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1.ソレイユ選募集
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「ごきげんよう」
この学園では基本となる挨拶が、涼やかな声とともに響き渡る。レンガ造りの校舎へと生徒たちは足取り軽やかに歩いていく。
スカートの丈は膝丈で一定、男子はネクタイを、女子はリボンを乱れることなくきちんと結び、姿勢を正し、下級生の見本となる行動を心がける。それがここ、星ノ川学園に通う生徒の指針である。
校舎の玄関の靴箱の近くには、学校内のお知らせを貼る大きな掲示板がある。そこに一人の女子生徒が仁王立ちをして、一枚の張り紙を見つめていた。
「ごきげんよう、鈴香さん」
佐藤鈴香(さとうすずか)はクラスメイトに声をかけられ、涼やかな声でごきげんようと返し、また張り紙に視線を戻し、小さな声でつぶやいた。
「…どうしよう…」
鈴香の視線の先にある張り紙に書かれているのは
【星ノ川ソレイユ・エントリー受付中】
【星ノ川ソレイユ】とは、星ノ川学園の太陽、全生徒の指針となるべき二人の生徒を指す言葉である。
ソレイユに選ばれた生徒は一年間、学校の代表として学校外での活動にも勤しむこととなる。
なんてことは建前であり、山の奥に建てられ全寮制である星ノ川学園で行われる唯一の娯楽と言ってもいい。
二人の生徒とは、男女それぞれ1名ずつ。つまり【恋人】が選ばれるのある…簡単に言ってしまえば【恋人総選挙】なのだ。
皆で学校一素晴らしい恋人を選ぼうという、伝統ある学校には似つかわしくない、俗世にまみれたようなイベントである。
しかし、ソレイユに選ばれた二人は、学校の代表として、社交界に出入りしたり、貴族、社長・経営者、ありとあらゆる著名人と顔見知りになることができ、歴代のソレイユの中には政界に進出したり、世界の不動産を手に入れ、億万長者と名をはせる者もいた。
ソレイユに選ばれれば名誉だけが手に入るだけでなく、その先の長い人生が左右されてしまうようなイベントなのだ。
なのでこのソレイユに必死になる生徒はとても多い。
そしてそのソレイユに選ばれるために必要条件なのが「恋人」同士であること。
基本的に男女それぞれ1名での選出なのだが、最近は男性同士、女性同士でもエントリーも可能であるが、まだ同性同士のソレイユは選ばれていない。
鈴香はソレイユになりたいという強い意志と理由があった。
ソレイユの存在を知ったの1学年時のエントリーが締め切った後。2学年になった今、今年は絶対にエントリーすると決めていたが、鈴香には必須条件である恋人がいなかった。
ソレイユまで作るぞ!と気合いを入れていたが、むしろ、クラスメイトである男子ともまともにしゃべったことがなかったのだった。
「ごきげんよう、鈴香さん」
「聖良さん…!ごきげんよう」
声をかけてきたのは鈴香の寮のルームメイトであり、友人である常高院聖良(じょうこういんせいら)
透けるような金色の長い髪を靡かせ、にこりと優しく鈴香に微笑みをかける。美貌の美しさだけでなく、小鳥の囀りのような清らかな声、一つ一つ丁寧で無駄のない仕草。お嬢様の見本というような、お嬢様というのはこういう人のことを言うんだなと、鈴香が手本としている人物である。
「鈴香さん、星ノ川ソレイユに出場なさるの?」
「えっ!?いや…その…出たいな…とは思っているんですが…」
「まあそうなんですね!鈴香さんが出場されたら、私、応援しますわ!」
その純粋無垢な眩しいほどの笑顔に鈴香は圧倒されてしまう。同じ女性である鈴香から見ても美しい聖良、男性が黙っているはずもなく、常にラブレターや告白を受けているのを鈴香も知っている。むしろ恋人を作り、聖良がソレイユに出場すれば優勝するのでは?とも思っている。が、以前それとなく聞いた時に、本人は恋人を作ることにも、ソレイユに出場することにも全く興味がないらしい。
