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第129話「奴らの殺気を込めた視線が、仮防護壁へ陣取る俺たちへ向けられる」

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午後5時過ぎ、村で早めの軽い夕食を摂り……
午後6時少し前、俺たちは正門前に陣取った。

ここで疑問を持つ方も居るかもしれない。
周辺をさまようゴブリンどもが、必ず村を襲うのか?という疑問だ。

それに関しては根拠がある。
といってもあくまで俺の予測に過ぎないが。

無抵抗に近い人間を次々に襲い、お手軽に得る『食料』とみなしたゴブリンどもは、
最終的に、活発化する夜に、わんさか居る人間の巣、
――『村』を襲うに違いないと考えたのだ。

ちなみに、俺の考えにはローラン様以下メンバーも同意してくれた。

さてさて!
既にゴブリン迎撃の準備は完了している。

丸太で仮防護壁を造り、その仮防護壁から100m先にかがり火をセッティング。

男女別、計ふたつのテントを張り、中に寝袋を入れておいた。

日が完全に落ちる前に、全員で、改めて正門周囲の状況を丹念に調べ、
確認し、把握しておく。

これは俺の判断で、メンバー全員へお願いした。

シュエット村を襲ったゴブリンどもは、人間を怖れない。
なので、岩陰や、木々の後ろ、茂みなど、遮蔽物に隠れたりせず、
いきなり襲って来る。

こちらとしては、ただ待っていても敵が来るから、
願ったりかなったりなのではあるが、事前に地形や遮蔽物を把握しておいた方が、
より有利となる。

ローラン様を含め、全員へ確認を取ったら、把握したとの事。

仮防護壁へ戻り、全員で陣取った。

ゴブリンどもの気配はまだない。

ローラン様の調査報告書によれば、
奴らの巣穴は、村から約4㎞以上離れた自然の洞窟。
さすがの勘働きスキルもそこまで離れると、索敵の有効範囲外だ。

まあ、索敵を有効範囲最大限2㎞強にして、のんびりと待とう。

ふと、巣穴に居るゴブリンどもは、俺たちが倒した、
帰って来ない仲間をどう思っているのだろうかと考えた。

帰還しない事をよくあるとか、そういうものだと思っているのか、
寂しいと思うのか、認識さえしないのか、……俺には分からない。

ゴブリンの行動を見ていると、本能に付随した感情はあるようだが、
共食いもするらしく、知性は全く感じられない。

知性がない相手に、無理やり知性をもって接しようとしても、
上手くいかない場合が多い。

やはりそういう相手には、情を交えず、淡々と倒すしかないのだ。

つらつら考えていたら、やがて……日が暮れた。

俺とフェルナンさんで、かがり火をたく。
このかがり火は、たきぎへ魔法薬を塗り、ひと晩は持つという優れモノだ。

そうこうしているうちに、いくつかの方向から、ゴブリンの気配が。

ちらっと、ローラン様、バスチアンさんを見ると、何やら頷いていた。

やはりというか、このふたりには俺と同様、索敵の能力を有しているようだ。

しかし、ふたりは何も言わない。

今回の案件は新人3人を中心にする。

そう言われているから、敵……ゴブリンの接近を告げるのは、俺の役目のようだ。

俺は軽く息を吐き、声を張り上げる。

先ほどの巡回の時と一緒だ。

「敵接近!! 距離2㎞強!! 数は不明!! 随時報告を入れます!!」

俺の声を聞き、グランシャリオのメンバーは戦闘態勢へ。

そして正門の向こう側、物見やぐらに陣取る村の自警団の男たちは、
迫り来る恐怖を感じてか、身体をびくびくっと震わせたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

随時報告を入れます!!という言葉通り、

「敵捕捉! ゴブリン! 約100体が接近中! ……1㎞! ……800m! ……500m!」

と、俺はゴブリンども接近の報告を続けた。

作戦は決まっている。

接近したら、俺は威圧のスキルを放ちまくり、
出来うる限りゴブリンを行動不能――無力化。

そこへ、全員で風の魔法を撃ちまくり、敵へ大ダメージを与え、
俺、フェルナンさん、ローラン様、バスチアンさんが突撃して掃討。

頃合いを見て、撤退。

その繰り返しで、数を減らして行く。

ただし、これは俺のA班、ローラン様のB班が合流している時の戦い方。

どちらかが仮眠を取っている時は、それぞれの班の突撃担当ふたりだけが、
物理攻撃を 担う。

今回は1時間戦ったら、俺たちA班単独の攻撃となるので、威圧のスキルをより多く放とうと思う。

B班は、威圧のスキルが使えるローラン様が俺と同じ役割を果たす事となる。

「ゴブリン約100体! 引き続き接近中! 300m! 100m! 100mを切りました! 威圧で足止めします!」

かがり火に照らされる、ゴブリンどもの姿が見えた!

奴らの殺気を込めた視線が、仮防護壁へ陣取る俺たちへ向けられる。

その瞬間!

ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!
ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!ぎん!

俺は負けじとばかりに、数倍の殺気を込めた視線で、ゴブリンどもを、
にらみ返していたのである。
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