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第70話「ローラン様! 見ていてください! めげずにガンガン行きますよお!」

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俺は、何回も何回も深呼吸し、『水弾』の魔法杖を握りしめた。

ローラン様の指示を改めて思い出す。
少し前に言われたばかりだから、はっきりと憶えている。

再び、軽く息を吐く。

心の中で、ローラン様の言葉がリフレインする。

「うむ、察しが良いな、エルヴェ君。まずは魔法杖で、あそこの岩を的にして、水弾を撃ってみてくれ。この魔法杖には、水弾が20発分、付呪エンチャントされているから」

「但し、やみくもに水弾を撃つのではない。ゆっくりで構わないから、じっくりと狙い、放たれる水弾を念入りに観察するんだ」

よし!
ゆっくりで構わないから、じっくりと狙う。
そして放たれる水弾を念入りに観察する。

そう繰り返し、魔法杖を構え、念じる。

視線の先には、的となる大岩。

ターゲット、確認よし。
ロックオン!

発射準備OK!

「水弾!」

魔法杖が作動し、

びしゅっ!

と、高圧化した水の塊が放たれた。

ど、ごばっ!

独特の音がし、大岩のど真ん中に、水の塊が命中した。

よしよしっ!

どんどん行こう!

「水弾!」

びしゅっ!

ど、ごばっ!

「水弾!」

びしゅっ!

ど、ごばっ!

おお、2発とも命中した。

これで、3発連続命中か!

じっくりと魔法杖を構え、狙いを定めた俺は、
まるで王国軍狙撃手の如く、機械的に水弾を撃ち続ける。

同じか前から80発以上で、更に20発超え、結局、100発以上撃った。

ときたま気分を変える為に、連射、アクロバティックな撃ち方も試したので、
全てが命中とはいかなかった。

だが、命中率は9割を楽に超えた。

そして俺の際立った動体視力は、放たれた水弾の軌道も追う事が出来て、
目を皿のようにして、命中までしっかりと見届けた。

よし! 
ばっちりだ!
発動から命中まで、イメージも心に刻み込んだぞ。

俺が手ごたえを感じたのを、察したのかもしれない。

「うむ! エルヴェ君。それぐらいで良いだろう。魔法杖から、こん棒へ切り替えてくれ」

頷き小さくガッツポーズする俺へ、ローラン様から指示が飛んだのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

さあ、ここからが本番だ。
愛用のこん棒を魔法杖の代わりにして、風弾に続き、水弾を発動させる。

散々、水弾の魔法杖を使ったから、イメージは出来ていた。

恥ずかしいが、練習同様、またも必殺技チックに声を出す事にする。

昨日、風弾発動が成功したから、ゲン担ぎかもしれないが、発動が叶う事が最優先。
なりふり構わず結果よしで行く事にしたのだ。

それに加え、ここは衆人環視とはほど遠い場所、原野に毛が生えたような訓練場。
ギャラリーと言えば、ローラン様しか居ないし。

近くに居るのも、部外者は居らず、身内と言うべき、先輩と同期のみ。
なので恰好、体裁など気にしてはいられない。
見栄など張る必要はみじんもない。

よしっと、気合を入れ、必殺技の如く叫ぶ。

「水弾!」

すると、情けないレベルで、ちょろっと、こん棒の先から水が垂れた。

数粒の水滴となり、ぽとん、ぽとん、ぽとんと足元へ落ちる。

うっわ!

やったああ!!

い、一応、成功なのか!?

で、でも!

ちょろちょろって、水滴がちょびっとかよ……

風弾デビューの時より、全然ひどい。

なっさけね~。

と思ったが、またも昨日言われたローラン様の檄を思い出す。

「人間というのは、ひとつの目標を達成すると、すぐ欲が出るものだ。とりあえず、いきなり無詠唱で、風弾を撃てた事を素直に喜びなさい」

「千里の道も一歩よりだ。これから、更に上を上を目指せば良い。魔法の威力だけでなく、使える魔法の範疇はんちゅうもどんどん増える」

ローラン様から発された戒めの言葉がリフレインして心に響き、
俺は大いに反省した。

そうだ。

贅沢言うな!

風弾に加え、水弾を撃てて、複数属性魔法使用者マルチプルというだけでも、
万々歳じゃないか。

欲を捨て、素直に喜び、千里の道も一歩よりを肝にめいじ、
これから、更に上を上を目指せば良いんだ。

「ローラン様! 見ていてください! エルヴェは、めげずにガンガン行きますよお!」

高らかに宣言した俺は、ひたすら「水弾!」「水弾!」「水弾!」と、
唱えつつ、水弾の射撃訓練に励んだ。

途中、体内魔力が枯渇し、栄養ドリンクもどき、魔導ポーションの力を借りつつ、
訓練を続行。

最初は、ちょろちょろとしか出なかった水弾も、徐々に威力を増し……

100発、200発、300発、400発……

トータル500発超えをする頃には、威力も射程距離も制御も増した。

終いには、

どしゅっ!!!

という発射音とともに放たれた水弾は、しゅ~っと飛行音をたて、
標的とした大岩のど真ん中へ命中。

どっごおおおおんん

という大轟音だいごうおんとともに、粉々に破砕していたのである。
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