聖良は校内の中でも生粋のお嬢様であるため、ソレイユに出る必要がない…ともいえる。
「あら、でも鈴香さん…恋人はいらっしゃるの?恋人がいるというお話は聞いたことがないのですが…」
痛いところを突かれた!と鈴香は空笑いをしてしまう。
「あはは、そう…恋人…恋人は…いないんだけどね」
恋人がいない?恋人で出ることが必須条件のソレイユに?聖良はきょとんとした顔で鈴香のことを見つめていた。
「でも私…ソレイユに出たい…ソレイユに選ばれたいの!」
自分に言い聞かせるように言った言葉。鈴香の決意を表す言葉でもあったが、いささか大きかったようで、数人がこちらをちらりと見た気がした。
いけない、はしたないことをしてしまった!と気づいた鈴香は、なんてね、冗談冗談!と誤魔化しながら掲示板から急いで離れた。
鈴香は慌てて掲示板から離れたので、周囲をよく見ていなかった。
ドン!という前方からの衝撃を受け、鈴香は足元をふらつかせよろけてしまった。
「大丈夫か?気ぃつけろよ」
「す…すみません…」
鈴香がぶつかったのは、鈴香より少し背が小さく小柄ではあるものの、身体の厚みはある。
黒髪短髪、鋭い目つき、頬や手には切り傷があり、傷の手当がなされてる。
襟元はボタンが外され、ネクタイを付けていない男子生徒。
鈴香はその生徒のことを知っていた「有名人」だからだ。
『【小さき黒狼】の剣城昂希(けんじょうこうき)くんだ』
「大丈夫ですか鈴香さん」
「大丈夫です、私がよく回りを見ていなかったので…」
傍に駆け寄ってくれた聖良に礼をいいながら、立ち去る彼の背中を目で追う。
彼が廊下を通ると、周りにいる生徒たちはひそひそと小声で会話をしているのが見えた。
「彼…また喧嘩したんですって」
「まあ野蛮な…お兄様は立派なのに弟は…」
噂話を引き裂くように、始業のベルが鳴り響く。教室に向かう生徒たちに反して、彼は反対方向へと歩いていった。鈴香はなぜか彼から目を離すことができず、教室に入るギリギリまで彼の後ろ姿を見つめていたのであった。
この学園では基本となる挨拶が、涼やかな声とともに響き渡る。レンガ造りの校舎へと生徒たちは足取り軽やかに歩いていく。
スカートの丈は膝丈で一定、男子はネクタイを、女子はリボンを乱れることなくきちんと結び、姿勢を正し、下級生の見本となる行動を心がける。それがここ、星ノ川学園に通う生徒の指針である。
校舎の玄関の靴箱の近くには、学校内のお知らせを貼る大きな掲示板がある。そこに一人の女子生徒が仁王立ちをして、一枚の張り紙を見つめていた。
「ごきげんよう、鈴香さん」
佐藤鈴香(さとうすずか)はクラスメイトに声をかけられ、涼やかな声でごきげんようと返し、また張り紙に視線を戻し、小さな声でつぶやいた。
「…どうしよう…」
鈴香の視線の先にある張り紙に書かれているのは
【星ノ川ソレイユ・エントリー受付中】
【星ノ川ソレイユ】とは、星ノ川学園の太陽、全生徒の指針となるべき二人の生徒を指す言葉である。
ソレイユに選ばれた生徒は一年間、学校の代表として学校外での活動にも勤しむこととなる。
なんてことは建前であり、山の奥に建てられ全寮制である星ノ川学園で行われる唯一の娯楽と言ってもいい。
二人の生徒とは、男女それぞれ1名ずつ。つまり【恋人】が選ばれるのある…簡単に言ってしまえば【恋人総選挙】なのだ。
皆で学校一素晴らしい恋人を選ぼうという、伝統ある学校には似つかわしくない、俗世にまみれたようなイベントである。
しかし、ソレイユに選ばれた二人は、学校の代表として、社交界に出入りしたり、貴族、社長・経営者、ありとあらゆる著名人と顔見知りになることができ、歴代のソレイユの中には政界に進出したり、世界の不動産を手に入れ、億万長者と名をはせる者もいた。
ソレイユに選ばれれば名誉だけが手に入るだけでなく、その先の長い人生が左右されてしまうようなイベントなのだ。
なのでこのソレイユに必死になる生徒はとても多い。
