サラマンダー》とケルベロスも同様に消えてしまった。

 最終ゴール? 『王の間』の手前という場所で……

 最下層、地下10階まで来る事の出来る、実力を持つクランはそう居ない。
 現在は、ダン達のみである。

 こうなると……
 魔物共の咆哮や唸り声以外に、人間とアールヴの気配は一切なくなった。
 「しん」とした静寂が辺りを満たす。

 暗闇の中、悪戯に時だけが流れたのである………………

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ……ダン達が姿を消してから、あっという間に1時間が経った……
 何も起こらない。
 当然、ダン達3人も消えたままである。

 ここは……迷宮の最奥、『王の間』
 広大な『部屋』一杯に満ちた魔力に、大きな揺らぎが生じていた。
 これは、何かが現れる予兆だ。

 そして案の定……まるで影のような、頼りない、ゆらゆらした気配が立ち上ったのである。
 先ほど、ダン達の前に現れた……  
 ニーナの兄が死んだと言われる部屋に現れたのと同じ、正体不明の謎めいた存在……『影』であった。

「あの男め! どこへ消えた! 一体、どうしたというのだ? もう『目前』なのだぞ」

 相変わらず壮年らしい男の声で喋る『影』はいつになく、いらついている様子である。

「ふむ……奴の魔力波オーラを感じぬ。いいかげん探索に飽き、女を連れて、転移魔法か何かで地上へ戻ったのか? まさか……な」

 『影』は大きなため息をつくと、また姿を消してしまったのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...