怪奇談士と訳あり妻

しきしまそう

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11.妹・織姫

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妹の織姫は彗星より二歳年下。

綺麗な亜麻色のロングヘアーを緩やかに巻いており、その美しい容姿にとてもよく似合っている。姉の彗星とは違い、社交界によく顔を出しているので、服装も今流行りなのだろう、お洒落で派手な洋装を着ている。

高いヒールをカツカツとならし、彗星に一歩一歩と近づいた。

「どう?新婚生活は、仲良くくらしてる?」

「…おかげ様で…」

「そうそう、お姉ちゃんに結婚のお祝いを渡してなかったなーって思って、届けてもらったんだけど」

ここ数日、家に何か宅配されてきたものや、郵便で届いてきたものはない。何を言っているんだろう、それとも朔夜さんが何か受け取って私に渡していないものでもあるんだろうか?と彗星は思考を巡らせる。

「せっかくお姉ちゃんにぴったりな物を送ったのに、夜中に泣き出すお人形」

「!あのお人形を玄関に置いたの、織姫ちゃんだったの!?」

奥様が人形は別の誰かに頼んで、この家に置いたことは話に聞いていたが、まさか実の妹が置いていったとは思わなかった。

「正確には私じゃないけど、呪われたら嫌じゃない?だから使用人に届けさせたの」

織姫はため息をつき、腕を組む。彗星は身構えた、あれは織姫が自分の意にそぐわないことが起こっているときにやる体勢であったからだ。

幼い頃、この体勢を取る織姫に何度も詰め寄られたことがある。

「どうして持ち主のところに持っていったりするの?おかげで私が奥様から怒られちゃったじゃない…最悪。あの奥様、ただでさえ気が強いのに…」

「織姫ちゃんだったの、奥様に私のこと話たの」

「そうそう、うちの変わった姉なら、喜んでその人形を受け取ってくれるってね、で、あの人形はどうしたの?まさか怖くなって捨てた?」

彗星が言葉を発しようとしたとき、肩を掴まれ引き寄せられた。

「人形なら我が家で引き取り、大切にするとお約束しました」

「朔夜さん!」

夫が妻を守るような雰囲気にと、初めて見る安心しきった姉の表情を見て、織姫の眉間に皺が寄る。

「さすが怪談小説家のお義兄様ですわ、うちの姉が人形が恐ろしくなって奥様に返しに行って…ご迷惑をおけしたのではないですか?」

「…そんなことは一切ありませんでしたが。そうですね、まず貴方にお礼を言わなければなりません。この人形のおかげて私の仕事の参考になり、無事締め切りに間に合いそうなので」

そうだ締め切り!彗星は朔夜の仕事の締め切りが明日であるということを思い出した。

「朔夜さんお仕事忙しいですよね、あの…私は…」

「少しくらい大丈夫です、それに貴方のご家族にはきちんと挨拶をしていなかったので」

朔夜は彗星の前に立ち、織姫と対峙する。朔夜の身長はヒールを履いている織姫よりも高く、織姫が見上げる形になっている。朔夜の通常の表情である無表情に合わせて、その見下ろすような形が無意識に織姫を威圧する形となっていた。

「結婚のお祝いのようで、ありがとうございました。私の仕事の役にも立ちますし、もしまたこのようなものを送られるさいには、持ち主の情報も一緒に教えていただけるとありがたいです。その物の詳しい話を聞きたいので」

朔夜はただ淡々と話をしているだけなのだが、社交的な織姫はこういう人物と初めて出会うのか、

どうしたらいいのか分からずしどろもどろになってしまっている。

「さ、さすが怪談小説家さんですね…仕事に熱心で…私はこの後用事があるのでこれにて失礼しますわ」

織姫は二人に背を向け、洋服の裾を持ち、足早に家から出て行った。

織姫はどうやら車でここまで来ていたようで、玄関前に付けていた黒塗りの車に素早く乗り込み、そのまま車は走り出した。
普通の姉妹であれば、見えなくなるまで手を振ったり、別れを惜しむのであろう。でも彗星と織姫は【普通の姉妹】ではないようで、ただただその姿を目で追うしかできなかった。

「あの…ありがとうございました」

「いや別に、私は貴方の妹にお礼と挨拶をしただけです」

確かにそうではあるのだが、彗星は、朔夜が助けてくれたのではないかと思っていた。

昔は姉妹ケンカ…というより、一方的に織姫から詰められることが多かった。彗星が悪くなくても、悪者にされるのはいつも彗星の方であった。

今回は朔夜のおかげでヒートアップすることなく、早々に織姫は帰ってくれた。

朔夜が来てくれるだけで、こんなに安心するんだ…と彗星は自分の胸に手に置いた。

初めて感じるこの感覚、感情。嬉しくてたまらなかった。

今まで妹とケンカをしていても、誰も彗星に味方をしてくれる人がいなかった。でも今は、自分の味方をしてくれる人がいる…。

「本当に…嬉しかったんです…」

彗星のとろけるよな微笑みを見て、照れくさくなったのか、朔夜は急いで自室へと戻り、その後仕事のために部屋に籠りきりとなった。

やはり仕事は忙しいようで、食事も一緒にとることはなかった。

しかし、今までのように寂しい気持ちはなく、今はお仕事が忙しいのが分かっている。そして朔夜は自分のことを嫌っていないという事実を知り、安心感があった。

〈ゴハンクライイッショニトレバイイノイ…オトメゴコトノワカラナイヒトネ〉

紅葉は朔夜の部屋にずっと居るのは嫌なようなので、彗星の傍にいることが多くなった。

「そうね、でも締め切りは明日って言ってたから仕方ないよ」

こうして、おしゃべりする相手もできた。そしてここには、物とおしゃべりをしても文句を言う人も、怪訝そうな顔をする人もいない。

今まで、自分の能力を外に出すのはいけないと、物たちとしゃべることは極力控えてきた。

しかし、こうして自由に物たちとおしゃべりできることが、とても幸せであるという自分の感情にも初めて気づいた。

彗星は静かに涙を流した。

〈ドウシタノ?ナニカカナシイコトデモオモイダシタ?〉

彗星は慌てて涙を拭った。

「ううん、違うの。私も初めてのことでびっくりしちゃった…人って、嬉しくても涙を流すんだね」

朔夜の部屋からは賑やかな声が聞こえる。どうやら曰く付きの物たちが原稿をしている朔夜をみんなで応援しているようだった。

後でお夜食に何かを作って持っていってあげよう、何を作ればいいのか、人形の紅葉に相談する彗星であった。
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