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3.本気
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鈴香の実家は星ノ川学園のと同じ市内にある、小さな町工場だった。
長年細々と家族とともに暮らしていたのたが、父親と母親が開発したとある機械が海外の宇宙開発機構の目に留まり、あっと言う間に世界にシェアが広がり、特許も申請していたため、その莫大な特許料も雪崩れ込んできた。
一代で築いた莫大な財産。会社も大きくなり、父と母は楽しそうに仕事に勤しんでいた。急に大金が入り、生活が一変しそうではあるが、父と母は以前と変わらず生活を心掛けていた。
変わったのは家と車が新しくなったことくらい。
鈴香がお腹を空かせて帰ってくれば、母は自らおにぎりを握ってくれた。
そんな優しい母親の唯一の願いが「星ノ川学園に娘を通わせたい」だった。
この市内に住んで入れば、星ノ川学園に通うことは皆が憧れることである。母は幼き頃から星ノ川学園に通うことを夢見ていた。しかし小さき町工場で暮らす母にとってそれは夢、である。
だが、自分は通えなくとも、娘が通える所までお金を手に入れることができたのである。
鈴香はその母親の夢を叶えるために、この星ノ川学園に入学したのであった。
「うち、元は町工場で…ひょんなことからここに通うようになったって感じで、だからお嬢様かって言われたらお嬢様じゃないんだよね」
自分の家のことを話したのは聖良以外初めてである。家柄が重要視されるこの学園の中で、一代で成り上がった家柄はあまりよく思われないらしい。むしろ幼稚園からのエスカレーター式で、高等部から編入してくるのは大抵そういう家柄であると思われているらしい。
高等部に入学してから仲良くなったのは、寮のルームメイトである聖良だけである。
別にクラスメイトに嫌われていたり、いじめられているわけではなく、挨拶は交わすし、少し会話もする。
【家柄が他とは違う】それが鈴香が男子生徒に話しかけずらい理由の一つになっている。
その言葉を聞いて、昂希はずっと黙ったままだった。昂希の家柄は鈴香の家とは正反対である。由緒正しい家柄で、先祖には名のある政治家がとても多く、市内の土地もほとんどが剣城家のもの。市内の人間は「剣城」という名前を知らぬ者はいない、というレベルである。家柄について詳しくしらない鈴香であっても、剣城という家柄だけは知っていた。そんな人に自分の家について話すなんて…と急に気恥ずかしさを感じた。
「ああごめんなさい、こんな話しちゃって。お節介でおにぎり作ったけど、喜んでもらえてよかった、じゃあ私はこれで」
鈴香は立ち上がりその場から立ち去ろうとしたが、ぎゅっと左腕を掴まれ、思わず立ち止まった。
振り返るとすぐそこに昂希が立っていた。
「あんた、ソレイユに出たいんだって?」
鈴香は今朝の出来事を思い出す。恋人がいないのにソレイユに出たい!と宣言する自分の滑稽さを思い出して顔から火が出るような恥ずかしさだった。
「あ…あはは、おかしいよね、恋人いないのにソレイユに出たいだなんて…笑っちゃう…」
「俺とソレイユに出ないか?」
時が止まった気がした。ざわめく木々たちの音が一瞬遠くに感じ、その言葉だけが鈴香の耳に聞こえてきた。聞き間違えだろうか、でももう一度聞くのは失礼だろうかと、その短い時間の間にぐるぐると考えてしまった。
「…悪い、今の忘れてくれ」
そう言うと昂希は鈴香から手を離し、横を通り過ぎようとする。慌てて鈴香は先ほど昂希がしたように、急いで昂希の腕を掴む。
「ちょっと待って…!私とソレイユに出たいって、本気!?それとも冗談!?」
鈴香は昂希の深い灰色の瞳を見つめる。その瞳は逸らされることなく、じっと鈴香の瞳を見つめていた。
