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第92話「愛するふたりの意思だけでは、どうにもならない場合も多い」

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翌朝3日目……

遂に来たかと感慨深い。

いよいよ来たのだ。
俺たち新人3人の運命が、人生が決まると言っても過言ではない、
クラン、グランシャリオ本契約の結果が出る日。

多分、研修が開始してから昨日まで……
ローラン様たちは、なんやかんやと検討を重ね、
採用するか否かの答えを出したのだろう。

例の事件で、心配して来てくれたバスチアンさんとセレスさんは、
やはりというか、評価に問題はないと言ったくらいで、
合否に関しては全く教えてくれなかった。

実際、聞きにくいという雰囲気もあったし。

俺、シャルロット、フェルナンさんはホテルのレストランで朝食を摂り、
敢えて合否の話題を避け、とりとめのない話をした。

昨日起こった事件に関しても話す。

バスチアンさん、セレスさんが来た時、
フェルナンさんはまだホテルへ戻っていなかったから。

俺とシャルロットの事件話を聞いたフェルナンさんは苦笑。

しょうもない馬鹿どもだなあ、と呆れていた。

さてさて!

で、あれば気になったのは、そのフェルナンさんの件だ。

そう、伯爵令嬢彼女さんとの婚約、結婚話である。

現状では厳しいだろうと思うが、果たして……上手く行ったのだろうか?

正直、こちらはこちらで聞きにくい。

シャルロットが「エル君が聞いて」と目くばせして来る。

仕方がない。

言葉を選びつつ、フェルナンさんへ尋ねてみる事にした。

「フェルナンさん、あの、どうでした? 伯爵令嬢彼女さんの件、俺たち、凄く気になっちゃって……」

恐る恐る聞いてみると、

「ああ、ありがとう、まあ、ほんの少しだけ、前進かな」

と言う。

「ほんの少しだけ……前進ですか? そこを詳しく」

「うん、詳しくか、了解。研修後、ローラン様とバスチアンさんから、フェルナン君は見込みはあるよ。剣技の腕も、相当上がったねと評価された、そう彼女へ伝えたら、とても喜んで貰えたんだ」

「おお! それは良かったですね」

「良かったね、フェルナンさん」

俺とシャルロットは顔を見合わせ、我が事のように祝福のフィストバンプ。
こつんと、軽く拳をつき合わせた。

「ああ、お父上にも、彼女から、しっかり伝えて貰えるそうだ。でもまずい状況でもある」

フェルナンさんの顔が曇る。

「え? まずい状況ですか?」

「うん、久しぶりに会えたのに、彼女に元気がないので、心配して聞いてみた」

「え? 元気がない? 彼女さんに何かあったのですか?」

「ああ、近いうちに彼女、侯爵家次期当主と顔合わせするらしいんだ」

「えええ!? 侯爵家次期当主と顔合わせって……もしかして?」

「ああ、とうとう見合いをするらしい」

フェルナンさんは力なく言い、「はあ」と大きくため息をついたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

朝食後……

落ち込むフェルナンさんと別れて、俺はシャルロットを連れ、自分の部屋へ戻った。

部屋でふたりきりとなったが、さすがにイチャイチャする気にはなれない。

元気がないフェルナンさんの気持ちを考えると、何とか力になりたいと思う。

それはシャルロットも同じようである。

「ねえ、ねえ、エル君。これから本契約の件があるから、まずはそっちを最優先だけど、どうにかしてあげたいよね」

「ああ、冒険者見習いの俺たちが何かを出来るなんておこがましいし、しょせんは自己満足かもしれないけど、やれる事があれば協力してあげたいよ」

フェルナンさんからは、あの後、いろいろ状況を聞いた。

使用人が退出し、ふたりきりとなった時、
伯爵令嬢彼女さんは、フェルナンさんしか、結婚相手として考えられないと、
きっぱりと意思表明したらしい。

俺は、彼女さんがそう伝えた気持ちが分かる気がした。

……研修前のフェルナンさんは、優しい性格なのは取り柄だが、
騎士見習いなのに、魔物や肉食獣相手に臆する超が付くヘタレだった。

しかし、フェルナンさんは、剣技、格闘技の上達とともに、
その致命的な弱点を克服した事実を、自信をもって、彼女さんへ告げた。

恋する女子は、相手の頼もしさには敏感なのだと、女子慣れした先輩も言っていた。

フェルナンさんの大変貌を、彼女さんもはっきり感じ、確信し……
「この人なら人生をともにしたい」と、決意したのだろう。

しかし、貴族の縁談は、親兄弟の思惑にそった政略結婚の趣きも強い。

愛するふたりの意思だけでは、どうにもならない場合も多い。

現状では、侯爵家次期当主と結婚した方が、彼女さんのお父上にとって、
メリットがありすぎる。

この状況を逆転させるには、どうしたら良いのだろう。

しばらく考えたが……難問だけに答えは出なかった。

そんなこんなで……ローラン様一行が来てもおかしくない時間となった。

シャルロットは自分の部屋へ戻り、
俺も頭を切り替え、ローラン様たちの来訪に備えたのである。
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