27 / 41
第3章 異世界レジスタンス
第6話 崩壊
しおりを挟む
ギルノート商会本店前にてギルノート商会会長ブルドは血が沸騰せんばかりに顔を赤くしていた。
「いい一体、なな何が、、あったんだ!!!」
怒りに震え呂律も上手く回らない。
傍に控える老執事も顔を青くし、嫌な汗をかいていた。もちろんこれから起こり得ることを想定してだ。
昨日の深夜、店の小間使いが運んできた報はブルドにとって死刑宣告のようなものであった。所持していた奴隷が全て逃亡してしまったのだから。推定総額は白金貨にして1千枚。ネス換算で10億ネス。計りしえない被害である。
警備に雇った男たちは全て無力化され、当夜のことはほとんど覚えておらず、1人の警備に至ってはここ数週間のことも記憶から削除されていた。
ただの悪夢であればどれほどよかったであろう。
ブルドは絶望の中にどっぷりと浸かっていた。
(一体どうしたらいい。資金も資産も無くなってしまった。)
唯一彼に残っていたのは店舗、祖父が建てた古い屋敷と従業員のみ。その従業員も解雇せねばならないだろう。
見栄が服を着て歩いていたような男は街の一等地の真ん中で情けなくへたり込んでいた。
(いや、まだだ。まだ儂には白虎族の娘がいた!!)
急に立ち上がろうとするも、重い体がそれを許さない。従業員の1人が急いで肩を貸そうとする。
「ええい。放せ!!1人で立てるわ!!馬鹿めが!!じい!!」
顔面蒼白となっていた老執事は急に呼ばれ慌てる。
「は、はい。何でございましょう。」
「腕利きを集めろ!口の堅い、遣えるやつだぞ!」
「はい。かしこまりました。」
老体に鞭を打って動き出す老執事。これから主人が行うであろう非道を想定できない訳がない。これを終えたら姿を消し、引退しよう。そう固く誓っていた。
その様子を一部始終群衆に紛れて見ていた子供がいたことを彼らは気付いていなかった。
======================================================
ホストラの領主館にある執務室では騎士団長が子爵に昨夜の火事についての報告を行っていた。
「被害は騎士団員が5名死亡、消火に当たった団員が10名軽い火傷を負っております。同じ理由で市民にも10名ほど軽い火傷。火災による混乱で転倒し骨折した市民も何名かいるようです。延焼はせず、詰め所が全焼した以外に家屋の被害はありません。また城門の防御能力にも影響はないものと思われます。原因は依然不明です。」
「で、金はかかるのか?」
「はっ。今回死亡した騎士はいずれも近隣の領主の近親者であります。無視はできないでしょう。」
「ちぃい。せっかく儲かったばかりだというのに。腹立たしい。」
子爵であるクリストが部下の死を軽視する発言をするも、騎士団長であるパウエルは眉一つ動かさない。報告を続ける。
「また、火災に乗じて奴隷が逃げ出したとギルノート商会から捜査依頼が入っております。」
「ふんっ。もうあそこもこれ以上絞れないだろう。適当にやらせろ。」
新人の騎士に訓練がてら任せろということである。
「はっ。昨夜の火事とは関係がないのですが、副団長のグレンが今朝、辞職を申し出ております。」
「グレン?ああ、あのハーフかっ。どうでもよいわ。後任を探しておけ。」
ハーフとは、貴族が使う侮辱用語である。ここでは、庶子であるグレンをクリストは意味していた。
「はい。最後になりますが、ラウ村に派遣した部下4人と盗賊の1人が未だ帰還しておりません。」
「それは緊急を要するのか?」
「いえ。ただ村人に返り討ちにあった可能性もあります。」
