AIエンジニアが1300年前の日本に転移して、日本書紀をアップデートしちゃいました

RYOアズ

文字の大きさ
27 / 55
第一章:隠れ里脱出と神器の目覚め

​第二十七話:鉄の檻と、囚われの巫女

しおりを挟む
​ 平重(たいらしげ)が遺した楽譜から解析された座標。そこに浮かび上がったのは、瀬戸内海に浮かぶ絶海の孤島「岩黒島(いわくろじま)」――現在は不比等直轄の強制収容施設『鉄の揺り籠(アイアン・クレイドル)』と呼ばれる監獄島だった。

​ 天箱(アマノハコ)は、島から数キロ離れた海域で停泊していた。島の周囲には不比等の「全方位スキャン・パルス」が張り巡らされ、鳥一羽の侵入も許さない。

​「……。ひどい。島全体が、負のエネルギーのノイズで塗りつぶされてる……」
 澪(みお)が、胸を押さえながら呟いた。彼女の巫女としての感知能力が、島に囚われた数千人の人々の絶望を拾っていた。

​「……。澪、安心しろ。……。今回の作戦は、正面突破じゃない。……。徳蔵さん、準備はいいか?」

​「……。おうよ。……。お前の無茶な注文通り、天箱の排熱を極限まで抑える『無音潜航モード』と、光を屈折させる『ステルス・コーティング』の調整は済んでるぜ」

​ 亮は、新調された漆黒のコートの袖を通し、ガントレットのコンソールを叩いた。
 今回の目的は、監獄の最深部に囚われているという瑞澪の一族の生き残り――**「那智(なち)」**の救出だ。彼女はかつて不比等のシステム構築に反旗を翻し、瑞澪の秘術をデジタル化した「禁忌のソースコード」を脳内に隠したまま幽閉されているという。

​「……。サク、お前は外周の監視塔を無音で無力化してくれ。……。俺と澪で内部に潜入する」

​「……。了解。……。新しい弓の『不可視の矢』、試すには絶好の機会ね」

​ 深夜。天箱から発射された小型艇が、ステルス・パッチによって姿を消したまま、監獄の排水口へと接岸した。
 亮と澪が足を踏み入れた内部は、湿った鉄の匂いと、機械の駆動音だけが響く冷徹な空間だった。

​「……。亮様、見てください。……。囚人たちの足首に、強制的に『論理縛(ロジカル・バインド)』が装着されています」

​ 通路の両側に並ぶ独房。そこにいる人々は、身体的な鎖ではなく、脳に直接「移動制限」をかけるバグによって、一歩も外へ出られない状態にされていた。

​「……。あ……助けて……。もう、何も……考えたくない……」
 一人の囚人が、亮たちの気配を感じて声を上げた。その瞳からは、希望という名の光が完全にデバッグ(削除)されていた。

​「……。亮。……。この人たちを、このままには……」
 澪の瞳に涙が浮かぶ。

​「……。分かってる。……。だが、那智さんを救い出して、島のメインサーバーをハッキングしない限り、こいつらのロックは解除できない。……。待ってろ、今すぐ全部ぶち壊してやる」

​ 亮は怒りを抑え、さらに奥へと進んだ。
 しかし、最深部「第六区画」の門の前に、その男は立っていた。
 身体を重厚なパワードスーツで包み込み、巨大な電気警棒を携えた監獄長――六大海賊の四番手、**【鋼鉄の看守・景時(かげとき)】**だ。

​「……。瑞澪の亡霊が、鼠のように這い込んできたか。……。ここは不比等様の『完璧な秩序』を維持する聖域。……。貴様らのような不規則(イレギュラー)な存在は、ここでスクラップにしてやろう」

