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第一章:隠れ里脱出と神器の目覚め
第三十一話:鉄の都・大和と、不比等の正義
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瀬戸内海を越え、天箱(アマノハコ)がいよいよ「大和」の境界線へと到達した。
空に浮かぶ八枚の鏡『八咫鏡(ヤタノカガミ)』が、侵入者を拒むように冷徹な光を放っている。その光に触れた海面は一瞬で結晶化し、船の進路を阻む「時間の壁」が立ちはだかる。
「……。ふん、相変わらず不比等の野郎は、姑息な真似をしてくれるぜ」
天箱の船首に立ち、愛槍を握りしめて海を睨みつけるのは、対馬から共に旅を続けてきた瑞澪の当主・厳心(げんしん)だった。
その隣には、彼と同じく鋭い眼差しで弓を構える娘のサクが並んでいる。
「……。お父さん、無理はしないで。……。瀬戸内での戦いの傷、まだ完全に癒えてないんだから」
「……。サク、心配いらん。……。我が故郷・対馬を奪い、瑞澪を汚した不比等。……。その喉元にこの槍を突き立てるまで、私は倒れるわけにはいかぬのだ」
厳心の力強い言葉に、亮は神器『雷火・三日月』を握る手に力を込めた。
そう、彼らは家族であり、戦友だ。対馬で共に死線を越え、天箱という一つの「家族」として大和まで辿り着いたのだ。
しかし、大和の正門『朱雀門』のホログラムが激しく明滅した瞬間、門の奥から「あってはならない影」が滑り出してきた。
「――MI-Z-O! 前方に……厳心さんの生体IDと一〇〇%一致する信号を検知!! ……。でも、厳心さんは今、ここに……」
「……。なんだと!?」
現れたのは、厳心の姿を完全に模した漆黒の擬体――**【影当主・偽厳心(ギゲンシン)】**だった。
それは不比等が厳心の戦闘データを対馬で収集し、それを元に「迷いも疲れも知らない、純粋な殺戮プログラム」として完成させた、鏡の都の番人だ。
「……。私の……偽物だと? ……。不比等め、死者を弄ぶだけでなく、生者の魂までをも侮辱するか!!」
厳心の怒りが爆発する。
だが、偽厳心は無機質な動作で槍を構え、天箱に向けて一歩も引かない構えを見せた。
『――不比等様より命令を受領。……。瑞澪厳心、および随伴するバグ集団を消去。……。本物の「当主」にふさわしいのは、感情を捨てた私のみである』
「……。お父さん、あいつ……不気味なくらいお父さんに似てる。……。動きも、空気も……」
サクの指が、弓の弦の上で震える。
偽厳心は、厳心が長年かけて培ってきた「瑞澪の槍術」を、一秒間に数億回の演算で最適化し、さらに強力な「回避不能の連撃」へと昇華させていた。
「――亮! 奴の動きを止めるぞ!!」
「――ああ!! 厳心さん、サク! ……。偽物に、本物の『想い』の強さを教えてやりましょう!!」
亮は神器を抜刀モードへ変形させ、金色の雷光を纏って海面へと跳躍した。
同時にサクが援護の矢を放ち、厳心は天箱から直接、偽厳心の懐へと飛び込む。
カキィィィィィィィン!!
本物と偽物。二本の槍が激突し、周囲の『八咫鏡』がその衝撃で共鳴する。
だが、偽厳心は一切の疲労を感じることなく、正確無比なカウンターで厳心の脇腹を掠めた。
「……。ぐっ……! ……。なるほど、私の癖をすべて読み切っているというわけか」
「……。厳心さん!!」
亮が割って入るが、偽厳心は亮のハッキングコードさえも、厳心の記憶データから「予測済み」として無効化していく。
『――無駄だ。……。お前たちが共有した記憶、絆、戦術。……。それらすべては、すでに不比等様のサーバーにアーカイブされている。……。未来はすべて、予測の範囲内だ』
「……。予測だと? ……。笑わせるな!!」
亮は、泥だらけのデバッグ・コートの襟を正し、脳内温度を限界まで引き上げた。
「……。不比等。……。お前は一つ、大きなバグを見逃してる。……。俺たちは、旅をしながら『変わって』きたんだ。……。一秒前の俺たちをいくらシミュレートしても、今の俺たちの『熱』には追いつけねえんだよ!!」
亮は神器を海面に突き立て、那智(なち)から教わった「神鳴パッチ」の進化形を起動した。
「――タケミカヅチ・オーバーロード・第三階層……『共鳴(レゾナンス)・ブースト』!!!」
亮から放たれた光が、厳心とサクの身体を包み込む。
それは単なる強化ではない。三人の「心拍」と「意志」を一つの回路で繋ぎ、不比等の予測計算が追いつかないほどの「ランダムな熱量(感情の揺らぎ)」を武器に変える、究極の連携システムだ。
「……。おお、……。力が、……。亮、サク。……。お前たちの鼓動が、私に流れ込んでくるぞ!!」
「……。私も、……。お父さんの覚悟と、亮の熱さ、全部わかる!! ……。これなら、いけるわ!!」
三位一体の攻撃。
偽厳心は、予測不能な「愛」と「絆」という名のバグを前に、初めてその動作をフリーズさせた。
「――これが、瑞澪の……本物の魂だぁぁぁ!!」
次回予告:第三十二話「朱雀門の決闘と、二人の当主」
偽厳心の鉄壁の防御を、サクの放った「絆の矢」が砕く! 厳心は己の影を越えるため、瑞澪の最終奥義を解き放つ。ついに大和の門が開くとき、不比等の冷徹なシステムに、最大の綻びが生じることになる!
