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2.不気味な人形
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女性の悲鳴が聞こえたので彗星は急いで玄関に向かう。
玄関の扉を開けると、扉の近くで妙齢の女性が腰を抜かしていた。
彼女の名前は「お鶴(つる)さん」
神林夫婦の隣の家に住むおばさんであり、この家の大家さんでもある。
回覧板を持ってきたようで、回覧板が彼女の傍に落ちていた。
「大丈夫ですか?お怪我は…」
差し出した彗星の手を、お鶴おばさんはパッと払いのけた。
「なんてものを玄関に置いているのよ!」
お鶴さんの指さす方向を見てみると、何かが玄関の戸の下に置いてあった。いや、座っていた。
それは黒いおかっぱ髪に綺麗な化粧と赤を下地に紅葉の花柄の着物を着た、少女の人形であった。人形を見て、普通なら「可愛らしい」という形容詞をつけるところだが、その人形の顔はところどころ薄汚れていて、目だけなぜかこちらを見ているような、独特の不気味さがあった。
「怪談小説家なんてただでさえ不気味なのに、こんなものを玄関に置いておくなんて!客人を寄せ付けないつもり!?」
そう、朔夜の仕事は【怪談小説家】である。物書きと言われる職業の中でも、分野というものは色々ある。いつの時代でも人気なのは恋愛ものや推理もの。
その分野の中でも奇々怪々、魑魅魍魎が蔓延り人を怖がらせる話…が、怪談であり、それを書いているのが怪談小説家である。
朔夜は本名で怪談小説家として活動しているので、近所でも有名であった。
当然お鶴さんも知っていた。
「最近はお嫁さんを迎えてちょっとは変わったのかと思ったら…お嫁さんも共犯で私たちを怯えさせて喜んでるの!?」
お鶴さんはまだ腰の抜けた状態だが、すごい勢いと表情でまくし立ててきた。
「そんなつもりはありません!それにこの人形、私は何も…」
その時、彗星の耳に小さな話し声が聞こえてきた。
「うちの妻が何かしましたか?」
そう言って朔夜が彗星の前に立ちはだかった。
うちの妻、の一言を初めて聞いた!彗星の心は一瞬にして色めきたった。が、一瞬にして現実に引き戻された。
「なんで玄関にこんな不気味な人形を置いてるのよ!びっくりして腰が抜けちゃったじゃない!ケガしてたらどうするのよ!」
朔夜はちらりとその少女の人形を見た。
「私の人形ではありません」
え?と面喰ったようなお鶴おばさんに、朔夜は近づき、立てますか?と手を差し出し、腰を支えながら立たせてあげた。
「誰かが勝手に置いていったんでしょう。私が怪談小説家ということで、曰く付きの物をどうにかしてくれるんじゃないかと思って、こうやって置いていく人が多いんですよね…」
しまったと言う感じか、朔夜はちらりと彗星の方を見て、自分の口元を手で覆った。
朔夜の話を聞いて、お鶴さんはひぃい!と声にならない悲鳴をあげ、一目散に逃げて行った。
朔夜は埃を払うように人形の着物を撫で、目を細め見つめていた。いつもは鋭い目つきの朔夜だが、人形を見つめる瞳はどこか優しげであった。
初めて見る表情に彗星は見とれるように朔夜の顔を見続ける。ちらりとこちらを見た朔夜と目が合うが、朔夜はいつもの無表情に戻り、その人形を抱きかかえ家の中に入ろうとする。
「あ、あの…ちょっと待ってください!」
彗星は慌てて朔夜の着物の裾を掴む。
「…なんですか?」
「あの…その人形…どうするんですか?」
彗星は気になってしまったのだ。人形に優しい瞳を向ける理由について。
「…どうするにも…できませんよね。持ち主も分かりませんし…せめて【物語】くらい分かればいいのですが…」
と、最後の方は彗星に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でつぶやいた。
「物語?」
きょとんとする彗星にたいして、朔夜はもういいでしょうと踵を返し家の中に入ろうとするが、彗星はせっかくの朔夜との会話のチャンス。そして朔夜のことも少しは分かるかもしれないと、着物の裾を放さず、朔夜のことを見つめ続けた。
朔夜は多分話すつもりはなかったのだろう。小さくため息をついてから彗星に話を始めた。
「我々怪談小説家、もとい怪談を話す怪談士にとって曰く付きの物以上に、その物に付随する物語は何よりも大事なんです。例えば、この人形は呪いの人形で、人を呪い殺すとか…」
「の…呪い!?」
例えです。と、朔夜は誤魔化すように咳払いをした。
「そういう物語があるとよりこの人形の怖さが際立ちますよね、でもこの人形にはなにもない。曰くがついていたとしても、教えてもらえなければただの人形なんです」
こんなに話す朔夜さんを初めて見るな…と、彗星は朔夜の美しい黒髪と端正な顔立ちをポーっと眺めていた。
いつの間にか彗星は朔夜の着物の裾を離していたので、朔夜は颯爽と家の中に入って行ってしまった。
あっ!と思い、彗星は慌てて朔夜のことを追いかける。
「せめて持ち主さえ分かればいいんですがね…」
そう小さく呟く朔夜にたいして、返事をするかのような声が聞こえた。
〈…ヒ…ヒ…ガ…シ…ヤ…マ〉
朔夜を追いかけていた足が止まる。
「…朔夜さん、今何か言いましたか?それか、他の人の話声聞こえましたか?」
「いえ、私は何も言ってませんし、他の人の声も聞こえませんでしたが、何か聞こえました?」
「いや…!遠くでお鶴さんの声がしたような気がして…!後でお鶴さんの様子を見に行かないとなーって」
