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第17話「いくら仲間とはいえ、まだ完全に気心はしれていないしな」

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俺の手甲のアッパーカットをもろに喰らったゴブリンは、
顎を砕かれ、あっさりと吹っ飛び、即死した。

こいつが、出現した5体最後のゴブリンだった。

常人には怖ろしい敵だが、ゴブリンくらいなら、とりあえずこんなものか。

うん……全然余裕だな。

良い準備運動になった。
シーニュからリリースされ、しばらく戦いから離れていたから、
『現場』の感覚が甦って来るぞ。

でもバスチアンさんの見せた攻撃、防御、体裁たいさばきの域には、
まだまだだ。

更なる修行が必要。

但し、16歳の若い俺はまだまだ発展途上。
これから、もっともっと鍛えないといかん。

とりあえず、バスチアンさんという良い手本と目標が出来た。
自分を甘やかさず、切磋琢磨し、頑張ろう。

そう思いながら、スキル『勘働き』を発動……とりあえず近くに敵は居ないと把握。

油断は大敵だが、休息は必要。

「ふう」と、息を吐き、俺は振り返る。

振り返ると予想通り、バスチアンさんは筋骨隆々を強調するよう腕組みをして、
にやにやしながら立っていた。

「おう! 新人1号。そこそこやるじゃねえかよ」

むう、そこそこね……
ランクAの猛者なら、オークやゴブリンなんか瞬殺レベルだろうからなあ。

まあ無理もない。
今の俺の動きも完全に見切っているだろうし。
さすがに余裕のよっちゃん。

という事で、またも俺はひたすら低姿勢。
奢らず、誇らず、威張らず、控えめに行こう。

「はあ、ぼちぼちです」

と返せば、バスチアンさんは俺をじろじろ。
ねめつけるように見た。
そして面白そうに笑う。

「くくく、ぼちぼちだと? 笑わせるな!」

「はあ……」

曖昧に返事をすると、バスチアンさんは声を張り上げる。

「新人1号! てめえ、ひよっこの癖に息も全然切れてねえ。余力ありありだ。久々に鍛えがいがありそうな新人だぜ。楽しみだよ」

「ありがとうございまっす」

やはり、バスチアンさんは最初に会った時の無口さ、ぶっきらぼうさが消えつつあり、俺へ対しては遥かに饒舌じょうぜつとなっている。

さすがに笑顔こそ見せないが、好意的な波動もわずかながら感じた。

「よし! オーク、ゴブリンと邪魔が入ったが、進むぞ」

と、バスチアンさんは言い、

「おい! 新人1号! 俺のやや後方に立って、ついて来いや! セレス出発だ! さっさとロッジへ入る!」

進行再開を宣言したバスチアンさんは、止まっている馬車の御者台に居るセレスさんへ合図。

「了解!」

対してセレスさんもOKの返事を戻した。
ぴしりと鞭を鳴らす。

こうして一行はロッジを目指し……

それから幸いに敵は出現せず、全員が無事に『ロッジ』へ到着したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

訓練所のロッジは石造りの頑丈なもの。
木造の簡素な柵とともに、魔物が入ってこれないよう、破邪の魔法障壁を張り巡らせてある。

そばには厩舎があり、馬車の馬はハーネスを外し、そこへ入れる。

念の為、破邪の魔法障壁は魔物のみ有効なので、
狼、熊など普通の獣には効かない。

3棟あり、1室に10名ほど宿泊可能だという。
床は板の間。
大きなテーブルが置かれ、厨房、トイレにシャワーがついている。

そう、セレスさんが説明してくれた。

ちなみに普通の宿のようにベッドはなく、
各自が持参した折り畳みの魔導寝袋を使用する。
この寝袋は、折り畳み時は30㎝四方の正方形大になるので持ち運びに便利だ。

まあ、設備はなかなかだし、ベッドがなくて、板の間に寝袋でも、
野宿よりは、はるかにマシだ。

まあ、ロッジ連泊では評価が低くなるから、俺は野宿というか、野外キャンプも予定している。
同期のふたりはどうするか知らんが。
まあ、後で聞いてみよう。

さっきのふたりのヘタレ具合では、びびってロッジに引きこもる可能性も大だ。
そうなったら、付き合いきれん。
いくら協調性が必要でも、それでは訓練にならんから。

そのロッジの振り分けだが、男女別になりそうだ。

バスチアンさん、フェルナンさん、俺。
セレスさん、シャルロットさんに分かれるのだろう。

いくら仲間とはいえ、まだ完全に気心はしれていないしな。

野外や緊急時には、さすがにそうは言ってられないので雑魚寝となるらしいが。

ここで俺達新人へ、バスチアンさん、セレスさんから、仕事分担の指示が出る。

俺は男子棟への荷物運び。
同じくシャルロットさんは女子棟への荷物運び。

フェルナンさんは馬を馬車から外し、厩舎へ入れ、世話をする事に。
彼が馬の世話を命じられたのは、バランスありきだろう。
さっき俺がゴブリンを倒したから、こっちの仕事はフェルナンさんへという事。

俺同様、フェルナンさんも騎士見習いだけあって馬の扱いには慣れているが、
世話はまた別。

貴族家では、馬の世話は基本は使用人にやらせるから、
乗馬はやっても、馬へ飼い葉、水をやったり、ブラシをかけたりする事を、
貴族子弟は直接やらない。

まあ、ウチは貧乏騎士爵家なので、俺はやっていたけど。

案の定、フェルナンさん、不満&面倒そうな顔をしていた。
でも働きぶりは勿論、こういう態度もチェックされるから要注意だと思うよ。

こういった時にバリバリ気持ち良く働いた方が、
評価が高くなるのに勿体ないとも思う。

一方、俺とシャルロットさんは、馬車から食料などの必需品が入った箱を下ろし、
うんしょうんしょと運んで行ったのである。
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