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第96話「祝福の言葉とともに、このセリフは大きくシャルロットの心に響いたようだ」

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本契約締結におけるローラン様の付帯説明が終わった。

しっかりと憶えているし、メモもとったから万全である。

ここでローラン様から命令が、

「エルヴェ、使いを頼む。シャルロットとフェルナンを、この部屋まで連れて来てくれるか」

少しだけ、びっくりした。

何がって、呼び方である。

今まで君付けだったのに、全員が呼び捨てだから。

本契約を締結したから……って、まだサインはしていないけど。

正式なメンバーとなって、俺たちはもう『お客さん』じゃないって事か。

その記念すべき最初の指示は、
同期ふたりをこの部屋に連れて来るようにという事。

果たして、「ローラン様の意図はいかなるものか?」と俺は考える。

まあ……多分だけど。

改めて全員集合して、今後の事について打合せし、情報を共有しようとか、
そんなシンプルなものだろう。

そんな事、誰でも思いつくし、分かりきっているって?

でも……
こういう事をいろいろ考え、想像するのが大切なんだと思う。

何も考えず、指示を受け、
動く意味も分からず、
言われた通りに、惰性で動くのは愚の骨頂。

呼びに行って来い。

はい、行って来ます。
はい、呼んで来ましたじゃあ、子供のお使いと全く同じである。

私見だが、これは冒険者云々うんぬんではない。

どのような仕事でも、言える事だ。

想像力をもって真摯にあたり、前もって先を読みつつ、
仕事をして行くのが大切だと思う。

下された指示の意味を想像し、仮定すれば、
何かあっても心構えがある上に、対処の方法も見えて来るからね。

時間にも余裕が出来るし……

そんな事をつらつら考えていたら、ローラン様が言う。

「エルヴェ君、今、君に行った付帯説明をふたりにも行いたいんだ。それとふたりに、ここへ来てもらえば、直接、本契約に合意した確認もとれるだろう?」

おお、成る程。
とても合理的だ。
それと、俺は再び、ローラン様から付帯説明を聞く事で『復習』にもなるって事か。

ローラン様の意図を聞き、仕事の内容をほぼ理解した俺は、最初が肝心。

フレンドリーにやる時はやる。
体育会系的にやる時はやる。

状況に応じて、臨機応変に、
メリハリをつけて、びしっとやろうと思い立った。

よし!
ここは体育会系で行こう!

すっくと立ち上がった俺は直立不動で、びしっと敬礼。
はきはきと言い放つ。

「はい! ローラン様! 了解致しました! エルヴェ・アルノーは、シャルロット・ブランシュ、フェルナン・バシュレ両名を迎えに行き、この部屋へ連れて参ります!」

そしてローラン様たちへ、軽く一礼し、

「失礼します!」

と自分の部屋を出て、シャルロットとフェルナンさんの部屋へ向かったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

俺は部屋を出てから、ホテルの廊下を歩き、まずシャルロットの部屋へ。

ちなみに、スキル勘働き――索敵で、シャルロットとフェルナンさんが、
それぞれ自分の部屋へ在室しているのは確認済みである。

まあ、ここで外出するなど、普通はありえないが。

シャルロットの部屋の前に到着した俺は、

とんとんとん!とノックをし、

「失礼! エルヴェ・アルノーだけど」

と言うと、がちゃとカギが開いて、すぐ扉が開いた。

ホテル内とはいえ、何かあったらと、
俺がシャルロットへ言い聞かせ、カギをかけるよう徹底している。

「エル君!」

開いた扉の向こうに立つシャルロットはにっこにこの上機嫌だ。
本契約を締結したから無理もない。

俺の次にローラン様一行が訪れたはずだから、
自分同様、俺へも正式メンバーの本契約が提示された事も当然知っているだろう。

「うふふ♡ 失礼! なんて、エル君ったら、他人行儀ね!」

「あはは、本契約が結ばれ、ローラン様たちから呼び捨てで呼ばれたから、メリハリつけようと思ってさ。……とりあえず、部屋へ入って構わないか?」

「うん! うん! 入って! 入って!」

という事で、俺は部屋へ入り、扉を閉めた瞬間。

シャルロットが、俺に飛びついて来た。

「本契約! おめでと! おめでと! エルくうん! だいしゅき! だいしゅき! だいしゅき!」

祝福の言葉を告げるシャルロットは、寂しがり状態の甘えん坊猫のように、
俺にしっかりと抱き着き、頬をすりすりしている。

女手一つで育ててくれた母を亡くしながら、
ひたすら前向きに生きようとするシャルロット。

健気な彼女が、とても愛おしい。

なので、俺もお返しに、お前を祝おう。

「シャルロット! お前も本契約締結、本当におめでとう! これからも公私ともども、ず~っと一緒に居られるな!」

これからも公私ともども、ず~っと一緒に居られる。

祝福の言葉とともに、俺が心を込めて発したセリフは、
大きくシャルロットの心に響いたようだ。

「うん!うん! いつでもどこでも必ず! 私とエル君は、ず~っとず~っと一緒だよお!」

対して、声を張り上げ、決意を述べるシャルロット。

そして背に回した彼女の手が、力を込め、ぎゅ!と俺をつかんだのである。
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