俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第3章 異世界レジスタンス

第6話 崩壊

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ギルノート商会本店前にてギルノート商会会長ブルドは血が沸騰せんばかりに顔を赤くしていた。

「いい一体、なな何が、、あったんだ!!!」

怒りに震え呂律も上手く回らない。
傍に控える老執事も顔を青くし、嫌な汗をかいていた。もちろんこれから起こり得ることを想定してだ。

昨日の深夜、店の小間使いが運んできた報はブルドにとって死刑宣告のようなものであった。所持していた奴隷が全て逃亡してしまったのだから。推定総額は白金貨にして1千枚。ネス換算で10億ネス。計りしえない被害である。
警備に雇った男たちは全て無力化され、当夜のことはほとんど覚えておらず、1人の警備に至ってはここ数週間のことも記憶から削除されていた。
ただの悪夢であればどれほどよかったであろう。
ブルドは絶望の中にどっぷりと浸かっていた。

(一体どうしたらいい。資金も資産も無くなってしまった。)

唯一彼に残っていたのは店舗、祖父が建てた古い屋敷と従業員のみ。その従業員も解雇せねばならないだろう。

見栄が服を着て歩いていたような男は街の一等地の真ん中で情けなくへたり込んでいた。

(いや、まだだ。まだ儂には白虎族の娘がいた!!)

急に立ち上がろうとするも、重い体がそれを許さない。従業員の1人が急いで肩を貸そうとする。

「ええい。放せ!!1人で立てるわ!!馬鹿めが!!じい!!」

顔面蒼白となっていた老執事は急に呼ばれ慌てる。

「は、はい。何でございましょう。」

「腕利きを集めろ!口の堅い、やつだぞ!」

「はい。かしこまりました。」

老体に鞭を打って動き出す老執事。これから主人が行うであろう非道を想定できない訳がない。これを終えたら姿を消し、引退しよう。そう固く誓っていた。
その様子を一部始終群衆に紛れて見ていた子供がいたことを彼らは気付いていなかった。


======================================================

ホストラの領主館にある執務室では騎士団長が子爵に昨夜の火事についての報告を行っていた。

「被害は騎士団員が5名死亡、消火に当たった団員が10名軽い火傷を負っております。同じ理由で市民にも10名ほど軽い火傷。火災による混乱で転倒し骨折した市民も何名かいるようです。延焼はせず、詰め所が全焼した以外に家屋の被害はありません。また城門の防御能力にも影響はないものと思われます。原因は依然不明です。」

「で、金はかかるのか?」

「はっ。今回死亡した騎士はいずれも近隣の領主の近親者であります。無視はできないでしょう。」

「ちぃい。せっかく儲かったばかりだというのに。腹立たしい。」

子爵であるクリストが部下の死を軽視する発言をするも、騎士団長であるパウエルは眉一つ動かさない。報告を続ける。

「また、火災に乗じて奴隷が逃げ出したとギルノート商会から捜査依頼が入っております。」

「ふんっ。もうあそこもこれ以上絞れないだろう。適当にやらせろ。」

新人の騎士に訓練がてら任せろということである。

「はっ。昨夜の火事とは関係がないのですが、副団長のグレンが今朝、辞職を申し出ております。」

「グレン?ああ、あのハーフかっ。どうでもよいわ。後任を探しておけ。」

ハーフとは、貴族が使う侮辱用語である。ここでは、庶子であるグレンをクリストは意味していた。

「はい。最後になりますが、ラウ村に派遣した部下4人と盗賊の1人が未だ帰還しておりません。」

「それは緊急を要するのか?」

「いえ。ただ村人に返り討ちにあった可能性もあります。」

「そんな弱卒必要ないわ!脱走兵として扱え!盗賊も既に処刑しておる!1人でどうしようもないだろう!放っておけ!」

「かしこまりました。」

「用が済んだら出ていけ。儂は王都に向かう準備をせねばならぬ。」

翌週には徴収した税を持って登城しなければならないクリスト。上司である侯爵や公爵、権力者に渡すべきものが多く、多忙を極めていた。

「では失礼いたします。」

パウエルは部屋から出ていく。決して感情を表に出さず、確実に任務をこなす彼を部下は畏怖を込めてこう呼んでいた{傀儡}と。


======================================================

一台の馬車が草原を西に向けて走っている。
ホストラから出発したこの馬車は、草原に差し掛かり一気に速度を落とした。道が舗装されていない以上、どうしようもないことであるが馬車に乗っている肥えた男にはそれが我慢できない。

「おい!!どうなっている!!」

御者に八つ当たりを始めた男を、馬車を囲んでいた男たちがたしなめる。

「旦那ぁ。ここは道が悪すぎるぜ、どうしようもねぇ」

「ちぃ。私は忙しいんだ。さっさと進め!!」

「…誰なんだ?あの豚?」

「なんでも領都で有名な商人らしいぜ。」「へぇ。」

悪態をつく豚に嫌気が差す傭兵の集団。裏でかなりの額を積まれて、今回参加を決めている。裏の世界では知らないほうがいいことが多すぎる。今回同行している馬車の御仁の素性も正確には把握しようとはしていなかった。

一行が領都を出発したのが、人気がまばらな早朝。そこから馬を駆け、昼に差し掛かろうとしていた。

「そろそろ休憩にするぞ!」

傭兵団のリーダーが声を掛ける。どんなに急いでいても馬に適度な休憩を与えなければ馬は鞭を使っても動かなくなる。
流石の豚も商人の端くれ。それくらいはわかっており何も言わない。
なによりむしろずっと悪路を進んできて、尻にかなりの痛みを感じていた。



最初に死んだのはリーダーであった。数人の見張りを立てていたにも関わらず、円陣の中心で休憩していた傭兵の脳天を矢が射抜いた。

えっ…

傭兵の血が豚の顔に飛散する。突然倒れた傭兵と自分の顔に飛び散った生暖かい液体。液体を指で触り、目の前に持ってくると深紅の色をしていた。

指から目を外し、辺りを見渡すと横たわっていない傭兵はもういなかった。

後ろから幼い声がする。

「振り向くな!お前はギルノート商会会長だな?」

腰を抜かした豚の股間はぐっしょりと濡れていた。
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