​「……。秩序だと? ……。人の心を殺して閉じ込めるのが、お前の正義かよ!」

​ 景時が電気警棒を振り下ろすと、周囲の空間に「重力パッチ」が展開された。
 亮の身体が、凄まじい圧力で床に叩きつけられる。

​「……。くっ……! 重力倍率の……書き換え……か!」

​「……。無駄だ。……。貴様の神器(鍬)など、この100倍重力の中では、ただの鉄屑に過ぎん」

​ 景時が歩み寄り、亮の頭を踏みつけようとした瞬間。
 背後で、凛とした鈴の音が響いた。

​「――静まりなさい、鋼の獣よ!!」

​ 澪が、那智を救い出すために覚醒しつつある「瑞澪の真言(コード)」を唱えた。
 彼女の周囲に展開された清浄な光の壁が、景時の重力パッチを一時的に中和する。

​「……。今だ、亮様!!」

​「――神(かみ)……鳴(なり)……パッチ……開放!!!」

​ 亮のガントレットから、青白い火花が噴き出した。
 重力をねじ伏せ、亮は跳躍した。新調された神器『雷火・三日月』を逆手に持ち、抜刀モードへと移行させる。

​「――三日月・一閃、……『グラビティ・ブレイク』!!!」

​ 電光を纏った刃が、景時のパワードスーツの「重力制御コア」を正確に両断した。
 パリンッ! という音と共に、亮たちを縛っていた重圧が霧散する。

​「……。ぐわぁぁぁぁっ!? ……。私の……不変の秩序が……っ!」

​「……。秩序ってのは、守るもんじゃない。……。みんなで『作る』もんだ。……。お前の独りよがりのルールは、ここで終わりだ!!」

​ 亮がトドメの一撃を加えようとしたその時、最深部の扉が、内側から「論理爆発」によって吹き飛んだ。

​ 煙の中から現れたのは、ボロボロの巫女服を纏いながらも、その瞳に凄まじい「知性の光」を宿した女性だった。彼女こそが、那智。

​「……。遅かったわね。……。待ちくたびれて、自分で自分の脳内ロックを半分解除しちゃったじゃない」

​ 那智が不敵に笑い、指をパチンと鳴らした。
 すると、監獄中の全独房のロックが、一斉に強制解除された。

​「……。えっ……?」
 景時が唖然とする中、那智は亮の神器を指差した。

​「……。いい神器ね。……。でも、その使い方はまだ30%の出力よ。……。貸しなさい、私が『瑞澪の最終権限(ラスト・コマンド)』をインストールしてあげるわ」

​ 那智が亮の神器に手を触れた瞬間、神器の幾何学模様が金色に染まり、亮の脳内に「未知の領域」が展開された。

​『――システム・アップデート。……。瑞澪・秘伝・「タケミカヅチ・オーバーロード」のインストールを開始します。……。承認者は、第十七代巫女・那智』
​「……。これ、は……」

​「……。さあ、亮。……。この汚い檻を掃除して、みんなで外へ出るわよ。……。お姉さんが、特別にハッキングの『真髄』を教えてあげるわ」

​ 那智の加入により、亮たちの戦闘力、そして物語の「深み」は一気に加速した。
 監獄から解放された人々の歓声の中、景時は自身の崩壊するシステムと共に、深い絶望へと沈んでいった。

​ 脱出後の天箱(アマノハコ)の甲板。
 那智は、懐かしそうに海風に吹かれながら、亮の顔をじっと見つめていた。

​「……。あんた、いい目をしてるわ。……。泥だらけで、汗臭くて……でも、誰よりも『人間』のコードを信じてる。……。気に入ったわ。……。大和まで、私もついていってあげる」

​「……。那智さん。……。助かるよ。……。でも、あんたの持ってる『禁忌のソースコード』……不比等が喉から手が出るほど欲しがってるやつなんだろ?」

​「……。ふふ。……。ええ。……。だからこそ、最高のタイミングで不比等の顔面に叩きつけてやるのよ」

​ 瑞澪の生き残り、那智。
 彼女という最強のエンジニアかつ巫女が加わったことで、亮たちのギルドは「大和攻略」への決定的なピースを手に入れた。

​ しかし、不比等の監視網は、那智の脱走を「特級重大事項」として感知。
 瀬戸内海の後半戦を司る、最大最強の「海賊王」たちが、天箱の行く手を阻むべく動き出していた。



​次回予告:第二十八話「那智の教えと、新型エンジンの試運転」
那智による地獄のハッキングキャンプが始まった! 亮は、新奥義「タケミカヅチ・オーバーロード」を使いこなすため、那智の精神迷宮へとダイブする。一方、不比等の刺客が天箱の「位置情報」を特定し、かつてない規模の空爆を開始して……!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...