彗星は慌てて誤魔化すように両手を振った。
ああ、やっぱりそうだ。この人形の「声」が聞こえたんだ。彗星は体がずんと重くなるのを感じた。
玄関の扉を開けると、扉の近くで妙齢の女性が腰を抜かしていた。
彼女の名前は「お鶴(つる)さん」
神林夫婦の隣の家に住むおばさんであり、この家の大家さんでもある。
回覧板を持ってきたようで、回覧板が彼女の傍に落ちていた。
「大丈夫ですか?お怪我は…」
差し出した彗星の手を、お鶴おばさんはパッと払いのけた。
「なんてものを玄関に置いているのよ!」
お鶴さんの指さす方向を見てみると、何かが玄関の戸の下に置いてあった。いや、座っていた。
それは黒いおかっぱ髪に綺麗な化粧と赤を下地に紅葉の花柄の着物を着た、少女の人形であった。人形を見て、普通なら「可愛らしい」という形容詞をつけるところだが、その人形の顔はところどころ薄汚れていて、目だけなぜかこちらを見ているような、独特の不気味さがあった。
「怪談小説家なんてただでさえ不気味なのに、こんなものを玄関に置いておくなんて!客人を寄せ付けないつもり!?」
そう、朔夜の仕事は【怪談小説家】である。物書きと言われる職業の中でも、分野というものは色々ある。いつの時代でも人気なのは恋愛ものや推理もの。
その分野の中でも奇々怪々、魑魅魍魎が蔓延り人を怖がらせる話…が、怪談であり、それを書いているのが怪談小説家である。
朔夜は本名で怪談小説家として活動しているので、近所でも有名であった。
当然お鶴さんも知っていた。
「最近はお嫁さんを迎えてちょっとは変わったのかと思ったら…お嫁さんも共犯で私たちを怯えさせて喜んでるの!?」
お鶴さんはまだ腰の抜けた状態だが、すごい勢いと表情でまくし立ててきた。
「そんなつもりはありません!それにこの人形、私は何も…」
その時、彗星の耳に小さな話し声が聞こえてきた。
「うちの妻が何かしましたか?」
そう言って朔夜が彗星の前に立ちはだかった。
うちの妻、の一言を初めて聞いた!彗星の心は一瞬にして色めきたった。が、一瞬にして現実に引き戻された。
「なんで玄関にこんな不気味な人形を置いてるのよ!びっくりして腰が抜けちゃったじゃない!ケガしてたらどうするのよ!」
朔夜はちらりとその少女の人形を見た。
「私の人形ではありません」
え?と面喰ったようなお鶴おばさんに、朔夜は近づき、立てますか?と手を差し出し、腰を支えながら立たせてあげた。
「誰かが勝手に置いていったんでしょう。私が怪談小説家ということで、曰く付きの物をどうにかしてくれるんじゃないかと思って、こうやって置いていく人が多いんですよね…」
しまったと言う感じか、朔夜はちらりと彗星の方を見て、自分の口元を手で覆った。
朔夜の話を聞いて、お鶴さんはひぃい!と声にならない悲鳴をあげ、一目散に逃げて行った。
朔夜は埃を払うように人形の着物を撫で、目を細め見つめていた。いつもは鋭い目つきの朔夜だが、人形を見つめる瞳はどこか優しげであった。
初めて見る表情に彗星は見とれるように朔夜の顔を見続ける。ちらりとこちらを見た朔夜と目が合うが、朔夜はいつもの無表情に戻り、その人形を抱きかかえ家の中に入ろうとする。
「あ、あの…ちょっと待ってください!」
彗星は慌てて朔夜の着物の裾を掴む。
「…なんですか?」
「あの…その人形…どうするんですか?」
彗星は気になってしまったのだ。人形に優しい瞳を向ける理由について。
「…どうするにも…できませんよね。持ち主も分かりませんし…せめて【物語】くらい分かればいいのですが…」
と、最後の方は彗星に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でつぶやいた。
「物語?」
きょとんとする彗星にたいして、朔夜はもういいでしょうと踵を返し家の中に入ろうとするが、彗星はせっかくの朔夜との会話のチャンス。そして朔夜のことも少しは分かるかもしれないと、着物の裾を放さず、朔夜のことを見つめ続けた。
朔夜は多分話すつもりはなかったのだろう。小さくため息をついてから彗星に話を始めた。
「我々怪談小説家、もとい怪談を話す怪談士にとって曰く付きの物以上に、その物に付随する物語は何よりも大事なんです。例えば、この人形は呪いの人形で、人を呪い殺すとか…」
「の…呪い!?」
例えです。と、朔夜は誤魔化すように咳払いをした。
「そういう物語があるとよりこの人形の怖さが際立ちますよね、でもこの人形にはなにもない。曰くがついていたとしても、教えてもらえなければただの人形なんです」
こんなに話す朔夜さんを初めて見るな…と、彗星は朔夜の美しい黒髪と端正な顔立ちをポーっと眺めていた。
いつの間にか彗星は朔夜の着物の裾を離していたので、朔夜は颯爽と家の中に入って行ってしまった。
あっ!と思い、彗星は慌てて朔夜のことを追いかける。
「せめて持ち主さえ分かればいいんですがね…」
そう小さく呟く朔夜にたいして、返事をするかのような声が聞こえた。
〈…ヒ…ヒ…ガ…シ…ヤ…マ〉
朔夜を追いかけていた足が止まる。
「…朔夜さん、今何か言いましたか?それか、他の人の話声聞こえましたか?」
「いえ、私は何も言ってませんし、他の人の声も聞こえませんでしたが、何か聞こえました?」
「いや…!遠くでお鶴さんの声がしたような気がして…!後でお鶴さんの様子を見に行かないとなーって」
彗星は慌てて誤魔化すように両手を振った。
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