「そんな弱卒必要ないわ!脱走兵として扱え!盗賊も既に処刑しておる!1人でどうしようもないだろう!放っておけ!」
「かしこまりました。」
「用が済んだら出ていけ。儂は王都に向かう準備をせねばならぬ。」
翌週には徴収した税を持って登城しなければならないクリスト。上司である侯爵や公爵、権力者に渡すべきものが多く、多忙を極めていた。
「では失礼いたします。」
パウエルは部屋から出ていく。決して感情を表に出さず、確実に任務をこなす彼を部下は畏怖を込めてこう呼んでいた{傀儡}と。
======================================================
一台の馬車が草原を西に向けて走っている。
ホストラから出発したこの馬車は、草原に差し掛かり一気に速度を落とした。道が舗装されていない以上、どうしようもないことであるが馬車に乗っている肥えた男にはそれが我慢できない。
「おい!!どうなっている!!」
御者に八つ当たりを始めた男を、馬車を囲んでいた男たちがたしなめる。
「旦那ぁ。ここは道が悪すぎるぜ、どうしようもねぇ」
「ちぃ。私は忙しいんだ。さっさと進め!!」
「…誰なんだ?あの豚?」
「なんでも領都で有名な商人らしいぜ。」「へぇ。」
悪態をつく豚に嫌気が差す傭兵の集団。裏でかなりの額を積まれて、今回参加を決めている。裏の世界では知らないほうがいいことが多すぎる。今回同行している馬車の御仁の素性も正確には把握しようとはしていなかった。
一行が領都を出発したのが、人気がまばらな早朝。そこから馬を駆け、昼に差し掛かろうとしていた。
「そろそろ休憩にするぞ!」
傭兵団のリーダーが声を掛ける。どんなに急いでいても馬に適度な休憩を与えなければ馬は鞭を使っても動かなくなる。
流石の豚も商人の端くれ。それくらいはわかっており何も言わない。
なによりむしろずっと悪路を進んできて、尻にかなりの痛みを感じていた。
最初に死んだのはリーダーであった。数人の見張りを立てていたにも関わらず、円陣の中心で休憩していた傭兵の脳天を矢が射抜いた。
えっ…
傭兵の血が豚の顔に飛散する。突然倒れた傭兵と自分の顔に飛び散った生暖かい液体。液体を指で触り、目の前に持ってくると深紅の色をしていた。
指から目を外し、辺りを見渡すと横たわっていない傭兵はもういなかった。
後ろから幼い声がする。
「振り向くな!お前はギルノート商会会長だな?」
腰を抜かした豚の股間はぐっしょりと濡れていた。
「いい一体、なな何が、、あったんだ!!!」
怒りに震え呂律も上手く回らない。
傍に控える老執事も顔を青くし、嫌な汗をかいていた。もちろんこれから起こり得ることを想定してだ。
昨日の深夜、店の小間使いが運んできた報はブルドにとって死刑宣告のようなものであった。所持していた奴隷が全て逃亡してしまったのだから。推定総額は白金貨にして1千枚。ネス換算で10億ネス。計りしえない被害である。
警備に雇った男たちは全て無力化され、当夜のことはほとんど覚えておらず、1人の警備に至ってはここ数週間のことも記憶から削除されていた。
ただの悪夢であればどれほどよかったであろう。
ブルドは絶望の中にどっぷりと浸かっていた。
(一体どうしたらいい。資金も資産も無くなってしまった。)
唯一彼に残っていたのは店舗、祖父が建てた古い屋敷と従業員のみ。その従業員も解雇せねばならないだろう。
見栄が服を着て歩いていたような男は街の一等地の真ん中で情けなくへたり込んでいた。
(いや、まだだ。まだ儂には白虎族の娘がいた!!)
