怪奇談士と訳あり妻

しきしまそう

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10.夫婦として

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「長年人と話をしてこなかったので、どのように話を聞いたらいいのか…分からなかったんです」

突然の告白に彗星は両の目を大きく見開いて驚いた。

孤独な幼少期を過ごしたと言っていたが、そこまで人と関わらず過ごして来たのかという驚き。そして悲しみの感情が彗星を襲う。

彗星も孤独に過ごしては来たが、物たちが自分たちに話かけて来るので、会話をする相手に困ることはなく、孤独ではあったが実質孤独ではなかったのかもしれない。

しかし、朔夜は【匂い】を感じるという特異な能力で、彗星とは違い、人間意外と会話することがない、本当の孤独を感じながら長年過ごしていた。

それ故、結婚したのはいいが、どう会話していいのか分からなかった、ということだった。

彗星は朔夜の両の手を握りしめた。

「なら、これからはたくさん私とおしゃべりをしましょう!」

彗星は朔夜に笑顔を向けるが、朔夜は照れ臭そうに顔を背けてしまう。

「小説なら、すらすらと書くことができますが…貴方が望むようなおしゃべりはできないかもしれませんよ」

「私は、朔夜さんと話せるならどんなおしゃべりでも嬉しいですし、楽しいです!これからたくさんおしゃべりしてください、朔夜さんのこと…これから色々と知っていきたいんです!」

嘘偽りのない真っすぐな瞳で朔夜を見つめる。

そして、朔夜は今まで嗅いだことのない、花のようないい香りがふわりと漂った。

結婚してから約一か月、この日、二人が夫婦としての始まりの日となった。

ひゅーひゅーと朔夜の部屋の物たちは二人を囃し立てる。その声を聴いて彗星は照れ臭そうに笑ってしまう。

〈ワタシノオカゲデ、フタリハナカヨクナッタノカシラ?〉

彗星の鞄の蓋が開き、中から人形がひょっこり顔をだした。

「ふふ、そうだね」

彗星は人形にも微笑みかける。

「人形が何か言ってるんですか?」

〈ニンギョウデナク、ワタシニハモミジトイウナマエガアルノ!〉

「私には紅葉という名前がある!だ、そうです。そう、紅葉ちゃんって言うんだね、紅葉ちゃんこれからよろしくね」

彗星は人形を抱き上げながら、改めて挨拶をした。

「よろしくお願いいたします紅葉さん、先住している皆さんとも仲良くしてください」

朔夜は自分の背後にある棚の中にいる、曰く付きの物たちにも人形の紅葉を紹介した。先住の物たちは口々にようこそー!仲良くしようぜー!とハイテンションに声をかける。

しかし、今まで牡丹お嬢様と二人だけで過ごして来た紅葉にとって、そのハイテンションなノリは新鮮なようで、なんかすごいところに来ちゃったわ、などどぶつぶつ言っていた。

これからはお互い夫婦として、そして、曰く付きの物たちと一緒に、楽しく過ごしていけそうだ、彗星は今までの人生の中で最高の幸福感を感じていた。

朔夜も同じ気持ちなのか、優しい微笑みを彗星に向けていた。初めて見る朔夜の表情。これからたくさん、いろんな朔夜の表情が見れるかと思うと、彗星は楽しみで仕方がなかった。

そんな二人の平和な時間を引き裂くかのように、玄関のチャイムがなった。

「…誰でしょう、もう夕方になるのに…」

時刻は夕方、空も茜色に染まる。そろそろ夕餉の支度もしなくてはいけないのに、と彗星は急いで玄関へと向かう。

朔夜は紅葉を自室の棚へと置いた。朔夜自身は物の声は聞こえないが、楽しい時間を過ごしているのか、柑橘系のさわやかな香りが漂った。

しかし、朔夜の鼻孔を刺激するような匂いが風に乗って漂ってきた。

これは昼間にも感じた匂い、悪意の匂いだ。匂いは彗星が向かった玄関の方から漂ってくるのが分かった。

朔夜は彗星を追うように急いで玄関へと向かう。

彗星が玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは。

「お久しぶり、お姉ちゃん」

「織姫ちゃん!?」

結婚をしてから一度も会うことがなかった、彗星の妹・織姫だった。
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