AIエンジニアが1300年前の日本に転移して、日本書紀をアップデートしちゃいました

RYOアズ

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第一章:隠れ里脱出と神器の目覚め

​第二十九話:来島の激流と、鉄鎖の海賊王

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​ 天箱(アマノハコ)の新型エンジンが放つ、高周波の駆動音が静寂の海を切り裂いていた。
 前方に見えるのは、瀬戸内最強の難所「来島(くるしま)海峡」。そこは複雑に入り組んだ潮流が渦巻く天然の要害だが、今のそこは、不比等の手によってさらに禍々しい「鉄の処刑場」へと変貌していた。

​「……。何よ、あれ。……。海を『縫い合わせ』ているつもり?」

​ サクが、望遠鏡を覗きながら声を震わせた。
 島と島の間、数キロにわたって、直径数メートルはあろうかという巨大な「電磁鉄鎖」が無数に張り巡らされている。それは物理的な鎖であると同時に、触れたものの慣性(移動エネルギー)を強制的にゼロにする、悪魔の停止プログラム――**『絶対停止(ポーズ)・フィールド』**の媒介だった。

​「……。ありゃあ、力任せに突っ込んでも船体が豆腐みたいに粉砕されるだけだぜ」
 徳蔵(とくぞう)が、新型エンジンのレバーを握り締めながら、苦々しく吐き捨てた。

​「……。亮。……。那智(なち)さんから教わった『あれ』、やるしかないわね」
 澪(みお)が、亮の隣で決意を込めて頷いた。

​「……。ああ。……。来島の潮流を逆利用して、鎖のネットワークを内側から焼き切る。……。那智さん、準備はいいか?」

​ 天箱のメインコンソールの奥、那智は足を組み、不敵な笑みを浮かべていた。
「……。いい? 亮。……。タケミカヅチの力は『破壊』じゃない。『伝導』よ。……。世界を繋ぐ回路を見極め、そこに純粋な意志を流し込むの。……。さあ、あの鉄鎖の海賊に見せてやりなさい。……。泥だらけのエンジニアが、どれだけ熱いかをね!」

​ 天箱が、絶対停止フィールドの境界線へと突入した。
 キィィィィィィィィン!! という、耳を劈くような高周波が船内を駆け抜ける。

​「――っ! 船速、急激に低下!! ……。全システム、フリーズまであと三十秒!!」
 凛(りん)が悲鳴を上げる。

​ その時、海の中から巨大な黒い影が浮上した。
 それは船ではない。巨大な要塞そのものが移動しているかのような、漆黒の鉄甲船。
 その艦首に立つのは、全身を重厚な黒鉄の鎧で包み、巨大な錨を片手で振り回す大男。瀬戸内最強、六大海賊の五番手――【鉄鎖の海賊王・村上(むらかみ)】。

​「……。瑞澪の残党よ。……。我が鎖に触れたが最後。……。あらゆる時間は止まり、貴様らの歴史はここで永久に凍結される。……。不比等様が望む『静止した美しき世界』の礎となれ」

​ 村上が巨大な錨を海に叩きつけた。
 ガガガガガッ!! という音と共に、張り巡らされた鉄鎖が赤く発光し、天箱の周囲の空間そのものを「物理的にロック」し始めた。

​「――MI-Z-O! 天箱の全演算を『雷火(らいか)』に同期!! ……。タケミカヅチ・オーバーロード、第一階層……完全開放(フル・バースト)!!」

​ 亮は、ハッキング・チェアから立ち上がり、右腕のガントレットを天へ掲げた。
 彼の脳内温度は一気に沸点を突破し、新調されたデバッグ・コートの冷却ファンが悲鳴のような音を立てて回転する。

​「……。村上。……。止まった世界なんて、ただの墓場だ。……。俺たちは、未来へ進むための『ノイズ』なんだよ!!」

​ 亮の全身から、金色の電光が爆発した。
 それは那智の導きによって、亮自身の「情熱」を燃料に変えた、純度一〇〇%の神鳴パッチ。
 亮は神器『雷火・三日月』を抜き放ち、抜刀モードの刃を、自分たちの船を縛る鉄鎖へと叩きつけた。

​「――神鳴(かみなり)・一閃……『チェーン・デバッガー』!!!」

​ 金色の電光が、鉄鎖を伝って海全体へと広がっていく。
 亮は鎖を破壊するのではなく、鎖が維持している「停止プログラム」の論理構造を、自身の熱い意志で「上書き」していった。
 