空に浮かぶ八枚の鏡『八咫鏡(ヤタノカガミ)』が、侵入者を拒むように冷徹な光を放っている。その光に触れた海面は一瞬で結晶化し、船の進路を阻む「時間の壁」が立ちはだかる。
「……。ふん、相変わらず不比等の野郎は、姑息な真似をしてくれるぜ」
天箱の船首に立ち、愛槍を握りしめて海を睨みつけるのは、対馬から共に旅を続けてきた瑞澪の当主・厳心(げんしん)だった。
その隣には、彼と同じく鋭い眼差しで弓を構える娘のサクが並んでいる。
「……。お父さん、無理はしないで。……。瀬戸内での戦いの傷、まだ完全に癒えてないんだから」
「……。サク、心配いらん。……。我が故郷・対馬を奪い、瑞澪を汚した不比等。……。その喉元にこの槍を突き立てるまで、私は倒れるわけにはいかぬのだ」
厳心の力強い言葉に、亮は神器『雷火・三日月』を握る手に力を込めた。
そう、彼らは家族であり、戦友だ。対馬で共に死線を越え、天箱という一つの「家族」として大和まで辿り着いたのだ。
しかし、大和の正門『朱雀門』のホログラムが激しく明滅した瞬間、門の奥から「あってはならない影」が滑り出してきた。
「――MI-Z-O! 前方に……厳心さんの生体IDと一〇〇%一致する信号を検知!! ……。でも、厳心さんは今、ここに……」
「……。なんだと!?」
現れたのは、厳心の姿を完全に模した漆黒の擬体――**【影当主・偽厳心(ギゲンシン)】**だった。
それは不比等が厳心の戦闘データを対馬で収集し、それを元に「迷いも疲れも知らない、純粋な殺戮プログラム」として完成させた、鏡の都の番人だ。
「……。私の……偽物だと? ……。不比等め、死者を弄ぶだけでなく、生者の魂までをも侮辱するか!!」
厳心の怒りが爆発する。
だが、偽厳心は無機質な動作で槍を構え、天箱に向けて一歩も引かない構えを見せた。
『――不比等様より命令を受領。……。瑞澪厳心、および随伴するバグ集団を消去。……。本物の「当主」にふさわしいのは、感情を捨てた私のみである』
「……。お父さん、あいつ……不気味なくらいお父さんに似てる。……。動きも、空気も……」
サクの指が、弓の弦の上で震える。
偽厳心は、厳心が長年かけて培ってきた「瑞澪の槍術」を、一秒間に数億回の演算で最適化し、さらに強力な「回避不能の連撃」へと昇華させていた。
「――亮! 奴の動きを止めるぞ!!」
「――ああ!! 厳心さん、サク! ……。偽物に、本物の『想い』の強さを教えてやりましょう!!」
亮は神器を抜刀モードへ変形させ、金色の雷光を纏って海面へと跳躍した。
同時にサクが援護の矢を放ち、厳心は天箱から直接、偽厳心の懐へと飛び込む。
カキィィィィィィィン!!
本物と偽物。二本の槍が激突し、周囲の『八咫鏡』がその衝撃で共鳴する。
だが、偽厳心は一切の疲労を感じることなく、正確無比なカウンターで厳心の脇腹を掠めた。
「……。ぐっ……! ……。なるほど、私の癖をすべて読み切っているというわけか」
「……。厳心さん!!」
亮が割って入るが、偽厳心は亮のハッキングコードさえも、厳心の記憶データから「予測済み」として無効化していく。
『――無駄だ。……。お前たちが共有した記憶、絆、戦術。……。それらすべては、すでに不比等様のサーバーにアーカイブされている。……。未来はすべて、予測の範囲内だ』
「……。予測だと? ……。笑わせるな!!」
亮は、泥だらけのデバッグ・コートの襟を正し、脳内温度を限界まで引き上げた。
「……。不比等。……。お前は一つ、大きなバグを見逃してる。……。俺たちは、旅をしながら『変わって』きたんだ。……。一秒前の俺たちをいくらシミュレートしても、今の俺たちの『熱』には追いつけねえんだよ!!」
亮は神器を海面に突き立て、那智(なち)から教わった「神鳴パッチ」の進化形を起動した。
「――タケミカヅチ・オーバーロード・第三階層……『共鳴(レゾナンス)・ブースト』!!!」
亮から放たれた光が、厳心とサクの身体を包み込む。
それは単なる強化ではない。三人の「心拍」と「意志」を一つの回路で繋ぎ、不比等の予測計算が追いつかないほどの「ランダムな熱量(感情の揺らぎ)」を武器に変える、究極の連携システムだ。
「……。おお、……。力が、……。亮、サク。……。お前たちの鼓動が、私に流れ込んでくるぞ!!」
「……。私も、……。お父さんの覚悟と、亮の熱さ、全部わかる!! ……。これなら、いけるわ!!」
三位一体の攻撃。
偽厳心は、予測不能な「愛」と「絆」という名のバグを前に、初めてその動作をフリーズさせた。
「――これが、瑞澪の……本物の魂だぁぁぁ!!」
次回予告:第三十二話「朱雀門の決闘と、二人の当主」
偽厳心の鉄壁の防御を、サクの放った「絆の矢」が砕く! 厳心は己の影を越えるため、瑞澪の最終奥義を解き放つ。ついに大和の門が開くとき、不比等の冷徹なシステムに、最大の綻びが生じることになる!
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