「本気」
ざああと大きな風が吹き、二人の間を駆け抜けていった。
長年細々と家族とともに暮らしていたのたが、父親と母親が開発したとある機械が海外の宇宙開発機構の目に留まり、あっと言う間に世界にシェアが広がり、特許も申請していたため、その莫大な特許料も雪崩れ込んできた。
一代で築いた莫大な財産。会社も大きくなり、父と母は楽しそうに仕事に勤しんでいた。急に大金が入り、生活が一変しそうではあるが、父と母は以前と変わらず生活を心掛けていた。
変わったのは家と車が新しくなったことくらい。
鈴香がお腹を空かせて帰ってくれば、母は自らおにぎりを握ってくれた。
そんな優しい母親の唯一の願いが「星ノ川学園に娘を通わせたい」だった。
この市内に住んで入れば、星ノ川学園に通うことは皆が憧れることである。母は幼き頃から星ノ川学園に通うことを夢見ていた。しかし小さき町工場で暮らす母にとってそれは夢、である。
だが、自分は通えなくとも、娘が通える所までお金を手に入れることができたのである。
鈴香はその母親の夢を叶えるために、この星ノ川学園に入学したのであった。
「うち、元は町工場で…ひょんなことからここに通うようになったって感じで、だからお嬢様かって言われたらお嬢様じゃないんだよね」
自分の家のことを話したのは聖良以外初めてである。家柄が重要視されるこの学園の中で、一代で成り上がった家柄はあまりよく思われないらしい。むしろ幼稚園からのエスカレーター式で、高等部から編入してくるのは大抵そういう家柄であると思われているらしい。
高等部に入学してから仲良くなったのは、寮のルームメイトである聖良だけである。
別にクラスメイトに嫌われていたり、いじめられているわけではなく、挨拶は交わすし、少し会話もする。
【家柄が他とは違う】それが鈴香が男子生徒に話しかけずらい理由の一つになっている。
その言葉を聞いて、昂希はずっと黙ったままだった。昂希の家柄は鈴香の家とは正反対である。由緒正しい家柄で、先祖には名のある政治家がとても多く、市内の土地もほとんどが剣城家のもの。市内の人間は「剣城」という名前を知らぬ者はいない、というレベルである。家柄について詳しくしらない鈴香であっても、剣城という家柄だけは知っていた。そんな人に自分の家について話すなんて…と急に気恥ずかしさを感じた。
「ああごめんなさい、こんな話しちゃって。お節介でおにぎり作ったけど、喜んでもらえてよかった、じゃあ私はこれで」
鈴香は立ち上がりその場から立ち去ろうとしたが、ぎゅっと左腕を掴まれ、思わず立ち止まった。
振り返るとすぐそこに昂希が立っていた。
「あんた、ソレイユに出たいんだって?」
鈴香は今朝の出来事を思い出す。恋人がいないのにソレイユに出たい!と宣言する自分の滑稽さを思い出して顔から火が出るような恥ずかしさだった。
「あ…あはは、おかしいよね、恋人いないのにソレイユに出たいだなんて…笑っちゃう…」
「俺とソレイユに出ないか?」
時が止まった気がした。ざわめく木々たちの音が一瞬遠くに感じ、その言葉だけが鈴香の耳に聞こえてきた。聞き間違えだろうか、でももう一度聞くのは失礼だろうかと、その短い時間の間にぐるぐると考えてしまった。
「…悪い、今の忘れてくれ」
そう言うと昂希は鈴香から手を離し、横を通り過ぎようとする。慌てて鈴香は先ほど昂希がしたように、急いで昂希の腕を掴む。
「ちょっと待って…!私とソレイユに出たいって、本気!?それとも冗談!?」
鈴香は昂希の深い灰色の瞳を見つめる。その瞳は逸らされることなく、じっと鈴香の瞳を見つめていた。
「本気」
ざああと大きな風が吹き、二人の間を駆け抜けていった。
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