そしてそのソレイユに選ばれるために必要条件なのが「恋人」同士であること。
基本的に男女それぞれ1名での選出なのだが、最近は男性同士、女性同士でもエントリーも可能であるが、まだ同性同士のソレイユは選ばれていない。
鈴香はソレイユになりたいという強い意志と理由があった。
ソレイユの存在を知ったの1学年時のエントリーが締め切った後。2学年になった今、今年は絶対にエントリーすると決めていたが、鈴香には必須条件である恋人がいなかった。
ソレイユまで作るぞ!と気合いを入れていたが、むしろ、クラスメイトである男子ともまともにしゃべったことがなかったのだった。
「ごきげんよう、鈴香さん」
「聖良さん…!ごきげんよう」
声をかけてきたのは鈴香の寮のルームメイトであり、友人である常高院聖良(じょうこういんせいら)
透けるような金色の長い髪を靡かせ、にこりと優しく鈴香に微笑みをかける。美貌の美しさだけでなく、小鳥の囀りのような清らかな声、一つ一つ丁寧で無駄のない仕草。お嬢様の見本というような、お嬢様というのはこういう人のことを言うんだなと、鈴香が手本としている人物である。
「鈴香さん、星ノ川ソレイユに出場なさるの?」
「えっ!?いや…その…出たいな…とは思っているんですが…」
「まあそうなんですね!鈴香さんが出場されたら、私、応援しますわ!」
その純粋無垢な眩しいほどの笑顔に鈴香は圧倒されてしまう。同じ女性である鈴香から見ても美しい聖良、男性が黙っているはずもなく、常にラブレターや告白を受けているのを鈴香も知っている。むしろ恋人を作り、聖良がソレイユに出場すれば優勝するのでは?とも思っている。が、以前それとなく聞いた時に、本人は恋人を作ることにも、ソレイユに出場することにも全く興味がないらしい。
聖良は校内の中でも生粋のお嬢様であるため、ソレイユに出る必要がない…ともいえる。
「あら、でも鈴香さん…恋人はいらっしゃるの?恋人がいるというお話は聞いたことがないのですが…」
痛いところを突かれた!と鈴香は空笑いをしてしまう。
「あはは、そう…恋人…恋人は…いないんだけどね」
恋人がいない?恋人で出ることが必須条件のソレイユに?聖良はきょとんとした顔で鈴香のことを見つめていた。
「でも私…ソレイユに出たい…ソレイユに選ばれたいの!」
自分に言い聞かせるように言った言葉。鈴香の決意を表す言葉でもあったが、いささか大きかったようで、数人がこちらをちらりと見た気がした。
いけない、はしたないことをしてしまった!と気づいた鈴香は、なんてね、冗談冗談!と誤魔化しながら掲示板から急いで離れた。
鈴香は慌てて掲示板から離れたので、周囲をよく見ていなかった。
ドン!という前方からの衝撃を受け、鈴香は足元をふらつかせよろけてしまった。
「大丈夫か?気ぃつけろよ」
「す…すみません…」
鈴香がぶつかったのは、鈴香より少し背が小さく小柄ではあるものの、身体の厚みはある。
黒髪短髪、鋭い目つき、頬や手には切り傷があり、傷の手当がなされてる。
襟元はボタンが外され、ネクタイを付けていない男子生徒。
鈴香はその生徒のことを知っていた「有名人」だからだ。
『【小さき黒狼】の剣城昂希(けんじょうこうき)くんだ』
「大丈夫ですか鈴香さん」
「大丈夫です、私がよく回りを見ていなかったので…」
傍に駆け寄ってくれた聖良に礼をいいながら、立ち去る彼の背中を目で追う。
彼が廊下を通ると、周りにいる生徒たちはひそひそと小声で会話をしているのが見えた。
「彼…また喧嘩したんですって」
「まあ野蛮な…お兄様は立派なのに弟は…」
噂話を引き裂くように、始業のベルが鳴り響く。教室に向かう生徒たちに反して、彼は反対方向へと歩いていった。鈴香はなぜか彼から目を離すことができず、教室に入るギリギリまで彼の後ろ姿を見つめていたのであった。
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