急に立ち上がろうとするも、重い体がそれを許さない。従業員の1人が急いで肩を貸そうとする。
「ええい。放せ!!1人で立てるわ!!馬鹿めが!!じい!!」
顔面蒼白となっていた老執事は急に呼ばれ慌てる。
「は、はい。何でございましょう。」
「腕利きを集めろ!口の堅い、遣えるやつだぞ!」
「はい。かしこまりました。」
老体に鞭を打って動き出す老執事。これから主人が行うであろう非道を想定できない訳がない。これを終えたら姿を消し、引退しよう。そう固く誓っていた。
その様子を一部始終群衆に紛れて見ていた子供がいたことを彼らは気付いていなかった。
======================================================
ホストラの領主館にある執務室では騎士団長が子爵に昨夜の火事についての報告を行っていた。
「被害は騎士団員が5名死亡、消火に当たった団員が10名軽い火傷を負っております。同じ理由で市民にも10名ほど軽い火傷。火災による混乱で転倒し骨折した市民も何名かいるようです。延焼はせず、詰め所が全焼した以外に家屋の被害はありません。また城門の防御能力にも影響はないものと思われます。原因は依然不明です。」
「で、金はかかるのか?」
「はっ。今回死亡した騎士はいずれも近隣の領主の近親者であります。無視はできないでしょう。」
「ちぃい。せっかく儲かったばかりだというのに。腹立たしい。」
子爵であるクリストが部下の死を軽視する発言をするも、騎士団長であるパウエルは眉一つ動かさない。報告を続ける。
「また、火災に乗じて奴隷が逃げ出したとギルノート商会から捜査依頼が入っております。」
「ふんっ。もうあそこもこれ以上絞れないだろう。適当にやらせろ。」
新人の騎士に訓練がてら任せろということである。
「はっ。昨夜の火事とは関係がないのですが、副団長のグレンが今朝、辞職を申し出ております。」
「グレン?ああ、あのハーフかっ。どうでもよいわ。後任を探しておけ。」
ハーフとは、貴族が使う侮辱用語である。ここでは、庶子であるグレンをクリストは意味していた。
「はい。最後になりますが、ラウ村に派遣した部下4人と盗賊の1人が未だ帰還しておりません。」
「それは緊急を要するのか?」
「いえ。ただ村人に返り討ちにあった可能性もあります。」
「そんな弱卒必要ないわ!脱走兵として扱え!盗賊も既に処刑しておる!1人でどうしようもないだろう!放っておけ!」
「かしこまりました。」
「用が済んだら出ていけ。儂は王都に向かう準備をせねばならぬ。」
翌週には徴収した税を持って登城しなければならないクリスト。上司である侯爵や公爵、権力者に渡すべきものが多く、多忙を極めていた。
「では失礼いたします。」
パウエルは部屋から出ていく。決して感情を表に出さず、確実に任務をこなす彼を部下は畏怖を込めてこう呼んでいた{傀儡}と。
======================================================
一台の馬車が草原を西に向けて走っている。
ホストラから出発したこの馬車は、草原に差し掛かり一気に速度を落とした。道が舗装されていない以上、どうしようもないことであるが馬車に乗っている肥えた男にはそれが我慢できない。
「おい!!どうなっている!!」
御者に八つ当たりを始めた男を、馬車を囲んでいた男たちがたしなめる。
「旦那ぁ。ここは道が悪すぎるぜ、どうしようもねぇ」
「ちぃ。私は忙しいんだ。さっさと進め!!」
「…誰なんだ?あの豚?」
「なんでも領都で有名な商人らしいぜ。」「へぇ。」
悪態をつく豚に嫌気が差す傭兵の集団。裏でかなりの額を積まれて、今回参加を決めている。裏の世界では知らないほうがいいことが多すぎる。今回同行している馬車の御仁の素性も正確には把握しようとはしていなかった。
一行が領都を出発したのが、人気がまばらな早朝。そこから馬を駆け、昼に差し掛かろうとしていた。
「そろそろ休憩にするぞ!」
傭兵団のリーダーが声を掛ける。どんなに急いでいても馬に適度な休憩を与えなければ馬は鞭を使っても動かなくなる。
流石の豚も商人の端くれ。それくらいはわかっており何も言わない。
なによりむしろずっと悪路を進んできて、尻にかなりの痛みを感じていた。
最初に死んだのはリーダーであった。数人の見張りを立てていたにも関わらず、円陣の中心で休憩していた傭兵の脳天を矢が射抜いた。
えっ…
傭兵の血が豚の顔に飛散する。突然倒れた傭兵と自分の顔に飛び散った生暖かい液体。液体を指で触り、目の前に持ってくると深紅の色をしていた。
指から目を外し、辺りを見渡すと横たわっていない傭兵はもういなかった。
後ろから幼い声がする。
「振り向くな!お前はギルノート商会会長だな?」
腰を抜かした豚の股間はぐっしょりと濡れていた。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
小さな貴族は色々最強!?
谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。
本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。
神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。
その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。
転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。
魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。
ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる