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第69話「昨日の『奇跡』で、俺は前向きだった」

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俺が風弾を習得した余韻からか、
訓練が終了し、ロッジへ戻っても、明るい雰囲気は変わらなかった。

ひと休みして、ミーティングが大まかにさくさくっと行われ、
明日の予定も決まった。

時間配分も指導役も訓練メニューも、今日と全く同じ進行スケジュールのようだ。

俺、明日はどのような魔法を、ローラン様から教えて貰えるのだろう。
本当に楽しみだ。

ちなみに今日は俺以外も、皆、訓練は順調だった様子である。

……という事で、シャルロットさんは、にっこにこ。

ぴたっと俺へ、寄り添って来る。

「ねえ♡ エル君、聞いて、聞いて♡ エル君の風弾習得で盛り上がりすぎて、さっき言えなかったけどお、私、セレスさんから、治癒士の素質もあるって言われちゃったあ♡」 

「おお、治癒士か! そりゃ凄いや」

「でしょ?」

「ああ、火と風の魔法の複数属性魔法使用マルチプルに加えて、回復魔法も使えそうなんだね」

「うん! 回復魔法を習得したらあ、エル君を思う存分、癒してあげるねえ♡ うふふふふ♡」

愛する彼女の才能が素晴らしいのは良き事だ。

ここで俺はべたで青臭い事を言ってしまう。

「いや、俺、もう既にシャルロットにはいやされてるよ」

「え? 私にもう癒されてるって?」

「ああ、シャルロット。お前の美しく素敵な笑顔と可愛い天使のような声にね」

うお!
言った瞬間、しまった!と思った。

俺のキャラに絶対に合わない気障きざなセリフだから。

しかし、シャルロットさんは、凄く感激したらしく、俺にべたべた密着。

「うふふふふ♡ 嬉しいよお♡ エル君♡ エル君♡ だいしゅきい♡」

ハートマーク出しまくり、そんな感じでイチャイチャ仲良くしていたら、

「うおっほん! ここには俺も居る事をお忘れなく!」

わざとらしい咳払いと注意で、フェルナンさんから、教育的指導を受けてしまった。

そう、ここは別棟ロッジの厨房である。

ミーティング終了後、いつものように、俺たち新人3人で、
夕食の準備をしているのだ。

俺にひっつくシャルロットさんを見て、フェルナンさんは言う。

「くっそ! リア充め! 俺だって! 彼女とそうなるよう、頑張るぞ!」

おお、フェルナンさん、負けじとばかりに吠える。
全くめげていない。

「エルヴェ君、聞いてくれ! 君の風弾習得には到底及ばないが、俺もバスチアンさんとタッグを組んで、ゴブリン、オーガを蹴散らしまくったぜ!」

わお!
やったじゃないですか、フェルナンさん。

魔物恐怖症がだいぶ改善されたか!

そしてフェルナンさん、こうも言う。

「バスチアンさんって、見かけは怒ったオーガみたいだけど、結構良い人なんだよね」

「あの、フェルナンさん、見かけは怒ったオーガみたいだけど、とか、結構は、ナシで言った方が良いっすよ」

「あはは、そうか! バスチアンさんって、良い人なんだよね、か!」

「そうそう、その方が後々の為っす」

そんな俺とフェルナンさんのやりとりを聞き、俺にひっついたシャルロットさんは、

「あははははは」

と、大きな声で笑ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌朝……ぐっすりと眠った俺とフェルナンさんだが、やはりというか、
バスチアンさんに叩き起こされ、午前3時に起床。

昨日と全く同じ予定が繰り返され、俺とフェルナンさんは、バスチアンさんから剣技でガンガン鍛えられた。

この朝訓練が、地味に効き、剣技の向上につながっていると実感する。

その後は朝食をはさみ、午前は準備運動、ストレッチを経て、持久走、ほふく前進、
パルクール訓練などの基礎訓練を行った。

午後は、やはり新人個別に訓練を行う。

という事で、俺はローラン様と、剣技の実戦訓練。

結果はと言えば、昨日よりは少しは進歩したっていう感じ。

若干打ち込まれなくなり、逆に数本ほど打ち込んだ数が増えた。

まあ進歩したから良しとする。

その後は魔法の訓練。

ローラン様は水属性攻撃魔法を付呪エンチャントした魔法杖を持参していた。

「あの、ローラン様、まずはこの魔法杖を使っての射撃訓練ですか?」

「うむ、察しが良いな、エルヴェ君。まずは魔法杖で、あそこの岩を的にして、水弾を撃ってみてくれ。この魔法杖には、水弾が20発分、付呪エンチャントされているから」

「はい」

補足しよう。
水弾とは、高圧化した水の塊を放つ攻撃魔法だ。
風弾同様、延焼するような2次被害がなく、攻撃後の後始末も楽なので重宝される攻撃魔法である。

「但し、やみくもに水弾を撃つのではない。ゆっくりで構わないから、じっくりと狙い、放たれる水弾を念入りに観察するんだ」

「了解しました」

俺はローラン様から、『水弾』の魔法杖を受け取った。

びゅ! びゅ!と素振りしてみた。
発動を念じていないので、暴発などはしない。

成る程。
昨日とこのやりとりで、ローラン様が俺に行う、
魔法の『トレーニング方法』が見えて来た。

まずは攻撃魔法を放つ魔法杖で射撃訓練をさせ、攻撃魔法自体を、
じっくり観察して貰う。

そして観察によりしっかりとイメージし、『本番』はこん棒を使って、
発動訓練をする。

昨日の『奇跡』で、俺は前向きだった。

風属性の次は水属性か……
剣技と魔法を組み合わせれば、俺の強さは、ますます際立ったものとなる。

接近戦、遠距離戦、どんな戦いでも自由自在だ。

俺は何回も何回も深呼吸し、『水弾』の魔法杖を握りしめたのである。
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