この腐男子とドS男子の恋は漫画とは違う恋になりそうです

桜庭はな

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 部屋着からきちんとした装いになった俺は家の近所の広場へと足を運ぶ。


「うわ、人多っ…」


 真夏の夜の夏祭りということもあり、大勢の人で賑わっている。色んな年代の人が色々な場所でわいわい集まっている。
 蝉の鳴き声と共に聞こえてくる食べ物が鉄板で焼ける音が、俺に夏の知らせを伝えてくるようだ。


「おーいたいた、伊吹ー」


 夏を感じながら屋台を見て回っている俺を呼び止める声がした。


「茉白、久しぶり」


 後ろを振り返ると、茉白が立っていた。


「久しぶりー!何だよお前屋台ジッとみて。腹減ってんの?」

「うーん…まあまあかな」

「ならなんか食おうぜ!俺早く焼きそば食いたい!ほら早く!」


 茉白は焼きそばの屋台を見つけた途端、颯爽と屋台へ向かって走って行った。あっという間に茉白が小さく見える。


(相変わらず元気だなぁ、茉白は)


 そして俺も続いて、茉白の後を追った。




「あー腹減った。伊吹、もし腹減ってないならお前の焼きそば俺が全部食べてやってもいいけど!」


屋台の列に並びながら、茉白は笑ってそう言った。


「うわっ、それはやめろよ」

「はは、冗談冗談」


 そして、後に俺と茉白は、透明のパックに入った小さな焼きそばを二つ購入した。パックに入った焼きそばから香るソースの匂いが食欲を唆る。
 俺と茉白は屋台の傍にあるベンチに腰かけた。



「いただきまーす」


 俺と茉白は割箸を裂き、パックの輪ゴムを外す。そしてようやく麺を口の中へと運んだ。
 夏祭りに食べる焼きそばは特別感があり、いつも食べる焼きそばの何十倍、何百倍も美味しく感じる。


 余程お腹が空いていたのか、茉白は夢中で焼きそばを頬張っている。俺も大きく焼きそばを頬張る。
 そして、焼きそばを頬張っていた茉白は何か俺に言いたいことがあったのか、焼きそばのパックを膝に置いた。


「なあ伊吹、お前が遥と付き合ったらさ」

「!? ゲホッゲホッ」


 茉白はここでいきなり突拍子も無く、遥の名前を出した。


「そんな驚くかよ…!?」

「ご、ごめん、何…?」


 いきなりだったし、俺も今ちょうど焼きそばを頬張りながら遥のことを思い浮かべていたから、つい過敏に驚いてしまった。


「あのさ、もしお前と遥が付き合ったら、そのうちセックスとかもするんだよな?」

「はっ!?!?」


(セ、セックス…!? セックスって、BL漫画によくあるセックス…だよな?ま、まあ確かにもし仮に付き合えたとしたら、そうなるの…か)


 付き合ったら、相手をもっと知りたい、愛したいという気持ちからそういうことをするということは勿論知ってはいたが、いざ口に出して言われるととても恥ずかしくなる。


「するってなったら、お前が下だろ?」

「ゑ」


 色鮮やかで趣のある風景を背景に、焼きそばを食べながらする会話ではとてもない。
 俺は分かりやすく動揺した。


「いやでも…!俺の方が背高いんだよ」

「それの何が上下うえしたに関係あんだよ」

「だ、だってBL漫画は背高い人が背低い人を虐めながらセックスするのが主流じゃん…!!遥より俺の方が背高いから…!!」


 俺が良く読むBL漫画は、背の高い人が低い人を虐めるパターンが多いために、このようなイメージがついてしまっている。 だって本当のことだし…。


「え、じゃあそうなるとお前は遥に入れる側ってこと?」

「そうなるけど…うーん…?」

「お前は入れたいのか入れられたいのか」

「…なあこの話辞めない!?」

「辞めない。はい、お前はどっち」


――


「あっ!♡ん、そこだめぇっ!♡遥ぁっ!♡」

「ふーん♡めっちゃ締めてるくせにそんなこと言うんだな伊吹?♡」

「あぁ♡も、やだぁっ!♡抜いてっ…♡」


ーー


「伊吹ー?今何か変なことでも想像してただろー?♡」

「な、何もしてねえ!!」


 俺は焦ってついいつもより多い量の焼きそばを一口、口へ放り込む。
 本当、俺は何てことを考えているんだ…。今のこの一瞬の空想の間で、行為中の遥の顔や体までも想像してしまった。しかも、俺が“受け”の空想の世界であった。
 遥は、あんあん声を上げる俺を見てニヤリと口角をあげ、俺を見ていた。自分があんなだらしない声をあげているなんて、余程気持ちいいんだろうな…と空想であるのに考えてしまう。


「茉白!! この話はもう終わり!! 違うとこ行こうぜ!!」

「はいはい笑 お前の中では上下どっちか理解したようだな笑 まあ言わなくても俺は分かるけど笑」

「はあ…」


 茉白は本当に俺を揶揄うのが上手い…俺の周りにはからかい上手しかいないのか。  そうして俺は男子高校生特有のエッチな会話を無理矢理終わらせ、食べ終わった焼きそばのゴミをゴミ箱へと放り込む。


「あ、伊吹、そろそろ花火あるから見ようぜ。多分ここじゃ見えないからどっか移動してさ」

「花火かあ。うん、見よ」


 花火か。花火と聞くだけで夏を感じる。
 そうして、俺と茉白は祭りの醍醐味、花火を見るべく今いる広場から離れ、花火が見える場所へと歩き出した。
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