 鉄鎖が赤から青へと色が変わり、停止の呪縛が、逆に天箱を加速させる「加速レール」へと反転する。

​「――なんだと!? 我が鎖の権限を……奪い返したというのか!?」
 村上の驚愕の叫び。

​「――徳蔵さん!! 今だ、フルスロットル!!」
​「――がっはっは!! 待ってろよ、来島の王様!! ……。新型エンジンの真価、とくと拝見しな!!」

​ 天箱が、絶対停止の海を「異次元の速度」で滑り出した。
 青い雷を纏った天箱は、もはや船ではなく、海を走る巨大な稲妻だった。

​「――サク!! 村上の鎧の継ぎ目、見えるか!?」

​「――バッチリよ!! ……。止まってる奴を射抜くなんて、欠伸が出るわね!!」

​ サクが、那智の技術で強化された「電磁貫通矢」を放った。
 矢は村上の黒鉄の鎧を貫き、彼の「姿勢制御パッチ」を破壊。村上の巨体が、大きく揺らぐ。

​「――仕上げだ、亮!! ……。瑞澪の誇り、見せてあげなさい!!」
 那智の叫びが、亮の魂を震わせる。

​ 亮は、加速し続ける天箱の船首へ飛び出し、村上の鉄甲船へと跳躍した。
 空中で、神器『雷火・三日月』がさらに変形し、刃にタケミカヅチの神威を宿す。
​「――これが……俺たちの……ビルドした……答えだぁぁぁ!!!」

​「――瑞澪・最終奥義……『天鳴(あまな)る雷火の三日月』!!!」

​ 亮が振り下ろした刃が、村上の鉄甲船を、そして海を埋め尽くしていた無数の鉄鎖を一気に一刀両断した。
 凄まじい閃光と爆音。
 来島海峡を縛っていた「静止の呪い」が粉々に砕け散り、激流が再び本来の力強い渦を巻き始めた。

​ 戦いが終わり、村上の鉄甲船は沈みゆく中、村上は自身の鎧を脱ぎ捨て、一人の海の男として亮を見上げた。

​「……。見事だ。……。不比等の鎖より、お前の熱い意志が勝ったか。……。瑞澪のエンジニアよ。……。大和の門は、この先、瀬戸内の最後の王が守っている。……。あの方だけは、これまでの四人とは格が違うぞ……」

​「……。ああ。……。誰が来ようと、俺たちは立ち止まらない」

​ 亮は、汗を拭いながら村上に手を差し出した。
 村上はその手を握り、静かに微笑んで、自身の残存データを亮へと託した。
 それは、瀬戸内最後の海域を開くための、黄金のパスワードだった。

​ 天箱の船内。
 泥と汗にまみれ、それでも達成感に満ちた亮を、仲間たちが囲んでいた。

​「……。亮様、お疲れ様です。……。でも、脳内温度が九五度でしたよ。……。次は本当に、氷水に頭を突っ込まないとダメですからね!」
 凛が怒りながらも、優しく亮の額に濡れタオルを当てた。

​「……。ふふ。……。あんた、いい顔になったわね。……。これなら、あの『最後の海賊王』とも、対等に渡り合えるかもしれないわ」
 那智が、亮の成長を認め、そっと彼の髪を撫でた。

​ だが、亮の眼鏡に、これまでとは全く異なる「赤黒い通知」が届いた。

​『――警告。……。瀬戸内最終防衛ライン、起動。……。六大海賊・第一席。……。かつて瑞澪の一族を壊滅に追い込んだ、伝説の裏切り者――**【終焉の巫女・静(しずか)】**の接近を確認』

​ その名を聞いた瞬間、澪の顔から血の気が引いた。

​「……。静……姉様……!? ……。生きて……いたの……?」
​ 天箱の前に、もはや船さえ必要としない、海の上をただ一人で歩く影が現れた。
 瑞澪の血を引きながら、不比等に魂を売った最強の敵。
 瀬戸内海編、真のクライマックスが幕を開けようとしていた。



​次回予告:第三十話「静寂の巫女と、瑞澪の涙」
ついに現れた最後の海賊王。それは澪の実の姉、静だった! 全ての術式を知り尽くした姉を前に、亮たちの攻撃は一切通用しない。絶望の中で、亮は「神の力」のさらに奥底に眠る、禁断のパスワードに触れることになる……!
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