外音取り込みモード

外音取り込みモード

Kは、最近購入した最新型のワイヤレスイヤホンがお気に入りだった。音質はもちろん、外音取り込みモードが非常に優れている。外を歩きながら音楽を楽しむとき、周囲の音も自然に耳に入るため、安全性も高いという評判だった。

ある夜、Kは夜道を歩きながらイヤホンをつけていた。外音取り込みモードをオンにして音楽を再生していたが、突然、背筋がゾクッとする感覚に襲われた。

目の前の交差点を車が走り抜ける。エンジン音が聞こえるはずなのに、耳に入るのは砂利道を歩く足音のような音だった。

思わず立ち止まり、周囲を見渡すが、誰もいない。ただの機械の不具合だろうと思い直し、その場を歩き続けた。だが、奇妙な音はその後も続いた。近くで話し声が聞こえるはずの場所で、代わりに不気味な囁き声が響く。

数日後、Kはさらにおかしな現象を体験する。外音取り込みモードをオンにすると、家の中で聞こえるはずのない音が聞こえ始めたのだ。カサカサと何かが這い回る音、遠くから響くような子どもの笑い声。それはどう考えても現実の音ではない。

Kは気味が悪くなり、イヤホンの製造元に問い合わせた。だが、サポートセンターの担当者は「不具合の報告はありません」と答えるばかり。

そこでKはイヤホンを分解してみることにした。内部には通常の電子基板と部品しかないように見える。だが、特に何か変な部品が埋め込まれている訳ではなさそうだ。

ふと部屋の中にいる気配を感じた。慌てて振り返るが、誰もいない。ただ、イヤホンを床に置いた瞬間、それが「音を拾っている」ことに気付いた。

Kはさらに調査を進める。インターネットで「外音取り込み　不具合　なぜ」というキーワードを検索すると、奇妙な都市伝説に行き着いた。

「〇〇社はかつて、ある研究機関が行った音声実験の一環で、亡くなった人間の記憶や意識を音波として記録し、それを再現する技術を開発していたという噂がある。」

その瞬間、イヤホンが突然振動し、耳を裂くようなノイズが流れた。慌てて取り外そうとしたが、何かが耳元で囁く声を聞いた。

Kの手が震える。イヤホンを投げ捨てようとしたが、その時、目の前の風景が歪み始めた。周囲の音がすべてイヤホンを通じて聞こえてくるようになり、現実が崩壊していく感覚に襲われる。

Kは気付いてしまった。このイヤホンは単なる「外音取り込み」ではなかった。それは、周囲に漂う死者の声、あるいは記憶を「拾い取る」装置だったのだ。イヤホンを使い続けた者は、やがてその音に引き込まれ、現実と虚構の境界を失う。

そして彼が最後に聞いた音は、**「おかえり」**