俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第4章 異世界開拓史

第2話 辺境伯

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北にある獣人族の村へは南の村の村長であった熊人族のベリアードも同行することとなった。なんでも北の村の村長とは従兄弟の関係にあるらしく、移住の件で説得をしたいとの申し出だったからだ。

「にいにとおでかけ~」

イズモも同行することになるのはいうまでもなかった。

結局、北の村でもイズモが自由の女神像になりアキは重い食糧を行ったり来たりさせねばならなかったのはご愛敬だろう。


各村からの移住の準備が終わり、ラウ村に集まった一同は随時移住先に向かって移動を開始した。
最後まで残ったのはアキら一家だった。
村はほとんど解体され、アキが作ったターザン遊具も見る影もない。
唯一残ったのは、アキとナディアらが暮らした家のみだった。

この家だけ残しては可哀想。この家の焼却を決めたナディアの顔はどこか晴れ晴れしかった。

「今まで育ててくれてありがとう。」

4人で松明を持ち家に火をくべる。
イズモは必死で涙をこらえてアキにすがりつき、ナディアもヒュウガを抱えてなでることで哀しさを押し殺しているようだった。

「母さん、先に行っててくれ。」

「バサラさんたち呼んでくるね。」

ナディアがイズモらを抱えて森に飛び込む。村にはアキが一人残されていた。



アキは後ろから接近する気配に気付き、ナディアらを先に逃がした。

「まさか本当に子供だったとはね~。ぼく驚きだよ。」

アキの後ろから声を掛ける男。歳は20代半ば、コウと同じくらいであろう。煌びやかな装飾を着けた装いを纏い、両隣には騎士と執事の格好をした男。明らかに貴族。

「初めまして。ぼくの名前はジーク=デル=ファウスト。ネスジーナ王国で辺境伯をやっているんだ~。…しかし何にもなくなっちゃたね~。今燃えてるの多分君の家でしょ?」

「………」

「ジェイド君?」

「!!!?」

アキの背中に話掛けるジークと名乗る男。アキは知らないが王国の南部を守り隣接するカトリス帝国に連戦連勝を誇る南部の雄である。
そのジークにホストラで名乗った偽名を当てられた。
動揺を隠しきれずにいたアキにジークは続ける。

「いや~。君らの計画は実に見事だったよ。いくつかわからないこともあったけど、まあそれはいいとして、一国の子爵を破滅させちゃうんだからね~。」

「……」

アキは振り向かず、返事もしない。ただ念のために頬当だけは装備しておいた。

「偽装も完璧だったんだけどね~。唯一痕跡残しちゃったでしょ~?魔鹿の魔石だっけ!?いや~ちょっとお粗末だったかな?アルフレッド。」

名を呼ばれた執事らしき男が言葉をリレーする。

「はい。衛兵の証言では魔石の持ち込みをした少年は一人。しかも孤児だということです。」

「うんうん。孤児の子が魔鹿の肉なんて高級品。売りに来ないなんてありえないもんね~。しかも売ったお金で奴隷を購入か~。新しく奴隷を仕入れたばかりのギルノート商会で~。」

「………」

「まあ全部満点となる証拠じゃないんだけど。推測を立てるには十分だったんだよね~。」

「………」

「ジェイド君がこの村で育てられた人族で、村人を取り返しにホストラに侵入したって」

「………」

「あぁ。心配しなくていいよ。このことはここにいる人間しか知らないし、ぼくも言うつもりないから。ただの答え合わせ!」

「………」

「ねえ。どうかな。答え合ってた?」

アキはゆっくりと振り向く。全身に強化魔法を纏わせながら。
頬当をしたアキの姿に驚きもせずジークの横に控えていた騎士はその動きに反応し、ジークの前に立つ。

「あれ~?おかしいな。青い目じゃないんだ~。黒眼?君、魔人?」

ジークの言葉で一気に殺気立つ騎士。

「あ~やめてやめてシュナイダー。彼が魔人ならぼくらとっくに襲われてるよ。しかし黒眼か~。ぼく初めてみるよ。…えっ!?じゃあ彼ジェイド君じゃない!?ぼく恥ずかしいことした!?」

1人であわあわと慌てだすジーク。すると突然様子が変わり、アキが構えるほどの覇気を放つ。

「まあいいや。ふざけるのはここまで。君が誰にせよ、伝えてほしいんだ。クリスト=ライ=ホップス子爵は処刑された。君らのお望み通りにね。ここの領地は誰が受け持つかはまだわからない。今上の人間が押し付け合ってるからね。今日、ぼくが来たのはスカウトだ。」

シュナイダーと呼ばれた騎士を押しのけ、ジークは前に出る。シュナイダーは止めようとするが

「大丈夫だよシュナイダー。彼らはぼくを殺せない。森の中に射手がいるようだけどね。」

既にナディアの呼びかけで優秀な狩人やバサラが彼らを包囲せんとしていた。

「あれだけの策を弄した人物がここでぼくを殺す愚を犯すはずもないしね。」

ここでジークを殺せば間違いなく王国に子爵の件も含めてばれる可能性が高い。ましてジークが周りに兵を伏せている可能性も十分にあったのだ。

「君ら全員をぼくの領地で歓迎しよう。優秀な人材は大歓迎さ。まあ他の貴族には上手く誤魔化すさ。ぼくは王国に必要な人間だからね。」

「………」

「それで、返答を聞かせてもらえるかな?」

その言葉と同時に1本の矢がジークの足元に刺さる。

「そう。残念だね。まあダメ元だったんだけどね。アルフレッド、シュナイダー。帰ろう。」

ジークはそういうと何事も無かったかのように方向を変え姿を消した。
残ったアキに皆が駆け寄る。

「アキ!大丈夫?怪我にゃい?あのへんにゃ人に当てたほうが良かったかにゃ?」

「母さん…。大丈夫ですよ。」

強くならないと。アキに強く決意させた出来事であった。



「辺境伯様。よろしかったのですか?」

「うん。構わないよ。彼らの情報も不十分だったしね。帝国の動きが不穏な時に争いごとは起こせないでしょ?それよりもアルフレッド。長い間任務ご苦労様でした。助かったよ。色々と。」

「いえ、大したことではありませんでした。」

「それよりも戻ったらやることが多いかもね。」

「やるべきことですか?」

「うん。亜人族の待遇をね。改善しておかないとまずい気がするんだ。」

「それはあのジェイドとかいう少年と関係が?」

「そうだね。大きな渦になりそうな気がするんだ。とっても大きな」

「かしこまりました。このアルフレッド不肖ながら全力でお手伝いさせていただきます。」

「うん。よろしくね。」

200騎ほどの騎馬隊が東に向かって走り抜けていた。
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