怪奇談士と訳あり妻

しきしまそう

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3.彗星の過去

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彗星が生まれた時は家族や使用人、親戚が祝福してくれた。しかし、彼女が物心つく頃にはその祝福に反するかのように、冷たい視線が彗星へと送られた。
「ねえお母さま、お母さまの持ってる真珠
のイヤリング、あそこにあるよーって言ってるよ」

そう彗星が言うと、失くしたはずの真珠のイヤリングが彗星が指を指す場所に落ちていた。

「お父さま、お父さまの乗っている車、早く洗ってくれって言ってる。泥がたくさんついているのが嫌なんだって」

「ねえ織姫ちゃん、もうちょっと人形に優しくしないとだめだよ。乱暴にされて痛いって泣いてるよ」

そう妹の織姫に告げれば、そんなの嘘よと金色の髪をした人形を放り投げてしまった。

彗星は「物の言葉が聞こえる」能力を持っている。

八百万の神。この日の国には昔から万物に神が宿っているという。つまり、どんなものにも魂が宿っているのだ。その魂が宿ることに、新しいも古いも関係はない。
彗星はその魂が宿った物の言葉を感じとることができるのだ。
最初は優しく対応していた両親であったが、だんだんとその能力が疎ましく感じてきたのだ。
他と違うことをいう子…「普通」という基準から外れてしまうというのは、名家の娘としては、家の評判すらも危ういものとしてしまう。

なので、学校に通い始めた時も、外でこういうことは言ってはいけないときつく言われていた。
彗星も両親の言いつけ通り、物の言葉が聞こえても誰かに話しをしないようにしていたのだが、ある時のことをきっかけに、学校でも物の言葉が聞こえることを話てしまったのだ。
その結果、友人からは距離を置かれ、その話が両親の耳に入った。両親は彗星を叱咤することもなく、ただ小さくため息をついた。

ああ見捨てられてしまったのだなと彗星をその夜、一人涙を流した。
物がしゃべるわけがない、ウソをついてる。いろんな人に言われてきたが、ウソではない。彗星の耳にははっきり聞こえてくるのだ。いや、耳を塞いだこともあったが、聞こえてくる。その声は必死に彗星に訴えかけてくるかのようだった。
そんな必死な物たちの言葉を、彗星は無視することができない。結局、物の言葉を聞き対応してしまうのだった。

過去の出来事を走馬灯のように思い出していた。
今は結婚し、家も出ている。この近所には自分を知っている人は誰もいない。彗星を「うそつき」と呼ぶ人は誰もいない。
だからこそ、自分が物の言葉を聞くことができるということは誰にもバレたくはないのだ。
怪談小説家・怪談士を生業とする朔夜は、もしかしたらこの能力を認めてくれるのでは?そう思うこともあった。
でも、朔夜に嫌われてしまったら…自分は実家に戻ることも、どこにも行くことができない…そう思うと何も言えないのであった。
彗星は台所で一人で悶々と考え事をしていた。そのせいで背後に立つ気配に気づくのが遅れてしまった。

「あの…」
「ひゃー!!」

大きな声を出す彗星にびっくりした朔夜は後ずさりをして壁にぶつかった。

「な…なんですか朔夜さん!!」
「いえ…お茶を飲みたかったのですが淹れようとしたのですが、あなたがずっとここに立っているから…」
「す、すみません!考え事をしていて…あっ!…お茶なら私がいれます!」

急いでお茶の準備をする彗星が、ちらりと朔夜の方を見ると、顔に影がかかり、どこか疲れているようだった。

「あの、お仕事大変なんですか?疲れているように見えますが…」
「ええ…まあ、ちょっと小説を書くことに行き詰っていまして…そんな時にあの人形が家にやってきたので、何かいいネタになるかと思ったのですが…」

ため息を誤魔化すように、熱い緑茶を口に入れた。
朔夜は1日中部屋に籠って仕事をしているが、こんなに疲れた顔を見るのは初めてだったので、相当行き詰っていることを彗星も感じとれた。

仕事が頭から離れないせいなのか、朔夜は左手に愛用の黒い万年筆を握りしめたままだった。
その万年筆が彗星に訴えかけた。

〈こんなに仕事が進まない朔夜を見るのは初めてだよ!締め切りは明日だぞ!?大丈夫か!?すでに締め切りは一回伸ばしてもらってるし…どうにか仕事進めないと!〉

こんなに焦っている万年筆を見るのは初めてだった。父の部屋にあった万年筆は、いつも仕事がなくて暇だとか、たまには洗浄してくれないかなと常にのんびりしていた。

彗星はぐっと唇を嚙み締め、先ほどの朔夜の言葉を思い出した。

「あの…」
「はい?」
「さっきの人形…もう一度見せてもらえませんか?」
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